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龍族の誇り




「この先に、レストって大きな町があるだ。三時間あるきゃー着くで」

「ありがとうございます」


 通りがかりの旅人らしき人物に道を尋ねてみた。どうやら、街道を進んだ先にレストという町があるらしい。

 目的地が定まって、少し気が楽になった。さっさとそのレストとやらにたどり着くことにしよう。


「テレーザ、目的地までの距離が分かったぞ、レッツゴーだ」


 と、隣を見たらいつの間にかテレーザがいなくなっていた。慌てて周囲を見渡すと、彼女は地面に寝そべっていた。

 何をしているんだ? こいつ。


「苦いです、カイ。これが人間界の食べ物なのですが。人間の舌はどうかしてます。絶対におかしいです」

「こ、こらっ! その草は食べ物じゃない!」


 俺が旅人と話をしている間、テレーザは道のわきに生えていた雑草を食っていたらしい。人間が口にすれば間違いなく腹を壊す感じだが、ドラゴンはそのあたりどうなんだろ?

 これが羊やらヤギであるならなんとも微笑ましい光景ではあるのだが、食っているのは幼い人間(に見える)少女なのだ。もはや頭のおかしさに哀れみすら覚えてしまうレベルである。


「仕方ないやつだな、ちょっと待ってろ」


 俺は指先に魔力を集中させた。かわいい契約竜のために、一肌脱いでやろうじゃないか。

 物質錬成レベル六、食糧生成。

 ぽん、と俺の手の平にケーキが出現する。物質錬成魔法によって生み出された俺の料理だ。


「これがチーズケーキという食べ物だ。いいか、人間は調理された食べ物を食べるんだ」


 俺はテレーザにチーズケーキを放り投げた。放物線上に宙を舞っていくそれを、彼女はまるで犬のようにぱくっとキャッチした。

 口いっぱいに頬張った。

 うっとりとした至福の表情。どうやらお気に召したらしい。


「うーん、でりしゃすです」

「ふふ、俺は魔法を極めた人間だからな。料理のクオリティーも並大抵じゃない。感謝しろよ」

「飲み物も出せるんですか?」


 やれやれ、魔法を極めた俺にできないことなどない。

 物質錬成レベル二 飲料生成

 ぴゅー、と俺の指から出る赤色の液体。決して血などではなく、俺の物質錬成魔法で生み出されたトマトジュースだ。


「すごいです、ぴゅーって出てます」


 テレーザは俺の指先から噴出しているジュースをペロペロとなめとった。


「美味しいです」

「ふん、トマトジュースだけじゃないぞ。見ろ」


 赤、黄色、白、紫、元となる原料に従い、液体の色は様々に変化していく。中でも彼女が最も興味を示したのは、黄色い液体だった。

  

「ほわぁ、何ですかこの飲み物は。水なのにとても美味しいです」

「レモンジュースが気にいったか。よしよし、いくらでも飲んでいいんだぞ」


 テレーザはごくごくと俺が作ったレモンジュースを飲んでいる。

 なんだか、女の子に指をしゃぶらせているような構図だ。周りに人がいないからいいけど、変な誤解を与えてしまいそうだな。

 こうして、俺はテレーザが気の済むまでレモンジュースを与えることにした。 

 


「テレーザ、町が見えてきたぞ」


 歩くこと二時間。森を抜けて平原に出た俺たちの目に映ったのは、遥か遠くに見える町並であった。

 城壁などない、住宅が密集した町。

 中央部には四階建ての建物がある。おそらくは町の中心となる役所か何かだろう。

 この規模であれば、人口は一万人を超えているはず。旅人がふらりと入るには十分な規模だ。


「なあテレーザ、さっきから何を黙っているんだ。町に入るのは初めてだろ? 人ごみの中でも俺から離れないように注意な」

「…………」


 どうしたんだテレーザ? さっきから反応が薄いぞ。

 俺はここに至ってテレーザの方を見た。

 まるで病人のように顔を青くしながら、内股になってプルプルと体を震わせている。

 一体彼女に何が……。 


「おしっこ、漏れそうです」

「…………」


 水竜王の言葉を思い出す。確かこの子が漏らしたとかどうとか。

 この子、あんなに強がってたのに、このオチかよ。


「漏れそうって。あ、いや、俺も気が利かなかったかもしれないな。ちょっと遠くに行ってくるから、その辺で――」

「な、何言ってるんすか?」


 テレーザが半分涙目になりながら反論してきた。


「わ、私は誇り高き水竜王の孫。こっ、このような地面でお花摘みなど穢れています。例えこの膀胱が破裂しようとも、そのようなことは絶対にやりません!」


 どうやら龍族的にここで用を足すのはNGらしい。龍族の誇り高さは俺も良く知っている。こんな会話の流れになったら、たぶん死んでもやらないだろう。

 でも――


「いや、そのままだと体に悪いだろ? 変なこと言ってないでさ」

「飲んでください」

「はぁ? お前何言ってるの?」

「飲んでくれたらセーフです。全然恥じゃありません。カイ、飲んでください」

「いやいやその理論はおかしい」

「あ……もうダメです。カイ……。あ……ああ……ああああああああああ、もうダメなんですうううううっ! おしっこもれちゃうんですうううっ! お願いですから飲んでくださいいいいいっ」

「落ち着けっ!」

 

 要するに、トイレがあればいいということだな。この大将軍カイに、できないことはないっ! 

 使い魔錬成レベル八、ゴーレム生成。

 

 俺の絶大な魔力によって、周囲の土からゴーレムが生まれた。その数は十体。主の命令に絶対服従のこの使い魔は、生きているわけではなく使い捨てなので様々な用途に使える。

 ゴーレムたちは俺の意思に従い、すぐに周囲の土や木を集めて簡易トイレを作った。


「どうだっ!」


 その間約三十秒。職人も驚きの短期間である。


「……カ、カイ。あなたは神ですか? これでおじい様に馬鹿にされないで済みます」


 いや、もう充分馬鹿にされるレベルだと思うけどな、俺。

 テレーザは夢遊病者のようにふらふらとした足取りで、トイレへと駆けこんだ。下手に体を動かしたら漏れてしまうからだろう。

 ふうっ、なんとかなって良かったぜ。

 しばらくすると、テレーザがすっきりした顔をしながらトイレから出てきた。さっきまで汗をかきながら震えていたのが嘘のようだ。


「脂汗をかいて喉が渇きました。カイ、さっきのレモンジュースをください」

「…………」


 この子、大丈夫かな。


読んでくださってありがとうございます。


まじめな話を振っておいてこのネタ回。

こうしてギャグやりたい自分とシリアス鬱突き進みたい自分との葛藤が続いているのでした。

バランスをとっていきます。

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