消えた皇帝
アーク神への道しるべとなるカール将軍を失ってしまった俺。目的地はバージニア州だとはっきりしているものの、交渉なしで向かっていってはまた仲間たちが殺されてしまう危険がある。
そこで、いったん帝都近郊の軍団と合流し、正式に帝都を占領することにした。
帝都マリネ。
栄華を誇るこの行政地区は、狭い面積であるにもかかわらず他のどの州よりも人口が多い。計画的に建設された建物が、帝都を横断する大通りに沿って並べられている。
大軍を引き連れてやってきたため若干の混乱があったが、軍団は中に入れず、少人数だけで城に乗り込んだためそれほど大きな不満がでることはなかった。
ここは帝都の城。
「どういうことだっ! どうして父上がいないっ!」
城、玉座の間にエドワードの声が響き渡る。彼は父親である皇帝の所在を確認するため、帝国の大臣に詰め寄っていた。
本来、エドワードのいなくなった帝国を支配しているはずの皇帝ローレンス。その彼が、城にいなかったのだ。
「こ、皇帝陛下は……教団の関係者を連れてバージニア州に向かいました」
「し、信じられない……。外には敵国の軍団が控えてたんだよ? 国が滅亡するかもしれないのに、あの男は責任を感じなかったのか?」
「陛下はあの創世神話を信じておられるのです。ですから、世界が滅亡すると信じ込んで……教団の聖地であるバージニア州に……」
呆れ声の大臣。創世神話をまったく信じていないのだろう。
「父上、あなたはそこまで愚かだったんだね……」
エドワードの憤りも理解できる。少なくとも、皇帝のすることではない。
だが俺は知っている。創世神話に語られるように、この世界で人類が幾度も殺されてしまっていることに。つまりこの大臣が間違っていて、邪竜に怯えて逃げ出した皇帝が正しいのだ。
ひょっとするとアーク神や天使たちは人間を救おうとしているのかもしれない。もし本当に邪竜が世界を滅ぼすのなら、このまま帝都にいれば死んでしまうのだから。
逆に、こんな風に変な宗教扱いされているからこそ、混乱が少ないのかもしれない。人類すべてを救うことなんて不可能なんだから、変に慌てられたら逃げることすらできないだろう。
見えてきたぞ教団の意思が。自分たちに従順な少人数だけを生かし、大多数の不信心な人々を見捨てる。
アーク教団は人類を救おうとしているのかもしれない。しかしそれでも、このやり方は自分勝手すぎる。
「やはりバージニア州に行く必要があるようだな」
おそらく、水竜王は天使たちのもとへと向かった。竜の体を改造して作られた竜装機兵を、プライドの高い彼らが許すはずない。
雪辱を果たすため、老齢の竜たちは人間界へと赴いた。竜たちは勝利したのだろうか? それとも、竜装機兵が退けたのだろうか?
「…………」
考えても仕方ない。
「みんな、聞いてほしい」
城を訪れていた面々が、一斉に俺の方を向く。
「これから俺は、バージニア州に行く予定だ。この世界を支配するアーク神と、その下にいる天使たち。この世界の歪みを生み出した奴らを倒すため、決着をつけに行く。一応、一人で行くつもりだが……」
「私も行きます」
まず声を上げたのは、テレーザだった。
「おじい様が、どうしてあんなことをしたのか知りたい。私は行きます」
「そうだよな。そうだと思ってた」
あんな形で祖父と別れたのだから、この主張は当然だろう。むしろ、今までよく飛び出していかなかったものだとほめてやりたいぐらいだ。
「あたしも行くわ」
クラリッサが便乗する。
「ここまで軍団を率いてきたんですもの。最後に付き合わなきゃ、部下たちに笑われちゃうわ」
「なら当然私もだな」
次いでパティ。
「あそこには父上もいる。総督であり、そして皇帝の娘でもあった私は無関係ではないからな」
三人がこう言うのはある程度予想していた。
俺は頷いた。
「よし分かった、じゃあ三人ともすぐに準備してくれ。時間がないらし――」
「……待って」
「ホリィ、もう大丈夫なのか?」
俺の声を遮ったのは、城の中で休ませていたはずのホリィだった。父を失ったその悲しみは、彼女の体にすらも影響を及ぼし、立っているのもやっとといった感じだったはずだ。
今は多少持ちこたえたらしい。
「行きたい」
静かに、しかし岩のように固く強い心を持った声。
「パパは……死んだ。それは分かってる、分かってるよ。だから私は、パパが見届けられなかった最後を、見て……おきたい」
父親を失うことになってしまったその元凶。すべてを見届けたいという意思は、他の誰よりも強いのかもしれない。
こうも固い決意を見せられては、止められるはずがない。
「そうか……分かった。おとなしくしていてくれよ」
ため息をついた俺は、彼女の頭を優しく撫でる。父を失った彼女は、もう子供のようにに無邪気な笑みを浮かべない。ただ俺の気遣いに頬を赤めるだけだった。
「僕も連れていってくれっ!」
大声で割り込んできたのは、先ほどまで大臣と話をしていたエドワードだった。
「僕は知りたいんだ。父上が一体、何を考えていたのか。だからお願いだ。こんなことを頼める義理じゃないけど、連れていってほしい……」
「エドワード……」
誰を連れていくかについては、ずっと考えていた。
俺の考えではテレーザ、ぎりぎり許されるのがクラリッサとパティぐらいだ。竜族であるテレーザ、そして王国を軍事面で支えてきたクラリッサとパティ。因縁の決着を見届ける権利がある。
ホリィは帝都に置いておきたかったが、本人の意思が固いなら連れていくつもりではあった。しかしこの男に関しては、何も考えていなかった。留守中に帝都を治めていてくれればとすら思っていた。
しかし、どうやら意思は固いらしい。
「いいだろう」
その言葉に、エドワードは安堵したように息を漏らした。
「お前には、皇帝の息子としてこの世界について知る権利がある。だがテレーザやパティたちと違って、俺はお前の身の安全まで守ろうとはしない。それでもいいか?」
「僕はもう皇帝じゃないんだ。自分の身が守れなかったとしても、誰も困らないよ」
まあきついことを言ったが、何かあったら助けてやるつもりだけどな。意思の強さは、確かに見せてもらった。
こうして、決戦の地へと向かうメンバーが決まった。
テレーザに跨り、俺たち六人はバージニア州に向かったのだった。
読んでくださってありがとうございます。
ここで竜装機兵編は終了になります。
次が最後から二番目(最後はエピローグなので実質的に最終章)の予定です。




