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転生したら祖国滅亡? ~仕方ないので建国チーレムする~  作者: うなぎ
邪竜エミーリア編

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転生魔法という狂言


 カイが転生魔法によって地上からいなくなって二年後。

 ハワード、そして竜装機兵ドラグ・マキナによって拮抗していた戦争状況は一気に敵側へと傾いてしまった。いまや王国内は暗い空気に包まれ、死を待つ老人のようですらあった。

 グリモア王城、玉座の間には暗雲が立ち込めていた。

 帝国が滅び、共和国となった今でも戦争は終わらない。リチャードは将軍の一人としてこの場に立ちながら、この国の破滅的な未来を想像し……絶望していた。


「私たちは、なんで今も戦ってるんだろうな」


 美しい銀髪をかきあげながら、エミーリアがぼそりと呟いた。その声に反応するものは誰もない。

 諸将も大臣も皆、顔を伏せるばかりだった。

 帝国解体後の戦争継続。それは、もはやこの戦争が国家間の絶滅戦争に様変わりしていたことを意味する。劣勢である王国にとって、今の状況は絶望的ですらあった。


「だがまだ我々には切り札がある。カイが戻ってきてくれれば、きっと戦争には勝利できる。それまでの我慢だ。皆、苦しいだろうが耐えて――」

「……魔力の高い人間は転生できないのです」


 そう、大臣は独り言のように囁いた。

 リチャードは薄々気がついていた。おそらくは、他の将軍たちも同様だろう。エミーリアですら、これまで無意識のうちにこの話題を避けていたようですらあった。

 転生失敗、すなわち――『死』。

 エミーリアは震える己の体を抱きしめた。大臣の言葉が事実であったとするならば、到底受け入れられない内容であるから。

 たとえそれが、薄々気がついていたことであったとしても。


「か、カイは……戻ってこないのか?」


 それでも、藁にすがる思いで女王は問いかけた。


「……た、魂に絡みついた魔力は、輪廻転生の足枷となります。ゆえに巨大な魔力をもった大将軍が転生するのは、容易なことではありません。魔法演算士たち予測では、およそ七〇〇〇年の月日を費すとの報告です」


 震え声の大臣。エミーリアが立ち上がり、玉座を力任せに叩いた。


「ば……馬鹿なっ! それでは私たちは、優秀な将軍をみすみす失ってしまったというのか? そんなことをして何の意味があるっ!」

「すべては、転生テロによって皇帝を追い詰めるため。もはや絶望的な未来しか見えないこの戦況で、少しでも有利な講和条件を引き出すための……一手」

「あ……ぅ……」


 エミーリアは声にならない悲鳴を上げた。まるで夢遊病患者のように、ふらふらとおぼつかない足取りだ。


「カイ……は、死んだ? 死んだの……か? もう、戻ってこない? あ……あ……あああぁあああぁ……」


 エミーリアは泣いた。王としての責務が、これまでの彼女をずっと縛り付け我慢させてきたのだろう。しかし一度決壊したら、もう戻ることはできない。顔を赤め、悲鳴を上げ涙を流すその姿は、まるで赤子のようですらあった。

 誰も声をかけられない。

 誰も慰めることはできない。

 彼らは知っていた。女王がどれほどカイのことを想っていたかを。彼女の純粋な悲鳴に心を打たれ、同情の涙を浮かべている者すらあった。

 リチャードは大臣の胸倉をつかみ上げた。


「勝手なことをしてくれたなぁ、おい。お前さんのせいで、この国は終わりだぜ。どう責任とってくれる?」 

「……わ、私はこの計画の生贄にヴェリー将軍を押したのだ。しかしカイ将軍でなければ援助をしないと、貴族たちから声をかけられ……。そ、そもそも何もしなければ王国側が負けていたのは明らかだっ! わ、私は……私は悪くないっ!」

「そーかよ」


 勢いよく大臣を突き放す。

 彼の発言がまったく間違えているわけではない。確かに、グリモア王国は戦争で追い詰められていたのだ。

 転生テロによって魔力の少ない兵士たちが転生したのは事実。そこに至るまでは、ある程度研究が進んでいたのだろう。そのための予算を得るために、大臣には貴族の協力が必要だった。

 研究資金を必要としていた大臣と、女王と恋仲であるカイを疎ましく思っていた高級貴族。二者の思惑が一致し、『転生魔法』という狂言が完成したのだろう。


(やれやれ……)


 と、リチャードは心の中でため息をついた。

 未だ泣き止まない女王陛下。言い訳を喚き散らす大臣と、大慌ての貴族たち。末期的なこの国の現状を象徴しているかのような玉座の間に、リチャードはただため息をつくばかりだった。

 どうやってこの場を収拾しようか、と思案していたちょうどその時、眼前の扉が開かれた。

 玉座の間の空気が凍った。この場にやってきた第三者。


「静まれ、王国の諸将よ。余に考えがあるっ!」


 帝国反乱の結果、この国に亡命を果たしたマキナマキア皇帝であった。

 この男の亡命を許したのは間違えだったかもしれない。講和を有利に進めるため、と大臣の意見もありこの国へと招き入れた。

 だが彼の存在は講和の材料とはならなかった。むしろ余計な恨みを買い、戦争継続の口実にされてしまったのだ。

 リチャードはこの皇帝を哀れに思っていた。祖国からも見放され、敵国であるこの国に身を寄せることでしか生きていけない……、そんな瀕死の男。


竜装機兵ドラグ・マキナを完成させ、この世界を制するのだっ!」


読んでくださってありがとうございます。


回想編。

長々と過去編をやってもよかったんですが、そういうことはあまりよくないかなと思い2話ぐらいでまとめる予定。


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