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反乱軍の内政事情



 帝国兵を倒した俺は、反乱軍の人々によって邪神と称えられた。

 彼らは俺をほめちぎりながら、本拠地の砦にある部屋へと案内してくれた。

 執務室のような場所だ。大きな机と椅子、それらが窮屈にならないほどの広さ、それからロウソクや時計が置かれている。

 

「ロウソクです。ソファーです。本です」


 テレーザがその青い瞳を輝かせながら部屋の中を跳ねまわっている。彼女はこういったところに来るのが初めてだから、何もかもが珍しくて仕方ないのだろう。

 よしよし、そのまま大人しくあちこち見てろ。くれぐれも変なこと口走るんじゃないぞ?


 そして俺の隣には剣を携えた女の子が立っている。今は胸当てのような防具を外し、スカートとブラウスを身に着けている。

 黒い長髪の少女、クラリッサだ。


 ギロリ、と睨まれている俺。

 警戒されている。

 俺、命の恩人なんだから、もっと感謝されてもいいと思うんだけど?


「ばっかじゃないの! みんな邪神邪神って。どこからどう見てもただの人間じゃない!」

「まあ、俺は自分のことを邪神だって名乗るつもりはないから、そう言ってくれる方が嬉しんだけどな」

「はぁ? あんたに聞いてないわよ」


 クラリッサは柳眉を歪め、呆れるように言った。じゃあ誰に言ってるんだよ? と問いかけたくなる。

 確かに、聖書に記載されている邪神カイは、それはもうおぞましい姿で描写されていた。角とか牙とか肌の色とか、もう明らかに人間じゃないレベル。


「ねえ、あんた〈邪法使い〉なの?」

「なんだその〈邪法使い〉ってのは?」

「はっ、『邪神ですから人間の言葉ワカリマセン』てわけ? いいわ、教えてあげる」


 クラリッサは得意げに鼻を高くした。


「邪法はね、この世界中にある邪悪な力を集めて、火や水を生み出したりする技術よ。たまにあんたみたいなはぐれ〈邪法使い〉が現れるけど、そういうのはまれ。大抵は教団に所属してるわ」

「要するに魔法のことか」

「……? なにそれ? あんたの住んでた田舎では、邪法のことをそう呼ぶの?」

「……あ、ああ」


 どうやらこの時代にも、一応ではあるが魔法は存在するらしい。ただ俺の魔法を見て驚きまくってたところを見ると、そのレベルはたかが知れているだろうが。

 邪竜エミーリアの属する勢力が使っていた技術。ゆえに邪法なのだろう。


「……まあとにかく、俺はその〈邪法使い〉という奴なんだ。実力はさっき見せた通りで、帝国をあまり心よく思っていない。よければ力を貸したいと思っている。どうだ? 悪い話じゃないと思うんだけど」


 リーダー云々はおいておいて、とりあえずこの組織に身を置くことにしよう。


「そうね……。悪くない話だと思うわ」


 クラリッサは軽く頷いた後、大きく机を叩いた。


「でもね、いい、勘違いしないで。この反乱軍のリーダーはお兄ちゃんなの。あたしは副リーダーで、あんたはどこの誰か分からない、邪神なんて名乗る頭のおかしい人。あたしたちを助けてくれたのは事実だから、こうして招き入れてはいるけど……、もし不審なそぶりを見せたら、すぐに追い出すからね」

「ふーん」


 徐々に事情が理解できてきた。そのリーダーとやらがいなくなったせいで、反乱軍が弱体化したわけだ。そして、この機に反乱を鎮圧しようとして、あれだけの鎮圧部隊が整えられたわけだ。

 それにしても――


「で、そのお兄さんとやらは今どこにいるんだ? 組織が壊滅しかけなのにこの場にいないなんて……大したリーダーだな?」

「そ、それは……。この前の戦闘で、行方不明になっちゃって、それで……」


 クラリッサはやや俯いた。


 ……戦場での行方不明。それはほぼ死と同意語だ。


「と、とにかく、他の奴らは『邪神様をリーダーに』なんてふざけたこと言ってるけど……。ついこの間やってきたばっかりの新入りを、あたしはリーダーだなんて認めないんだからっ!」 

「ま、まあそうなるよな。落ち着けって」

 

 言うまでもなく、この少女は優秀だ。

 邪神などと言う迷信を信じず、配下を必死に鼓舞し、そして今も仲間のために怪しい俺を監視している。

 俺は祖国の名誉を上げるため、この地に自らの国を作り上げたい。その時に幹部として活躍してもらう人間は、的確な判断力と教養を持つこの少女のようでなければならない。

 魔法で洗脳するのは容易いが、ただ命令をこなすだけの廃人を作り上げても仕方ない。

 何とかして、この少女に俺のことを認めさせ、名実ともにリーダーとして君臨できないものだろうか。



 俺は魔法で何とかできるが、他の人間までそういうわけではない。

 俺一人で帝国全土を制圧するのは不可能だ。後々のことを考えると、この反乱軍をまとめ上げ……国家として機能させる必要がある。

 そのためには、この地の内政面を理解する必要がある。


 俺は畑にやってきていた。

 この辺りは主に、反乱に参加している農民たちが持っている土地らしい。なるほど、確かにひと目見てわかるほどに土は固く、そして水源らしきものは見られない。

 だが、それでも畑はたくましくも耕され、そこには穀物や野菜が生えていた。


 農民反乱というだけであって、食糧事情はあまり問題なさそうに見える。だが、あまり植えられている作物たちが元気そうには見えない。

 今を生きる分には問題ないだろう。しかしこの量では、売って金にするとか遠征の兵糧にするといったレベルには至れない。

 近くで農作業していた男に声をかける。反乱軍で兵士として働いてた一人だ。


「あ、邪神様」

「いや、俺はカイって名前なんだ。邪神って名前はちょっと……」


 もう俺の名前、完全に邪神で定着してしまっているような。


「あまり農地も向いてない土地だと思えるんだが、ここで野菜を育てていて長いのか?」

「…………」


 農民は不機嫌そうに舌打ちをした。


「帝国のやつら、いい土地ばっかり占有して、俺たちには貧しい地域を押し付けやがる。水もねぇ、土地が枯れてる、こんな場所でどう暮らせって言うんだっ!」

「水はどうしてるんだ? 雨に頼ってるのか」

「近くの川まで、男連中が汲みに行くのさ。雨が降りゃそれまでなんだがな」

 

 なるほど、それは確かに効率が悪い。


「邪神……あ、カイ様、すげー力を持ってんだろ? だったらさ、その暗黒パワーでなんとかしてくれよ! な?」


 あ……暗黒パワー。

 なんだそれは。ま、まあ魔法が邪法と呼ばれ蔑まれてるこの世界だ。俺のパワーなんて闇の力そのものに見えてしまうのだろう。

 ここは……。


「そうだな、とりあえず祈ってみるといいんじゃないのか?」

「はぁ? アーク神に? 俺たちゃあいつらに搾取されてこんなんになってんだぜ? そんな奴らに」

「違う違う……。アーク教団はあんたたちを搾取したんだ。そんな奴らに祈らなくていい。世の中には神なんていないんだ。祈るはアーク神でもなければ邪神でもない。自分の内なる正義の心に、な?」

「は……はあ?」


 俺は笑ってウインクをした。


読んでくださってありがとうございます。


内政回。

たぶん国を豊かにする答えって、いろいろあると思うんです。

その中で何を選択するか、なかなか難しいテーマではある。

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