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ツヴァイク州兵戦


 帝国ツヴァイク州とグリモア王国(旧オールヴィ州)との国境は、山岳地帯に覆われている。あまり交通の便が良くないこの場所に、今、帝国兵と王国兵が集結していた。

 山の中腹に建設された砦は、五〇〇年ほど前に反乱軍と戦った名残らしい。今、この地には帝国兵が立てこもっている。

 当初はこちらに果敢に攻めてたててきたツヴァイク州兵であったが、すぐに防戦へと切り替えた。グランヴァール州兵と同時に攻めたはずであり、王国はそれほど兵士を割けないはず。だが、こちら側の兵があまりに多かったからなのだろう。緒戦で出鼻を挫かれた彼らに残された道は、もはや砦に立てこもるのみだった。


「クラリッサ大将軍、門を破壊が完了しました」


 大将軍、クラリッサは馬に跨り配下の報告を聞いた。小高い丘からは、砦の様子がまるで地図を眺めているかのようによく見える。

 城門前には多くの兵が集まっている。木とロープによって作られた破城槌が、巨大な砦門を破壊していた。

 この破城槌を作るためには、魔法が大いに役立った。風魔法で木を切断、加工し、氷結魔法で丸太を固定するなど、魔法による様々な工夫が凝らされた。

 カイであれば、そもそも魔法で門を破壊することが可能だったかもしれない。しかし今、この場に彼はいないため、できるレベルでできることをやらなければならないのだ。


 本来、ツヴァイク州兵は精強であり数も多かった。しかし、グランヴァール州兵はカイとテレーザが相手をすることとなり、こちら側に多数の兵を動員できた。加えて、魔法使いの存在によって兵士自体の強さが底上げされている。その結果こそ、こちらが優位に立っている今の状況なのだ。


「いくよー、みんなー」


 ホリィの気の抜けた掛け声とともに、王国の魔法使いたちが砦の中へと突撃する。武器を持ちながらも、魔法により敵を攻撃することができる彼らは、この戦争で大いに活躍していた。

 

 クラリッサは砦の様子を見るため、緩やかな丘を下りて行った。馬を走らせ、砦の前までやってくる。


「き……聞いてねぇよ……こんなの」

「な、なんで〈邪法使い〉がこんなに……」

「ああ……熱い、俺の手が……手がぁ……」


 砦からは悲鳴のような叫び声が聞こえる。もはや彼らが軍団として機能することはないだろう。


「あれは……」


 と、砦を見ながら呟く。

 砦の上に、雷の巨人が出現した。雷魔法レベル七、光電大公コンスタンティンである。ホリィはカイの指導のもと、レベル七の自然系魔法まで体得してしまったのだ。


「あはっ、すごいっ! 今日はすっごく上手くできちゃった。先生に見てもらいたかったなぁっ!」

 

 ホリィの声をこちらまで響いてくる。どうやら魔法が上手くいって嬉しかったようだ。

 クラリッサはカイから聞いている。レベル六は二~三人程度を余裕で倒せる強さで、レベル七は一〇~二〇人を相手にできる程度の強さであると。つまり、今のホリィはある程度の集団を一人で相手にできてしまうのだ。


 そして、育成した強力な魔法使いたち。ホリィには劣るものの、レベル三までの魔法を行使することができる。

 加えて、敵兵に〈邪法使い〉は見えない。教団の力を借りることができないエドワードの弱みだろう。

 その結果が、この大勝。


「撤退っ! 撤退っ!」


 遥か遠くから敵の将軍と思われる人物の声が聞こえる。さすがにこの乱戦では完全に倒しきるまではいかなかったようだ。残った兵士たちは拠点から上手く退却しているのだろう。

 

 後ろから足音が聞こえたので振り返る。クラリッサ傘下である将軍の一人だ。


「クラリッサ大将軍に報告します。現在、砦をほぼ制圧。ツヴァイク州兵は北門より脱出し、一〇〇〇人ほどを引き連れて撤退中。現在追撃中です」


 クラリッサは考える。このまま進軍し、撤退中の敵兵を含め一網打尽にするか、それともここで一端区切りをつけるかを。

 確かに、兵士たちの士気は大いに上がっている。このまま進軍を果たしても、いい結果が残せるかもしれない。

 しかし、それ以前に問題が存在するのだ。

 食料がない。

 もともと防衛戦を考えていたため、こちらから進軍するほどの余裕ある食料をもってこなかった。加えて、セレスティア州から密貿易による食料輸入の話も立ち消えてしまったため、今はさほど余力がない状態である。


「あまり深追いはしないで、引き返すように伝えて。あんたに兵士を五〇〇〇人付けるわ。この砦を守って。あたしたちはいったん城に引き返す」

「かしこまりました」


 将軍はクラリッサの命令に従い、部下たちに指示を始めた。


 クラリッサは撤退する。

 グランヴァール州兵はカイが相手をしている。彼ならば敗北することはありえないだろうが、それでも万が一はあるかもしれない。あまり深追いして対応できなくなってしまってはまずいと考えたのだ。

 しかし、このときすでにカイはグランヴァール州兵を倒していた。いらない取り越し苦労ではあったのだが、今後の指示を仰いでおかなければならないので、やはり一時帰還が正解だったのだろう


読んでくださってありがとうございます。


これで戦争は一区切りです。

しばらくは事後処理とかあれこれ。


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