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転生したら祖国滅亡? ~仕方ないので建国チーレムする~  作者: うなぎ
邪竜エミーリア編

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73/76

問題の先送り

 カイとリチャードが熾烈な争いを繰り広げていた、ちょうどその頃。

 ――上空にて。


〝おいおぉいぉおおいい、ミスト、その程度かよぉ。もっと楽しませてくれよぉ〟

〝……この力馬鹿が……〟


 ミストはボールディンにやや押されていた。

 そもそも、五〇〇〇年間天使長として君臨してきたリチャードの魔法生物がボールディンなのだ。つい最近転生を果たしたカイの魔法生物であるミストは、どうしても実戦経験に差が出てきてしまう。

 そのブランクが、こうしてわずかながら戦局に影響を及ぼしているのだろう。


 だがそれは、大きな戦局を見れば大した問題ではない。

 そもそも、リチャードやカイは魔法一つに左右されるほどの実力ではない。つまり、ここでミストたちがどれだけ争おうと、二人の戦いには雀の涙ほどしか影響しないのだ。

 無意味な戦い。戦闘を彩るためのたたの飾り。そう考えてしまっても……差支えはないだろう。

 しかし、彼は戦う。

 創造主であるカイのために。たとえほんの少ししか利益をもたらすことができなかったとしても……。

 飾りならば飾りらしく、せめて優雅に華々しく勝利を飾る。

 それがミストから創造主への、忠誠。


 ミストは己の体をムチのようにしならせ、空を舞う大鳥へと飛びついた。



 リチャードから手痛い攻撃を受けてしまった俺。胸に刺さった剣を抜く。

 もう少しずれていたら、本体に当たってしまうところだった。炎魔法によって強化されたその剣は、俺の体を覆う防御魔法を易々と貫通するほどの威力だった。

 まったく、油断も隙もない奴だ。泣かせるような話をしておいてこれだから、気を引き締めないとな。

 ただ……泣き落としとかそういう意図はなかったと思う、さっきの叫びは……奴の本心であるように思えた。


「エミーリア様を止めたい、って言ったなリチャード」


 だから俺も、奴の叫びに真摯に応えたい。


「そうやって悩んだ結果が、俺を転生させることだったのか?」

「その通りだ。それ以外に方法なんてねーんだよ」


 半ばやけ気味に答えるリチャード。


「本当に止めたいなら、どうして戦おうとしない? 俺と並び称されていたお前なら……その力で止めることができたかもしれないだろ?」

「……陛下を傷つけろってか? なぁカイ、頼むから三日後まで待ってくれ。そのあと説得してくれりゃ、穏便に解決するんだ」

「……お前はそうやって正義面して、問題を先送りにしているだけだっ!」


 俺は手をかざし、更なる魔法を唱える。


「リチャード、お前は人間だよ。我がままで独りよがりで、エミーリア様や俺の気持ちをまったく考えてない。そのくせ変に正義や情に流されて……不徹底な行動に走っている。そんな馬鹿野郎だ……」


 確かに、改造された肉体を持つ天使たちは……ある程度の防御力を持っているのかもしれない。

 だが俺は知っている。かつてカール将軍が竜の爪によって倒されてしまったことを。

 必要なのは、炎の魔法や熱ではない。

 竜の爪と俺が放った剣の違い。それは……固さ。

 ならば、どうすればいいか?

 答えは単純。俺もまた……竜の爪を魔法で生み出せばいいだけのこと。


「カイいいいいいいいいいいいいっ!」


 リチャードは獣のように吠えた。再びウェザリスを生み出し俺に迫ってくる。

 対する俺は、先ほどの繰り返し。ただし、その武器は竜の牙へと変更する。

 熱せられた竜の爪が、炎皇帝の隙間を縫うようにリチャードへと迫りそして……。

 リチャードの翼に、深々と突き刺さったのだった。


 攻撃をくらったリチャードは王城に倒れた。

 体を動かす様子はない。俺が奴の体を傷つけ、その翼を引き裂いたが……所詮はその程度だ。まだまだ肉体的には戦えるレベルなはず。

 しかし、それでもリチャードからは戦意が喪失してる。先ほどまでぎらぎらとこちらに向けていた殺意のような波動が消えてしまっている。

 その姿は、まさに敗者のそれ。

 終わったな。

 俺の勝利だ。

 俺は物質錬成魔法によってタバコを生み出した。リチャードが好きだったものだ。


「吸うか?」


 と、リチャードに手渡すと、彼はそれを無言のまま口にくわえた。火炎魔法によって火をつけている。


「ああぁ……いいなぁおい」


 恍惚の笑みを浮かべる火炎将軍。

 しかしリチャードの肺が動いているようには見えない。煙は口のあたりでとどまり体に届かず、すべてが上空に消えていってるようだ。

 吸えてない。


「体には染みねぇし、どんな味か分かんねぇーが、この雰囲気がいい。なんっつーか、孤高の獣? 煙が壁になって、なにもかも忘れて引きこもってる気分になっちまう」

「……気にいってもらえて何よりだ」

「……いけよ」


 ゆらゆらと揺れる煙を眺めながら、リチャードがぼんやりと呟いた。


「陛下を止めるんだろ?」

「俺を止めないのか?」

「この俺としたことが、付き合い長すぎたせいで目が曇っちまってたのかもな。血の気の多い俺が、真っ先にぶん殴ってやるべきだったのに……。それなのに……なんでだろうな、おい……」

「お前は優しかった……ただ、それだけのことだと思う」


 俺はリチャードに背を向けた。

 エミーリア様を止めるため、最大の障害を排除したのだ。

 そして……。

 

「ミストか? 大丈夫か」

 ――カイ、難なく勝利した。


 上空からミストが戻ってきた。

 口では強がっているが、かなり苦戦したのは間違えないだろう。傷のついた体や、激減している魔力を見ればそれが分かる。


「ありがとう……」


 俺はミストの召喚を解除した。消える瞬間、彼が少しだけ誇らしく笑っているよに見えた。

 ここからは、俺一人でいい。

 あのお方と……決着をつけるんだ。


読んでくださってありがとうございます。


リチャード戦終了。

あまり引き延ばしても仕方ないですからね。

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