遠ざかる機影
空中で竜装機兵と対峙する俺。
やはりベースが水竜というだけあって、速度はさほど速くないようだ。俺レベルでもすぐに追いつくことができた。
俺は敵の翼部にしがみつき、剣を叩き付けた。まるで金属同士を叩き付けたかのような甲高い音がする。
固い。
今のはただの一撃ではない。魔法によって限界まで引き上げられた俺の筋力に、勢いをつけるための風魔法、そして切断を円滑にするための炎魔法による高温状態。三つがそろった俺の剣は、しかし粉々に砕かれてしまった。
普通の竜程度なら、鱗一枚ぐらい剥がれていてもおかしくはなかったはず。やはり竜装機兵の鱗は強化されているか。
俺の攻撃に呼応してか、敵は急激な旋回を開始した。
「くっ!」
空気圧は風魔法によって調節しているため、振り落とされることはまずない。しかし、魔法で強化した打撃系の技は通用しない。
手詰まり、か?
「…………」
おそらく、この竜装機兵に俺が殺されることはないだろう。しかし同時に、俺もまた決定打に欠けているようだ。このまま敵の近くで魔法を使っていても、とてもではないが勝てそうにない。
平原にはほかの兵士たちが待機している。今は遠く離れて散開しているものの、これはあくまで一度に全滅させられるのを防ぐため。この状態で攻撃を受けても、一〇人や二〇人は平気で倒されてしまうだろう。
「…………」
考えろ。
魔法は効く。効いている。ただ、こいつの防御力があまりに高くて効果がないだけなんだ。むしろ魔法自体で攻撃することは無意味なのかもしれない。
その防御力を超える力を示せば、あるいは……。
決めた。
俺は竜装機兵から離れ、自然落下で地面へと落ちていく。少し距離をとって、敵に俺の必殺技を喰らわせるのだ。
草の上に降り立ち、素早く空を見上げる。そこには、再び敵である俺をめがけて急降下してくる機械の竜がいた。上空からは風が吹き付け、奴の鳴き声が耳に反響する。
俺は手を構えた。
「出ろ」
それは、巨大な鉄の剣だった。
物質錬成レベル四、武具生成によって生み出された剣は山どころか雲を突き抜けるほどの巨大さを持っている。風魔法によって巧みに角度を調節しながら、空中を降下する竜装機兵へと叩き付けた。
俺が巨大な剣を振り下ろした、ように兵士たちには見えたかもしれない。しかしいくら俺が魔法の力を使っても、こんな剣を手で持つことなど不可能だ。俺は手を添えてるだけで、実質的には風の力で押し付けている。
かつてハワードに投げつけた鉄塊の比ではない。圧倒的な大質量を叩き付けられた竜装機兵は、さながら手で打ち落とされた蝶のように平原へと墜落してしまった。
落ちてきた機体は、もはや原型を留めていなかった。鱗は剥がれ、鉄パイプはひしゃげ、さらには漏電しているらしく時々紫電を光らせる。
「思ったより早く決着がついたな」
拍子抜けだ。
はっきり言って、ハワードの方が苦戦してすらいたような気がする。あいつは力が強いうえに、無敵防御層とかいう魔法消去技術を持っていたからな。ほんと、魔法使いの天敵だったよ。
俺は地面に降り立ち、再び馬の上に跨った。
「カイ……」
テレーザが近づいてきた。竜装機兵は彼女の同族の死体を用いているから、何か思うところがあったのかもしれない。
「おじい様は……このことを……」
「さあな……」
おぼろげながら、見えてきたかもしれない。なぜ水竜王たち老齢の竜が、人間たちを嫌悪していたのか。
はるか五〇〇〇年前の悪逆は、今なお生き続けているようだ。
「さてと、すぐに兵士たちを整えて帝都へと進軍しよう。パティ、クラリッサ、すぐに兵士たちを――」
「気分の悪い知らせだ、大将軍。今、俺の光学レンズが遠ざかる機影をとらえた」
「……は?」
ハワードの声に、俺は固まってしまった。
遠ざかる機影? 意味が分からない。だって、敵の竜装機兵は今ここに壊れているじゃないか。ならば、ハワードが見た『遠ざかる機影』とは一体……。
「南西の方向に向かっている。おそらく、初めから二点を同時攻撃するつもりだったのだろう。まだ終わっていない」
二店同時攻撃? こっちに攻撃を仕掛けたやつとは違うもう一体が、王国を攻撃するために用意されてたとでもいうのか? いや、確かに誰も竜装機兵は一体だけとは言ってなかったが……。
南西? ここから南西はツヴァイク州で……そのさらに先は……。
「オールヴィ州かっ!」
しまったっ!
敵は初めから二か所を攻撃するつもりだった? まずい……、これは……まずいぞ。俺ですら少し苦戦する竜装機兵が、兵士の引き抜かれた俺たちの本拠地……オールヴィ州に? 避難すらままならないんじゃないのか?
「おのれ天使長! 一度に二体も竜装機兵を導入するなど、前代未聞だぞ! 時期を考えろっ!」
ハワードの怒鳴り声が、どこか遠くに聞こえてすらいた。背筋が凍り、血の気が引いていく。
俺は……とんでもない過ちを犯してしまったのかもしれない。
読んでくださってありがとうございます。
サブタイトルってどうつければいいんだろう。
分かりやすさか、目を惹く感じか、意味を持たせるか。




