電撃のお持ち帰り
金鎚が偶然触れた所から光になって消滅していくゾンビ。
「え?え?」
何これチート?わけ分からない世界に慣れて私もわけ分からない力を身につけたのか?しかしそんなことを考えている暇は無い。ゾンビは次々寄ってくる。
「く,来るなぁ!」
胡散臭いが他に頼れるものもない,抵抗しなければおいしく食べられてしまう。片っ端からハンマーで叩く。次々と光になって消滅していくゾンビ。そのうちに私の中で何かが切れた。
「や…やってやる!やってやるぞ!私だってぇ!」
丸太小屋の外へと飛び出す。外にはまだかなりのゾンビ。
「光にィ,なァれェー!」
絶叫しながら次々と,寄ってくるゾンビを殴る。ピコピコハンマーでゾンビを次々殴って光に変えるセーラー服の乙女。画的にはなかなかにシュールだがすでに振り切れた私には些細な事。
「はぁ…はぁ…」
とりあえず身の危険は脱したようだ。大きく肩で息をする。すると向こうに馬に乗った割とイケメンな騎士風の男がやってきた。え?王子様?私を迎えに…?なんて壊れた頭で柄にもない事を考える私。でも馬黒いし…てか鎧も髪も,上から下まで真っ黒け。
馬を降りて近寄ってくる謎の割とイケメン。ぼんやりと眺める乙女な私。しかし彼の口から漏れたのは…。
「随分と勇ましい女子高生だな…」
何!?好きでこんな事してたわけじゃないぞ!これでもか弱い乙女なんだ!そもそも高専と高校をごっちゃに…え?待って,今何て言った!?女子高生?この人…私の素性が分かる人!?
「どうした?女子高生じゃないのか?」
「あ…」
同類だ,格好こそこんなだけど,この人は私の居た場所を知っている…。そう思った瞬間体中の力が抜けてぺたりと座り込む。心の奥底に沈めていたもろもろが猛烈な勢いで浮いてきて理性のリミッターを粉砕する。
「う…っ,ふぐっ…ふええぇぇぇぇ…」
恥も外聞ももはや気にする余裕は皆無。感情に任せて泣く,泣く,泣く…。黙って見つめる割とイケメンの目が事情を分かった者の優しさに溢れているように見えてそれでまた泣く。
ところが。まだいたゾンビが彼のすぐそばに。体中から力が抜けて何もできない。目を丸くしてぼんやりとそれを見つめる事しかできない私のすぐ前で,彼はゾンビの頭を手甲をはめた手で掴む。
「!?」
次の瞬間,ゾンビの四肢から放電。黒焦げになって崩れ去る。何それチート!?まさかの電気人間かこの人!?でも私のアレも似たようなものか…?
立てるか?と言われたけど腰が抜けたようで立てない。そんな私をひょいとお姫様抱っこする彼。一緒に来るか?と突然にしてまさかのお持ち帰り発言!?いやいや待て待て飛躍しすぎだ。いくらなんでもそれはありえない。でも…私の素性を知っている人なら,この人も孤独な人だ。きっと仲間にはなれる。分かり合える。
「うん…」
良くしてくれたオヤっさんの事がちょっと引っかかったけど。落ち着いたら連絡するよ。私は居場所を見つけたんだ。