ビビりのお前
新たなる竜装機兵――風竜王の死体と対峙する俺。すでに仲間たちは周囲からいなくなっている。
その鱗も、翼も、全部覚えている。昔は空中レースでお世話になったりしたよな?
転生した最初、こいつを召喚しようとしたことを思い出す。そうか……お前は、こんなところにいたんだな。召喚なんて……できるわけないじゃないか。
王の名を冠する竜族が辱められているんだ。水竜王が怒るのも当然だろう。
俺の手で、逝かせてやらなければ……。
王と呼ばれてる竜族は、桁違いに強い。死体となってもなお、竜装機兵の速さが段違いであったところを見るに、元となった竜の力を受け継いでいるらしい。
空中で静止した竜装機兵が、その巨大な口を開いた。
俺は身構える。水竜型の竜装機兵と同様に、強化ブレスを放つつもりなのだろう。
敵の放った強化ブレスは、ただの空気の塊だ。ただ、その改造された肺の中で限界ぎりぎりまで圧縮され、さながら弾丸のように打ち出される。
圧力を失い、膨張し、暴れ狂う空気。それは竜巻を何倍にも強くしたような感じなのだろう。
「風圧咆哮」
と、いう名前らしい。ハワードが解説してくれた。
「ぐっ!」
風の結界を張ってみたが、そんなものはやすやすと突破されてしまった。俺は激しく後方に退避し、その攻撃を受け流す。これが、この一帯を破壊した力か。
さてと、どうやってこいつを倒せばいいか。
そう考えようとしていた矢先、すぐに気がついた。
いない。
目の前にいたはずの竜装機兵が、いなくなっていた。俺が移動した一瞬の隙を突き、奴もまた行動を開始したようだ。
迫る息遣い。
焦げるような蒸気の匂い。
熱くなる空気。
はっとして後ろを振り返ると、そこには……風竜王が。
「馬鹿なっ!」
全力で退避する。かちん、と牙と牙が接触する音が聞こえた。先ほどまで俺が立っていたその場所に、竜装機兵が噛みついたのだ。
こ、こいつ……。
マントの一部が破られる。もしあのままあの場所に立っていたら、間違えなくやられたていただろう。
焦りすぎてハワードの首が地面に置きっぱなしだ。でも、はっきりいってあいつに気をまわしている余裕がない。全力で戦わなければ、絶対に負けてしまう。
風竜王は他の竜族と比較して、極端に防御力が高かったわけではない。前回のように巨大な剣をぶつければ倒せれるだろう。
俺は前例に倣い、武具生成魔法によって巨大な剣を生み出した。
だが、当たらない。
風竜王は速度が速い。俺が剣を叩き付けるのもまったく遅いわけではないのだが、奴の反応速度はプロトタイプに比べて格段に向上している。そのあたりが改良されているのだろう。
竜装機兵はいったん距離をとって、不規則に旋回する。どうやら、様々な角度から俺を攻撃してくるつもりらしい。
俺は風魔法を使い、そんな敵に迫っていった。
空中を自由自在に舞う俺と竜装機兵。試みたランデブーは、しかし俺の速度不足によって失敗してしまう。
足りない。
速さが。
時々、敵が翼部を叩き付けてくる。牙ほどに鋭くない一撃のため、余裕で受け止めることは可能だ。しかしそのたびにバランスを崩しては、意味がない。
近づいて攻撃することも、不可能。
「…………」
どうやら、発想の転換が必要なようだ。
いつまでもこんなところで無駄な時間を過ごしているわけにはいかない。アダムスの敵を討つという件もあるし、その背後に控える天使やアーク神のもとへ辿り着かなければいけないんだ。
この世界の歪みを正す。それが、俺の王としての正当性。
俺は物質錬成魔法によってあるものを生み出した。
金属の、網。それは竜装機兵が舞う空中に幅広く展開されている。
そう、これで奴を捕えるのだ。網にかかる、魚のように。
という感じで簡単に捕えられてくれたらそこで話は済むのだが、そんなに話がうまくいくはずもなく。金属の網に接触した竜装機兵は、易々とその障壁を突破してしまう。
まあ、この程度は予想の範囲内。
さらに俺は魔法の詠唱を行う。
雷魔法レベル一〇、大電幻魚ギルドグラム。
俺が使うミストのように、エミーリア様はこの魔法に対して意思を持たせることが可能だった。しかし俺はその域には至っていないため、ギルドグラムは他の魔法とそう大差ない。
ギルドグラムは巨大な雷の一撃を放った。敵の機械竜はそれを見事に回避するが、無駄だ。
金属の網が、電気を伝える。竜装機兵は感電した。
だが敵は魔法に対してかなりの耐性を持つ竜装機兵。電気を浴びせてもなお、その体は壊れることなどない。すぐに網の外へと逃げ出そうとする。何度も、何度も感電しながら。
だが敵は、その感電する一瞬だけ動きを止める。俺にとっては十分なほどの時間だ。
待たせたな。
「すまなかったな。ビビりのお前のことだ、怖かっただろう? 今、終わらせてやるからな」
武具生成魔法によって、剣を生み出した俺。巨大なその剣で俺自身が感電してしまうことを防ぐように、今度は完全に操作を風に任せている。
巨大な剣を、敵へと叩き付ける。もともと防御力の高くない風竜王の体が、その衝撃に耐えられるはずがない。
こうして、竜装機兵は俺の目の前へと墜落した。黒い煙をもくもくとあげている姿は、明らかにスクラップのそれだった。
「…………」
こんな奴がうろうろしているこの世界に、帝国とか反乱とかそんなの無意味だよな。世界の真の支配者は、アーク神とその配下の天使たちだ。
待ってろよ、すぐにバージニア州にいって、その顔を殴りつけてやるっ!
おっと、途中からハワードのことを完全に忘れていた。
俺はハワードの首へと駆け寄った。
「大丈夫か、ハワード。巻き添え喰らって壊れてないか?」
「何をしている大将軍。後期型の竜装機兵は有人型だ。コックピットから操縦者の天使を引きずり出せ」
「……は?」
俺は、こんなバカみたいな声しか返せなかった。
読んでくださってありがとうございます。
本日三回目の投稿。
誤字脱字がないか見直してるはずなのに、後で読み返すと新しく見つけてしまう謎。




