グランヴァール州併合
魔王城、玉座の間は静寂に包まれていた。
多くの人と魔法生物が、言葉を失っていた。あまに現実離れしたその光景に、ただただ唖然としている。
世界創生。
俺が(幻覚の中で)行ったその秘儀によって、世界が再生されたと思い込んでいるのだ。
「そ……そんな、大地が蘇るなんて、信じられないわ」
「邪神殿は……神か?」
と、クラリッサやパティは信じられないといった様子で俺を見ている。ホリィは無表情だが、心なしか俺への視線が冷たいような気がする。
なおテレーザは竜体へと変化して外で待機している。例の件を上手く隠した模様。後で服を用意してやるからそのままで待っていなさい。
魔王ちゃんは片膝をつき、苦悶の表情を浮かべている。
「くっ……人間、まさかこれほどの力とは。我は完全に見誤っておった」
対する俺も、苦戦をアピールしてちょっと苦しそうにする。
「……お前もな、魔王。大した奴だった。俺が今まで戦った奴の中で、一番強いかもしれない」
「我は、思い違いをしていた。人間は弱く愚かな生き物ではない。お前のように強く民を守ろうとする王がいようとは、人間もまだまだ捨てたものではないな」
魔王は笑う。
「認めよう好敵手よ。我は人間を尊重し、むやみやたらに田畑を荒らし人を傷つけないと約束しよう」
「俺もだ……」
俺たちは握手をした。ここまで全部俺の予定通り。
まあ、要するにこういうことなんだ。
人間に恐れられている魔族。そいつらがいきなり『もう人間襲いません』とか主張しても信じれるわけがない。何かの罠か、と訝しんでしまうのがオチだ。
そう、きっかけがいるんだ。魔族と人間、双方が矛を収めるような……そんな出来事が。
俺はそれを演出したに過ぎない。魔王が人間を認め、人間が魔王を認める。この流れが必要だった。
まあ、若干魔王ちゃんや俺の願望が反映されたパフォーマンスであることは否定しないが。
こうして、うまい具合に空気を出して魔族と人間は友好条約を結んだ。互いを認め、傷つけず、差別をせず過ごすという内容。
何もかもが、上手くいきすぎている。
よかったよかった。これでこの州も我が王国の領地として……。
などと考えていると突然、パティが俺の手を握った。
「お前のぬくもりは、私の体で生きている」
え?
「さ、さっきのことはあまり口外しないでくれ。姫総督と恐れられている私。あ、あのようなはしたない姿を曝すことは……死ぬよりも恥ずかしい。あ……あんな姿を見せて甘えるのはお前だけだからなっ!」
は?
ま……幻の俺えええええっ! いったい何をやったんだ? 取り返しのつかないことをしでかしてるんじゃないか?
などと不安に思いながら、俺たちは魔王ちゃんに別れを告げたのだった。
グランヴァール州の城、会議室にて。
今日、この場にはグランヴァール州の人間だけでなく俺たちも座っている。この州にとって敵国ということになる俺たちではあるが、見事魔王を倒して見せたこともありこうして話をする機会が得られたのだ。
椅子に腰かけているは、いずれのこの州を実質的に動かしている重鎮たちである。皆、パティの部下ということに名目上はなっているものの、実務レベルではこの国を動かしているといっても過言ではない。
「俺はグリモア王国国王、カイだ。グランヴァール州の皆さん、初めまして。まずは彼女の話を聞いてもらいたい」
俺が座ると、背後に控えていたもう一人が前に出る。
幹部級魔法生物ちゃんだ。
「喜べ人間ども。そちらの男が魔王様に気に入られたため、私たち魔族もまたお前たちを尊重し、敵対行動を控えてやる。感謝しろ」
あまり丁寧な口調ではないが、とりあえず伝えたいことは言ってくれた。
「断言してもいい。魔王と俺は互いに交渉をした。もう、魔物がむやみやたらにこの周囲を襲ったりしない。そして、お前たちの軍は俺とテレーザが潰した。悪いようにはしないから、俺の王国に参加しないか?」
実質的な併合の誘い。会議室が一気に緊張へと包まれる。
にらみ合い、探り合いの続く会議室の静寂が破られる。パティが立ちあがったのだ。
「知っての通り、我が兄はクーデターを起こし、父……ひいては教団に牙をむいた。あの者たちの悪徳は、お前たちもまたよく知っているだろう」
重鎮たちが一斉に頷いた。彼らもまた、高位の執政官として教団の利権に苦しんできた人々なのだろう。
「しかし兄は、旧来の力を打ち破ることはできなかった。今もまだ教団は力を温存し、多くの罪なき人が……搾取されているだろう。だが――」
パティが机を叩いた。武官らしい行動だ。
「グリモア王国国王、カイ殿は教団の影響を完全に排除した。あの国には、私たちの国にはなかった平等が存在する。短い間ではあるが、あの国で過ごした私が言うのだから間違えない。それに……」
パティはなぜか俺の腕に抱きついた。
「私はこのお方のものとなった! 身も心も、邪神殿に捧げたいっ!」
そう言って、俺の頬にキスをするパティ。
クラリッサが、テレーザが、ホリィが、なんだかむっとしている。
え……なにこれ?
何なのこれ?
ざわり、と重鎮たちが騒ぎ始めた。
おいいいいいいっ! 何言ってんだこの子? 味方になってくれるのは嬉しいが、ちょっと言い過ぎではないだろうか。
「お……おい……、どうしちゃったんだパティ・マキナス?」
「言わせるな恥ずかしい。あの日、世界の終わりで二人過ごした時間は……ああっ……」
ああっってなんだよ!
「あ、あんた……一体何を」
クラリッサがあわあわと慌てている。なぜそれほど狼狽しているのか理解できない。
「カイ……。私はあなたが竜として一生を過ごす誓いをたてることをずっと待っています」
テレーザが変なことを言っている。俺はドラゴンで過ごすつもりなんてないんだが……。
もう、俺この場から逃げたいんだけどいいかな?
と思ったら、ホリィに袖を掴まれていた。
「ねえねえ、先生。私も先生にさっきのやつしてもいい?」
「あ、いや、あれはね。ホリィがもっと大人になったときに好きな人とやるべきだと思うんだ、うん。俺とじゃないな」
「……幻覚魔法」
「え?」
「全部幻覚だったって、あの人に教えてちゃう」
ホリィがにっこりと笑った。
この子……ちょっと黒い! さすがあのアダムスの娘だ。今の俺にとって最も弱点な部分を的確に突いてきた。
「ま、また今度ということで」
「やった!」
難しい問題は先送りということで。
という感じで。
俺の慌てている姿が、逆に好感触だったらしい。会議は滞りなく進み、グランヴァール州がグリモア王国に併合されることが決定した。
読んでくださってありがとうございます。
この次からちょっとはまじめな話になる予定。
ちゃんとハーレムが演出できているのでしょうか。




