独立記念パーティ
独立宣言後。
俺は潤沢な資金を使い、パーティを開いた。
市民に、そして帝国に俺たちの豊かさを見せつけるための行事。華やかな宴を経て、明日への希望を育てるためでもある。
城内では富裕層向けのパーティが催されており、一応俺もここにいる。奥では楽団が音楽を奏で、その音色に合わせてダンスを踊っている。
屋外では庶民向けのパーティ。こちらは無礼講で参加者がひたすら飯を食っている。テレーザはあっちに行った。正直俺もあっちに行きたい。
ふう、疲れた。
さすがに、五〇〇〇年もたてば踊りやマナーというものが完全に変わってしまっている。アダムスから話を聞いておかなければ、恥をかいていたところだろう。
どこの誰かも分からない夫人やら商人やらと、適当に喋りながらダンス。まったく心がこもっていない。
そろそろ義務は果たしただろう、と中央から遠ざかって壁際にもたれかかっていた。
ふと、部屋の外を歩いている少女を見つけた。
クラリッサだ。
胸当てと剣という装備。しかも、普段は身に着けていないような兜を身に着け、顔全体を隠している。
俺は部屋から出て、彼女に駆け寄った。
「お前、何してるんだ?」
「警備は任せて。不審者がいたらとっ捕まえてやるわ」
などと意気込んでいる。
こいつ、貴族や商人とダンスするのが嫌だから警備にかこつけて逃げようとしているな? 大体、警備なんて将軍の仕事じゃないだろ。
俺だってな、逃げたいんだよ! 外で食いたいもの食えるだけ食っておきたいんだよ! でも付き合いがあるから、仕方なくここにいるわけで……。
許せないから、逃げるとか!
「クラリッサ」
「何?」
俺は魔法を行使する。風魔法で服を脱がせ、物質錬成魔法で彼女の体に合うドレスを生成。
一瞬にして着替え完了だ。
「え……ええ? ちょ、何よこれ」
「何って、ドレスだろ?」
「や、止めてよね。あたし、貴族とかじゃないんだから。こんなドレス、恥ずかしいじゃないっ!」
「いいじゃないか、似合ってるぞ」
「……え」
クラリッサが顔を赤めた。なんだこいつ、熱でもあるのか?
「あ、あのね、カイ、カイと一緒になら……ダンスを――」
と、何か言いかけた彼女だったが、その声は俺に届かなかった。突然の美少女出現に、わらわらと他の男たちが寄ってきたのだ。
「わたくしはシュテファン領男爵、ウィリアムです。いやはや、あなたのような美しい花を放っておくとは、ほかの参加者は見る目がない」
「私はジェラード商会代表、ヘンリーです。今宵は質の悪いワインに失望していたところ。 あなたの美貌に酔った私をお許しいただきたい」
「え……え? え?」
男たちは歯の浮くようなセリフを吐いて、クラリッサを部屋の中央へと連れていく。
さよならクラリッサ。この国の代表として、しっかりコミュニケーションとってくるんだぞ。
「カイ、助けて!」
「がんばれよー」
半分涙目の彼女を、俺は手を振って見送った
さて、と。
クラリッサを送り出した俺は、改めて部屋の外に出た。心地よい夜風が肌を撫でる。
ふう。
やっと、ここまで来れた。
テレーザ、クラリッサ、ホリィ、アダムス、そして俺のことを邪神と称える反乱軍の人々。まったく知り合いのいなかったこの地で、俺はずいぶん人々と親交を深めてしまった。
この国は、祖国を滅ぼした敵国。ここに生きているすべての人々は、ほぼ間違えなくその国の子孫たち。
複雑な気持ちだ。
俺はエミーリア様のために祖国の名誉を回復させる。でも、その先は何も考えていなかった。
でも。
ホリィに魔法を教えて、クラリッサと話をして、この世界の人々と一緒に暮らしていくのも、悪くないと思えるようになってきた。
「せんせっ!」
と、考え事をしていたら、いつの間にか近寄ってきている彼女に気が付かなかった。
ホリィだ。おそらく会場から持ってきたであろう、チキンを両手に持っている。
うーん、こんな女の子がチキン両手にもって振り回しながら走ってくるとか、シュールすぎる。この子は本当に……扱いにくい。
「せんせがね、ダンスいっぱいでお腹すかせてるって思ったの。はい、あーん」
と、俺にチキンを突き出してきた。そのまま鼻の穴に突っ込まれそうな勢いだったので、とりあえず口に入れて頬張っておく。
うん、まあ、美味しいんだ。すごくおいしいんだ。ただ俺たち、とっても目立ってると思うんだこれ。時々歩いている人々の視線が痛い。頼むからもう片方の手に持ってるチキンを振り回すの止めてくれ。さっさと食べてくれ。
「うん、ありがとう。美味しいよ」
「やった、えへへ」
ホリィが嬉しそうに笑った。その姿を見て、俺もつられて幸せな気分になってしまう。
ちょっとお礼がしたくなってきた。
物質錬成レベル六、食糧生成。
ぽんっ、と俺の手からチョコレートが生まれる。
「俺からもプレゼントだ。受け取ってくれ」
「すごいすごいっ! それ、どうやるの?」
と、大はしゃぎでチョコレートを食べるホリィ。美味しかったからなのだろうか、手にこびりついたチョコまで舐めとっていた。
「うーん、自然系の魔法以外は、結構扱いが難しいからな。まあ、飲み水を作る魔法ぐらいだったら、今度教えてもいいかな」
「やたっ!」
それで満足したのだろうか、ホリィはアダムスのところに駆けていった。
ふう、ホリィは楽しそうでいいな。
読んでくださってありがとうございます。
パーティは一つの話にまとめるつもりでしたが、区切りが悪そうなので分けることにしました。
次の話もパーティです。