その名はゴッデス・ハンマー
一緒に過ごしてみると,オヤっさんはこれでなかなか良い奴だった。外見からはとても想像つかない…というとまた怒り出しそうだが面倒見が良い。何のかんのと言いながらも気を遣ってくれる。正直はじめの頃はお遊び程度でとても働いたとは言えない内容だったが,バイト代も弾んでくれた。だから生活用品もそろえることができたし,それなりに快適な暮らしを送らせてもらってる。
はじめはオヤっさん破産すんじゃないのか?と思ったが実は腕も良い。注文は結構入っているようだし装飾品なんかよく分からない私でさえほれぼれするほどだ。聞くところによるとドワーフってのは手先が器用な生き物らしいが,オヤっさんの腕だろ?と言ってやるととても喜ぶ。初めは何考えてるのか分からなかったが,次第に表情の変化が読めるようになってきた。こっちも何となく嬉しい。
ただ文句があるとすれば私の呼び名。こっちがオヤっさんと言い始めたのに対抗するように,勝手に私の呼び名をつけた。レディ…というのはさすがに自分でもアレだがいくら何でも坊主はないだろう,坊主は。
こっちでの生活にも手伝いにも慣れてきたある日,そろそろ坊主も打ってみるか,と好きな物を打たせてもらえる話になった。剣とか鎧とか難しそうだし,軽くハンマーでも作ってみるか。我ながら感傷的だが昔を思い出して,ピコピコハンマーみたいな両側で叩ける奴にした。あんまり重くならないように片手サイズの小さめな奴を作る。
おまじないの言葉を刻むのが良いと言われて。おまじないならアレだ,と〈悪霊退散〉にする。なんとなく楽しくなって,悪霊を退散させるなら光にしちゃおうと〈光になれ〉も刻む。
それを見たオヤっさん。見た事も無いような難しい表情でしばらく力作を凝視したあと,腹を抱えて大笑い。頭大丈夫か全然読めねぇぞって,何だと!これでもそこそこ上の方だったんだと久しぶりに大ゲンカ。
坊主坊主と散々言われて悔しいので,こっそり初めての作品に名前を付けた。さすがに恥ずかしいので誰にも言うことはないだろうけど。女神の金鎚。私のお守りだ。