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転生したら祖国滅亡? ~仕方ないので建国チーレムする~  作者: うなぎ
古代遺産編

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テレーザ墜落


 テレーザは竜の姿で上空を旋回していた。


(なんですか……これは)


 眼下に広がるのは、戦闘不能になった仲間たち。クラリッサが、パティが、ホリィが、そして多くの兵士たちが……倒れこんでいる。

 確かに、魔法使いがいるかもしれないという話は聞いていた。しかし眼前の光景は、ただの魔法使いが引き起こしたにしてはあまりに異常すぎる。

 敵ははっきりとしている。逃げ惑う兵士たちや倒れこんでいる仲間たちを差し置いて、ただ平原の中央に立っている人物。

 キツネのお面を身に着けた大男。この男が敵で間違えない。

 テレーザは即座に旋回を止め、急降下した。


 声をあげ威嚇する。仮面の男がこちらを向いた。

 間を置かず水のブレスを放つ。距離も近く、男の周囲にはあまり人がいないため、ピンポイントで攻撃することが可能だった。

 だが――


「……っ!」


 水のブレスが完全に無効化された。

 おそらくは、絶対防御盾アイギスに類する力だろう。男が盾のようなものを持っているようには見えないが、しかし実際魔法が消されてしまったのだ。ほぼ間違いないだろう。

 仮面の男がこちらを見上げた。


(これは……さすがに私の手には余りますね)

 

 再び高度を上げ、テレーザは撤退を決意する。

 むろん、竜族としての誇りはある。敵前逃亡などいうのは、水竜王の孫娘としてあるまじき行為である。

 だが、敗北は更なる恥である。そうなってしまうのならば、逃げ出す方がまだ良い。

 冷静な判断を下し、テレーザはカイを呼びに行くことにした。

 だが――


「どこへ行く?」

「……っ!」

 

 テレーザが息をのんだ。先ほどまで大地に立っていたはずの大男が、いつの間には自分の翼へと立っているではないか。

 

「びっくりしました、どうやって私の背中に?」

「何、少し跳躍しただけさ」


 ありえない、と一瞬テレーザは思ったが、すぐさまその考えを捨てる。今、背中にいる男は……恐ろしい何かなのだ。

 即座にテレーザは体を動かした。回転し、高速で旋回することにより男を振り払おうとしたのだ。

 しかし、鱗をがっしりと掴んだ男がテレーザの体から離れることはなかった。


「あなたはどうするつもりですか? このままカイのところまで案内しましょうか?」

「くくっ、その必要はない。俺が今から、お前を殺すんだからな」

「私を? 無理ですね」


 テレーザの体は竜の鱗に覆われている。並みの刃物では貫通することができないはず。

 男はテレーザの体を拳で叩いた。ただの人間ではありえないほどの強力なパンチ。鈍い音が周囲に響くが、しかしそれでダメージを与えることは不可能だった。


「固いな。少し本気を出すとするか……」

 

 男が負け惜しみを言った。テレーザはそういう風に理解して……いた。

 だが――

 空気が揺れた。

 テレーザは自らの背中に目を移す。男の手が、まるで竜巻か何かのように激しく風を切っている。

 振動でテレーザの体が揺れる。重低音が煩わしい。

 男が手を構えた。


「略式・超振動槍グングニルっ!」

「あああああああああああああっ!」


 テレーザは咆哮の如き悲鳴を上げた。大男の振動する手は、竜の厚い鱗を易々と貫通してしまう。

 右翼に穴が開いた。もはや飛ぶことすら難しく、重力に従い地面へと落下していった。

 テレーザは地面に落下する。幸いにも周囲には誰もいなかったが、すさまじい衝撃が響き渡った。

 しかし、その人間が圧死してしまうほどの恐ろしい落下であったにもかかわらず、仮面を身に着けた男は五体満足といった様子でテレーザの体に立った。


「我が主、アーク神様は竜の死体を所望しておられた。これからお前の胸部にある心臓を破壊し、あのお方のいらっしゃるバージニア州まで持って帰ることにする。安心しろ、痛みや恐怖を感じる間もなく、一瞬で殺してやる」


 略式・超振動槍グングニルと呼ばれる先ほどの技を起動させる男。翼を破壊され痛みに悶えるテレーザに、もはや逃げる術などない。

 死ぬ。

 テレーザは己の死を覚悟した。



「…………」


 テレーザは意識を取り戻した。あの時、己の死を覚悟して仮面の男が放つ手刀を受けようとして……そして……。

 

「ここは……一体……?」


 見たことのない場所だ。

 目の前には竜体である自分の体以上に大きな巨大な水晶がある。その周囲には磨かれた石柱がそびえ立ち、さながら魔法陣のような文様が描かれていた。

 おそらくはどこかの洞窟。周囲には無骨な岩がびっしりと敷き詰められていた。


「おお、テレーザよ。意識を取り戻したか」


 聞きなれた声が背後から聞こえた。

 ひどく乾燥した鱗を持つ老齢の巨竜、水竜王だ。


「おじい様、ここは?」

「竜界のとある洞窟じゃテレーザよ。わしがお前を連れ戻したのだ」

「連れ戻した? 竜が? 契約竜を? そのような技術が存在したのですか?」

「大声を出すでない。他の者たちに知れれば大事ぞ」


 声を潜める水竜王。どうやら、まっとうな方法ではないらしい。テレーザも空気を読む。


「もう、よさぬか?」

 

 水竜王がそう言った。


「……何の話ですか?」

「お主は十分に頑張った。カイ殿にはわしから説明しておこう。後のことはわしに任せ、契約竜としての仕事を止めないかと言っている」

「カイの手助けをすることを、止めろというのですか?」

「その通りだ」


 テレーザは信じられなかった。誇り高い竜族において、契約を全うしないことはひどく許さない行為のはずだ。水竜王ともあろうものが、そんなことを推奨するなんて信じられなかった。


「これから、人間界では大きな戦が始まる。お主を巻き込みたくないのじゃ。わかってくれ、テレーザ」


 水竜王には何か考えがあるらしい。そしてそれは、テレーザの思い至らないような壮大な何かなのだろう。

 おそらく、祖父のいうことは正しい。

 

「……それでも私は、あの人の契約竜なんです」

「…………」

「一緒に過ごして、お話をして、美味しい食べ物をもらって、頼りにされて。今までにない経験を得られて、私はとても嬉しかったんです。私を必要としてくれる仲間のために、こんなところで逃げ出したく……ない」

「ふふ……お主はわしの若い頃に似ておるな」


 水竜王は静かに笑う。


「テレーザよ。今からわしが魔法を行使し、お主を竜界から人間界に逆召喚する」

「そ、そんな……。魔法使いの手を借りずに、どうやって召喚ゲートを開くのですか」


 そんな話は全く聞いたことがない。もし召喚ゲートを皆が開けるのなら、今頃は人間界の竜界との往来が激しくなっていたはず。 


「我ら竜族は、五〇〇〇年前のあの日より、常に人間界への侵入方法を模索しておった。竜界からのゲート生成はその副産物に過ぎない。時間がない。他の竜たちにばれては面倒じゃ。行くぞテレーザ」

「はい」


 水竜王が呪文を唱える。すると、水晶付近にある石柱が青く光り、魔法陣が緩やかな風を放った。

 やがて、目の前に巨大なゲートが出現する。召喚ゲートだ。


「覚えておけテレーザよ。人間界に戻るのであれば、常にカイ殿から離れるな。あの世界では、竜族とて身の安全は保障されない」

「私が負けたあの男のことですね」

「……違う」


 即座に否定する水竜王。


「詳しく話をしている時間はない。とにかく注意じゃ。わかったな、テレーザ」

「はい」


 テレーザは召喚ゲートを潜り、再び人間界へと向かったのだった。


読んでくださってありがとうございます。


前回と今回、味方がひたすらボコボコにされる回でした。

今まであまりこういうの書いてこなかったから、新鮮でした。


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