さらし首
ハワードとの戦いは熾烈だった。
今回の件で、多くの兵士は恐怖を覚えてしまっていることに違いない。彼らの士気を回復するよう仕向けることこそ、王であり指導者である俺の責務。
どうすればよいのか、俺は少し頭をひねり妙案を思いついたのだ。
「よって、お前をさらし首にする。耐えろ」
と、いうわけで俺はハワード(生きている)をさらし首にすることとした。
俺は王城の前、門の近くにある街道に立っていた。ここには仮設ではあるものの、ハワードの首をさらすための台と柵が設置されている。
そして俺の手にはハワードの首が握られている。直接触れるとこいつの無敵防御層が発動し、俺の体にかかった魔法が解けてしまうため、手袋を身に着けている。
「俺は生きてるんだが……」
首だけのハワードがそう言った。この状態で会話をするというのも、なんだかおかしな話だな。
周囲には兵士たちがいる。あまり独り言が目立つとよくないので、幾分か声を落としていく。
「機械なんだから生きてるも死んでるもないだろ。仮面を縛り付けておいてやるから、顔は見えないさ。なんだ、寂しいのか? 鳥の餌でもまいといてやろうか?」
「それは嫌がらせのつもりか大将軍。このままでいいさ」
鳥のフンまみれになっているこいつを見てみたいという好奇心はあったが、断られたのでやめておくことにする。
ハワードの首を固定し終えた俺は、城に戻ろうと一歩を踏み出し……そして気がついた。
ざわり、と周囲の人々がざわめいている。
ハワードが何かやったのか? と思ったがそうではない。ここではなく、道の向こうからやってくるとある影に……皆が怯えているのだ。
「くくく、久しいな人間よ。会いに来てやったぞ」
黒マントを身に着けたその影の名は、そう、魔王ちゃん! グランヴァール州にいるはずの彼女が、なぜかこのオールヴィ州までやってきていたのだ。
「ま、魔王だっ!」
「魔族たちの王がなぜここに」
「殺されるっ! 俺たち……殺されちまうっ!」
ハワードなんかとはくらべものにならないぐらい魔王を恐れる兵士たち。見た目かわいい美少女にちょっと黒い羽と尻尾が生えてるだけなのに、どうしてそこまで恐れるのかと……。
魔王ちゃんが目配せした。どうやら外野をどこかに追い払って欲しいらしい。
「お前たちは……建物の中に入ってるんだ」
「しかし、国王陛下っ!」
「俺の力では……お前たちを守りきれないかもしれない……」
「は、はい……」
俺の弱気な発言を聞き、兵士たちは一目散に城の中へと戻っていった。聞き分けの良い奴らで助かる。
「それで、どうしてここに来たんだ? 何か用事か?」
「パパにね、会いに来たの」
魔王ちゃんは俺の腰に抱きついた。
「あー、パパの匂い。くんくん、くんくん。久しぶりだー」
「こ、こら、変なことするなって。誰かに見られたら恥ずかしいだろ?」
「誰もいないよ」
ハワードがいるんだけどな。あえて言わないでおこう。
「仲間たちのことはいいのか?」
「優秀な幹部たちがなんとかしてくれることになってるよ。最近は人間を襲わなくなったから、みんな暇で」
暇を持て余してるから、ここまでやってきたということか。
「ふっ、懐かしい顔だな」
と、ハワードが言った。言葉を受けた魔王ちゃんは、驚きに染まった顔のままこの男を指さした。
「お前は……一〇〇〇年前のグランヴァール州総督っ!」
どうやら魔王ちゃんはこの男と知り合いらしい。あと、さっきの姿を見られて恥ずかしかったのか、少しだけ顔が赤い。
「お前、グランヴァール州総督もやったことがあったのか?」
「一応、俺は人間という設定になっているからな。一〇〇年も二〇〇年も同じ州の総督をやっていたら、不自然すぎるだろう? 別人ということで、定期的に別の州へ移動していたのだ。オールヴィ州の総督も務めたことがある」
「…………」
確か、帝国の総督は皇帝が決めるんだったよな。こいつがロボットだっていうことを、皇帝も知っていたということになる。
やはり、ローレンス皇帝には一度話を聞いておく必要がありそうだな。いろいろと知っていそうだ。
俺がいろいろと考えている間にも、魔王ちゃんとハワードの応酬が続く。
「あ、あの時は油断した。今度こそ……」
「お前などアーク神様のお情けで生かされているだけに過ぎん。俺があの時全力を出せていれば、魔族などこの地には存在していなかっただろう。今から殺してもいいんだぞ?」
「ひ、ひぃ」
「冗談だ」
鼻で笑うハワード。もっとも、ロボットである彼の顔に鼻っぽい穴はなかったはずだから、それっぽい音を出しただけなのだろうが。
まあ、魔法を無効化するこいつの力は強いからな。魔王ちゃんみたいな魔法使いには絶対に勝てない相手だろう。
なお、絶対防御盾に類する力を使っても、魔法生物を消し去ることはできない。これは、長い年月を経て魔法による結合が安定化した状態だからである。
ともあれ、俺にとって馴染みのあるお客さんの来訪だ。丁重に扱ってあげたいと思う。
「魔王ちゃん、ようこそ俺の国へ。いろいろ話したいこともあるだろうから、とりあえず城の中に案内するぞ」
俺は魔王ちゃんを城の中に案内した。
なお、ハワードは本当にこのままさらし首にする予定である。
読んでくださってありがとうございます。
魔王ちゃん再登場。
どこかで出しておきたいと思っていたのです。




