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グランヴァール州兵との戦闘


 グランヴァール数兵、十軍団の内の一つ。パティ・マキナスの所属しないその部隊の中心へと、俺は着地した。

 砂埃が落ち着き、周囲の状態が露わとなる。

 敵は、よく訓練されている。

 竜が珍しいこの世界で、人が空から降ってきたのだ。驚き、心を乱してもおかしくないはず。

 しかし、グランヴァール州の兵士たちは隊列を乱していなかった。綺麗に散開し、武器を構えこちらを凝視している。

 そして、遥か遠くに見える別の軍団は、こちらの騒動などまるで気にすることなく前進している。俺がこうして現れることは計算の内だったのかもしれない。

 戦闘慣れしている、というアダムスの進言を改めて思い出した。


「放てっ!」


 兵士の声が響くと同時に、雨のようにこちらへと向かってくる槍と矢。その狙いは正確。まさに矢継ぎ早、といった様子で次々とこちらに向かってくる。

 俺は大地魔法によって、土の防壁を生み出す。放たれた槍や矢は、厚い土の壁によって完全に防がれてしまう。


「なっ!」


 若干の狼狽を見せる兵士たちだったが、臆することなくすぐさま第二派を用意しようとしている。

 その程度か。


「今度は俺の番だな」


 宣言し、跳躍。大地魔法によって地表を隆起させたそのジャンプは、おおよそ人の筋力では到達できないほどに高く、強い。宙を舞った俺の体は、離れた別地点へと着陸する。

 近くにいた兵士が剣で切り付けてきた。しかし風を纏う俺の体に、刃が当たることはない。仮に当たったとしても、魔法によるレジストが効いているため致命傷には至らないだろう。

 腰の剣を抜き、男の一人を切りつける。雷魔法を絡めたその一撃は、かすり傷程度でも相手を戦闘不能にする。


「ちぃっ」

 

 厄介だ。一人一人が倒せない相手というわけではないが、これほど散り散りに動かれてしまっては一網打尽にできない。

 激しく剣を動かすと同時に、別の魔法を発動させる。


 業火炎帝ウェザリス。


 平時であれば、これだけで一軍団を壊滅させるほどに効果があっただろう。しかし今回、相手は魔法や竜のブレスを警戒し散開しているため、一度に倒せるのはせいぜい百人前後。

 もどかしい。

 ウェザリスが炎を放ち、その射程圏外に逃れた敵たちは俺が一人ひとり仕留めていった。風魔法によって移動速度を高め、雷の魔法を絡ませた剣で対応する。敵が離れている以上、こうやって始末していく以外道はない。


 やっと一軍団を壊滅させた。かなり時間を食ってしまったが、まだまだ他の部隊とも戦わないといけない。 

 少し敵を舐めすぎていたか?

 テレーザの方は大丈夫だろうか。

 


 テレーザは上空にいた。

 眼下には自分を見上げる敵兵たち。怯えることなく、的確に指示をしている将軍の声が聞こえる。

 矢が放たれる。空中にいるテレーザに、ギリギリ届かない程度の射程だった。

 テレーザはブレスを放った。強力無比な水の濁流は、周囲にいる敵兵たちを押し流していく。

 だが、散在している敵兵に対し、一網打尽というわけにはいかなかった。

 ブレスは、本来強力である。オールヴィ州反乱鎮圧部隊のように密集していたなら、それだけで決着がついていただろう。あるいは、その威力に怯え逃げ出していたなら、それだけでも勝敗は決していた。

 テレーザとて敵を馬鹿にしていたわけではない。しかし、竜に怯えない兵士と戦うのはこれが初めてであるから、いささか戸惑っているのだ。

 矢が当たった。偶然射程範囲が広がるような一撃を放った者がいたのだろう。


(煩わしいですね)


 矢が体にあたってどうこうなってしまうような鱗ではない。しかし近づきすぎるとブレスの効果範囲が狭まってしまうため、ある程度距離を保つ必要があった

 遥か遠くには、カイが生み出したであろう炎の巨人が見える。だが、こちらで戦っている兵士たちのように散開して戦っているのであれば、その効果は限定的だろう。

 そういえば、とテレーザは思い出す。自分が担当する軍団は七で、カイが担当する軍団は三。こちらの方が数は多いのだ。


(まったく、カイは人使いが荒いですね)


 むろん、テレーザとてカイの考えを知らないわけではない。強力な槍を持つパティとは直接戦うなと釘を刺されていた。多少の苦戦が予想されるからこそ、あえてカイは自分の持ち分を減らしたのだろう。

 その気遣いには感謝していると同時に疑問に思っている。そもそも、ドラゴンの厚い装甲を貫くことが可能なのだろうか? カイ以外の人間はザコにしか見えない彼女にとって、その命令はいささか不服だった。

 だが、契約者であるカイの命令に逆らうことはできない。竜族の誇りにかけて、そのような真似は許されないのだ。

 かつて竜族を統べた大竜王がいない今、水竜王こそが竜世界の指導者なのだ。その孫娘である自分には、無様な結果など許されない。


(見ていてくださいおじい様、これがあなたの……娘ですっ!)


 テレーザは咆哮した。大地が地震のように揺れ、草が抜けてしまうほどの衝撃が周囲を突き抜ける。勇ましい敵兵たちの瞳に、少しだけではあるが怯えが宿った。

 ともあれ、テレーザにできることは、ブレスにより敵兵を減らすことだけだ。七軍団を相手に、進軍を許さず徐々に追い詰めていくのだった。


読んでくださってありがとうございます。


戦いです。

ひたすら戦いです。

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