姫総督との戦い
姫総督、パティ・マキナスと対峙する俺。水神ミストによって生み出された霧を挟み、俺たちは対峙する。
パティ、マキナスは巨大な槍と盾を持っている。超振動槍と絶対防御盾だ。
超振動槍は巨大な槍である。形状はランスに似ているが、ところどころに機械らしくネジやら鉄パイプが付随している。
まさか、この時代で再び出会うことになろうとは。
そして、絶対防御盾。
さほど大きくない、上腕を覆う程度の盾。
パティ・マキナスの持つ絶対防御盾は、かなりのレベルで魔法の力を無効にする。
特に自然系統の魔法は、物質の状態に魔力で干渉しているものが多い。そのため、魔力の消失が即魔法の無効化に繋がってしまう。
だからこの女を近づけては駄目なんだ。ミストを消されてしまう。
さてと、無駄だと思うが少し話をしておくか。
「パティ・マキナス。お前は本当にこのままでいいと思ってるのか?」
「何の話だ?」
「第一皇子エドワードはクーデターを完成させた。しかしそんな彼でさえ、教団の力を押さえつけることはできなかった。この帝国は……新しい風を必要としているんだっ! 俺の作り出した国では、教団の連中は完全に排除した。あの男ができなかった理想を、実現したんだ。俺はエドワードの理想を体現しているっ!」
「そうみたいだな」
「どうだ? 俺と協力して、この国を変える気はないか?」
「ふっ」
パティは笑った。
「私は、兄上に協力してるというわけではない。もちろん、あのクーデターに加担していない」
「……そうなのか?」
驚いた。
タイミングよくグリモア王国に同時進行してきたから、てっきり同盟関係にあるものとばかり……。
「そういう話をつけてきた。兄上に敵対をせず、父上を助けず、ただ帝国のためにオールヴィ州を攻める。それが私と兄上の……約束だ」
なるほど。よく考えたら、皇帝にとってもエドワードにとっても俺は敵なんだ。この国を攻めることは、誰にとっても離反と見なされない。
エドワードとは消極的な協力者、といったところだろう。
「話は終わりだ、邪神。いくぞ……」
パティは深く腰を落とし、跳躍の構えを取った。ピリピリとした空気が、この場を支配していく。
パティが動いた。
早い。
巨大な武器を持っているとは思えないほどの速さで、俺との距離を詰める。だが――
「甘いな」
風魔法によって強化された俺の動きに迫るものがあったが、超えるほどではなかった。まだ俺の優位は崩れていない。
「お前は……本当に人間なのか?」
「人間だよパティ・マキナス。魔法使いではあるがな」
驚くパティは、しかし態勢を崩すことなくこちらを見据えている。
重低音が鳴り響く。
超振動槍が起動した。揺れる槍は大気を震わせ、竜の鱗すらも貫く威力を生み出す。
パティが再び動いた。その速度は先程よりも……速い。
「おっと……」
俺は寸前で避ける。
大岩へと激突した槍は、まるで何の障害物も存在しなかったかのように貫通する。周囲に岩の破片が散らばった。その威力は大戦時代と何ら変わりない。
「大した奴だ。風魔法で強化された俺の動きについて来れるとはな」
「今のが避けられるとは思わなかった。」
身体能力も高いか。こいつは……。
「気に入った、パティ・マキナス。お前は俺の王国に必要な人材だ。生きて捕虜として連れていくことを約束しよう」
「ずいぶんと余裕だな邪神。私に勝てると思っているのか?」
「無駄だ。お前は俺を倒せない」
俺は手を構えた。
水流魔法レベル七、蒼水大公フォーレンを召喚する。俺の倍ぐらいの身長を誇る、水の塊。
大公は携えた大剣を構え、パティへと振り下ろす。彼女は水の剣を避けようとせず、ただ盾を前に出す。
フォーレンの剣と盾が接触した……その瞬間。
魔法消去。
やはり絶対防御盾相手ではこうなってしまうよな。
「ミスト、やれっ!」
俺の指示よりも早く、ミストが水の弾丸を放った。一直線にパティへと向かっていく。
二か所から同時に攻撃されれば、この盾の持ち主は防ぐことができないのだ。
だが、パティは超振動槍を構え、ミストの水弾を穿った。真っ二つに割れた水の塊は、パティの体を少しだけ濡らして周囲へと霧散してしまう。
これを防ぐ、か。本当に傑物だ。俺の予想を完全に凌駕していた。しかしそれでもなお――
「終わりだ」
精神操作レベル三、催眠魔法。
催眠魔法によって、パティは深い眠りについてしまった。最初の攻撃を盾で防ぎ、ミストの攻撃を槍で防いだ彼女だったが、その体勢から再び盾を構えることは不可能だった。
俺の勝利だ。
水神ミストを召喚する前であったのなら、もう少し苦戦したかもしれない。まあもっとも、それでも手はいくらでもあった。俺には勝てなかっただろう。
あの盾とは戦争で何度も相手をした。対策なんていくらでも作れている。集団で攻められるとかなり厄介なんだが、一対一で俺が負ける道理はなかった。
しかしそれでもなお、パティ・マキナスの力量は高かった。彼女ほどの実力者が五人いたとしたら、さすがの俺でも勝つのは難しかったかもしれない。
「あの水蛇のせいで私の役目がなくなってしまいました」
と、いつの間にか隣にはテレーザ。自分の活躍が奪われてしまったために、少々ご立腹らしい。頬を膨らませている。
すでに、グランヴァール州兵のほとんどが壊滅した。活躍具合はミスト四割、俺二割、、テレーザ四割といった所だろう。
水魔法をくらった一部の兵士は生きているものの、衰弱して戦闘を継続できるほどではない。すでに五体満足な別兵士に連れられ、撤退を開始している。
俺は催眠魔法眠っているパティを抱き抱えた。
「とにかく、この女を連れていったん戻ろう」
「了解しました」
テレーザが竜体へと変身した。
「ミスト、戻すぞ?」
――またいつか、カイ。
俺はミストを消失させた。
「クラリッサたちは大丈夫かな?」
今はこの場にいない仲間たちのことを思い出しながら、俺はドラゴンの背に乗るのだった。
読んでくださってありがとうございます。
パティとの戦いはもう少し引き延ばそうかと思いましたがここで決着。
区切るのが難しい。