竜装機兵の正体
〈竜界〉、とある洞窟にて。
水竜王は同志たちと一緒に打ち合わせをしていた。
「奴ら、ついに尻尾を出しましたな、水竜王様」
「やはりあのカイという小僧にご令孫をお付けになったのは正解でした」
「このままあの小僧が帝国を制圧してしまえば、我らの目標たる敵も必ずやその姿を現しましょう」
口々に意見を言い合う竜族。いずれも水竜王と同じ年齢か、もしくは少しだけ下程度の年老いた竜たちである。
目の前の巨大水晶には、人間の姿をしたテレーザの姿が映し出されている。カイに腕を絡ませるその姿は、まるで恋人同士を見ているかのようだった。
しかしカイとテレーザが親しげなことについて、水竜王以外の竜族たちは心よく思っていないらしい。時々侮蔑の視線を浴びせながらぶつぶつと文句を言っている。
彼らの気持ちがまったくわからないわけではないが、水竜王は基本的にカイのことを悪く思っていない。しかしその件は本筋とは外れるため、あえて苦言を呈するほどでもなかった。
契約竜は召喚を拒めない。
それは、竜族にとって長年の懸案事項だった。出ていきたくなくても出ていかなければならない状態というのは、いろいろとまずいことがあるのだ。
そのせいで五〇〇〇年前は大きな失敗をしてしまった。その挽回をするために、今日まで様々な準備をしてきたのだ。
召喚抵抗魔法もまたそのうちの一つ。すでにカイからの召喚要求を幾度となく拒絶している。
「…………」
水竜王は水晶から目を逸らし、洞窟の奥を眺めた。魔法陣の描かれた石柱がいくつも並んでいるそこは……逆召喚門と呼ばれる場所だ。
〈竜界〉側から召喚ゲートを開くことにより、人間の世界への侵攻を可能にしたこの技術。役に立つ日はそう遠くないだろう。
水竜王はただ笑う。
悲願を果たせる日は、近い。
俺たち王国軍は進軍を始めた。
留守をアダムスに任せ、エドワードを含む主要なメンバーはすべて連れてきた。
オールヴィ州、ツヴァイク州を抜け、帝都へとやってきた俺たち。未だ軍団は郊外に位置するものの、遥か遠くには栄華を誇る帝都の城壁が見えてきた。
ツヴァイク州はエドワードの説得もあり、素早く降伏に応じてくれた。帝都周辺では小競り合いがあったものの、ほぼ問題なく勝利している。
もはや敵は組織的な抵抗をすることすらできないらしい。
あと少しだ。
――カイよ、つまらぬな。
水魔法レベル一〇、白蛇水神ミストが語り掛けてくる。敵を威圧するため、あえてこの魔法生物を連れてきている。
巨大な水でできた蛇。ただそこにいるだけで敵がずいぶんと委縮してしまう。
「同感だな。くだらない」
ミストの声に同意したのは、俺が乗っている馬の後ろに固定されている箱。馬の背に乗せているその箱には、ハワードの首が入っている。皇帝との交渉に使えないかと思い、連れてきたのだ。
「ねえ、そいつ連れてくる必要あったの? 気持ち悪いわ」
クラリッサが嫌そうな顔をした。まあ、人間の生首そっくりだから、あまり気分が良いものではないというのはわかるが……。
ちなみに、この箱の中にハワードの首が入っていることは、一般の兵士たちには秘密だ。一応、死んだことになってるからな。
「女よ。生首程度で気持ち悪いとは、それでも戦時の将軍か?」
「はぁ? 死体とかそういうのじゃなくてあんたの顔や声が気持ち悪いって言ってるのよ」
「くくく、気の強い女だ。戦時の将軍とはこうでなけ……」
突然、ハワードがその声を止めた。
「どうした?」
「ふ……どうやらそう事は上手く運ばないらしいぞ。天使長め、また独断を……」
「……? 天使長?」
「来るぞっ!」
ハワードが声を荒げた、その瞬間。
平原に大きな風が吹く。それは巨大な生物がこの地に降り立った反動。多くの兵士たちが風に飛ばされ、俺やクラリッサも体勢を崩しそうになってしまう。
「こ……これは……」
俺は驚きのあまり声を失った。
「俺の後に生み出された次世代兵器、竜装機兵だっ!」
なんだ……これは……。そんなことが……。
俺の眼前に降り立った巨体、竜装機兵。
その水色の鱗は、何らかの透明な材料でコーティングされている。鱗に代表されるようにところどころが生物的でありながらも、巨大な鉄パイプや金属質の板が至る所に露出。翼部には円形の機械が埋め込まれ、今なお赤い炎のような空気が噴出している。その目は生物としての輝きを失い、ハワードのようにレンズがはめ込まれていた。
巨大な口を開け、咆哮する竜装機兵。
それは、女の叫び声と岩の砕ける音を足して二で割ったかのような鳴き声。生理的な嫌悪感を生み出しながらも、生命の危機を感じさせるような恐ろしさを秘めている。
そして……俺は理解してしまった。この兵器の……罪深さを。
竜の死体。
ハワードの次世代機――竜装機兵の正体とは、竜族の死体を改造して作り出したサイボーグだったのだ。
「そ……そんな……なんですか、これ」
テレーザが震えていた。無理もない。竜装機兵のもととなった竜は、鱗の色から見ておそらくは水竜。すなわち彼女と同族なのだ。
こいつは……強い。
俺は戦闘態勢に入った。
読んでくださってありがとうございます。
今回は登場、次は戦闘予定。
戦闘は上手く躍動感を伝えていきたいです。




