表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/76

独立宣言

 独立宣言、当日。

 俺は城のバルコニーに立っていた。後ろには総督であるアダムスと、大将軍として就任予定のクラリッサが立っている。

 城のバルコニーから、多くの人々を見下ろす。今日の独立式典に興味を示し、集まってくれた人々だ。

 貧民層、富裕層、そして州外からの商人や貴族たち。多種多様な人々が、この宣言を聞くため集まっているようだった。全員がバラバラに散っているわけではなく、やはり似た者同士で固まっている。


「おい、アダムス総督が後ろに控えてるぞ?」

「あの男は誰なんだ?」

「確か総督が最近召し抱えた、凄腕の側近だという話を……」


 富裕層からは戸惑いの声が上がっている。表向きにはまだアダムスが総督でこの州の支配者ということになっているから、疑問に思うもの当然だろう。


「邪神様あああああっ!」

「万歳っ! 万歳っ!」

「さすが俺たちの邪神様っ!」


 貧民層であり元反乱軍に属する人々は、俺のことを喝采している。こいつらに関しては、何も心配する必要はないだろう。

 だいぶ人が集まってくれたな。


「カイ殿、そろそろお時間です」


 後ろに控えていたアダムスが声をかけてきた。いよいよか。

 歴史に名を残すであろう、独立宣言。幾多の戦場を潜り抜けてきた俺にとっても、ひどく緊張するものだった。

 深呼吸をする。


「みんな、今日はよく集まってくれた。まずは屋上を見てほしい」


 城のテラスに控えていたテレーザが、すぐさま人間体を解き竜へと変化する。巨大生物が城の屋上へと現れたのだ。

 これは一種のデモンストレーション。どこの誰かも分からない俺が、王としての正当性を示すための……力。


「このドラゴンは俺の契約竜だ。俺の命令に従い、自由自在に帝国内を動き回ることができる」


 俺は手を振り合図した。すると、テレーザが近くの川に向かって水のブレスを放つ。

 人間に当たれば、まるで洪水に押し流されてしまうかのような勢いを持つ水。今回はあえて近くを流れる川へと放ったが、これを人間に放てば無事ではいられないだろう。

 不満顔だった富裕層が、今となっては唖然としている。


「そして俺は邪法……もとい魔法を扱える。今、帝国最高の〈邪法使い〉はアダムス総督の娘であるホリィだ。だが、俺の技術は彼女を大きく上回っているっ!」


 俺は魔法を発動させた。これもまた、デモンストレーションの一環だ。

 レベル九の魔法を三つ。

 瞬時にレベル九の魔法を併用することは、さすがの俺でも難しい。しかし事前に準備していたものであれば、ある程度の融通が利く。


 業火炎帝ウェザリス。

 大洪水帝バーハラ。

 閃光雷帝イリューダ。


 火、水、雷の三属性を司る強大な魔法の巨人たちが、城を取り囲むように現れた。そして、さながら臣下が主人に対し服従するかのように、俺の下へと一礼する。

 その姿は圧巻。さながら神話で語られる物語であるかのように、壮大さと恐ろしさが共存している。

 戸惑いのため、大衆はしんと静まりかえっている。俺の声が綺麗に遠くまで響くだろう。

 

「俺はこの武力と州兵を用いて、この大陸に覇を唱えたいっ! 今日をもって、この州は帝国より独立し、新しい国を建国するっ!」


 独立宣言とは、帝国への宣戦布告。話を聞いた富裕層に緊張が走る。


「新たな国の名は、『グリモア』っ!」


 ざわり、と聴衆がざわめき始めた。

 グリモア。

 これは、俺の祖国の名であると同時に、この時代においては邪竜エミーリアが所属する国となっているのだ。アーク教が唱える創世神話において、邪悪な言葉なのである。

 反乱軍はもともとこの名前を使っていたから、さほど抵抗はないだろう。だが富裕層にとってはそうでないはずだ。

 

「ご存知の方も多いと思う。この言葉は、アーク教団において邪悪な国の名前だ。嫌悪感を覚える方もいるかもしれない。その点は理解している」


 大衆からは戸惑いの声を聞こえた。独立宣言、という話は聞いていたものの、国名までは耳に入っていなかったのだろう。

 

「しかし俺は、教団への決別を宣言するために、あえてこの名を使うことにした。どうか賛同していただきたい」


 俺は手を振りかざした。天高く地上を照らす太陽をつかみ取るように、そしてこの大陸を……飲み込むかのように。


「ともに戦おうっ! 俺とともに巨悪を……教団を打ち取るんだっ!」


 一人、二人と拍手が続いた。やがて唸り声のような拍手と喝采が、広い城の中を覆っていく。

 最初に拍手をした人々は、実は俺の身内だ。次につられて拍手をしたのは、貧民層。そして最後に、周囲の空気に押され拍手したのは富裕層だ。それぞれの思惑を象徴した結果だと思う。

 だが、これでいい。

 いきなり独立宣言をして、『心から万歳万歳と称えてくれ!』と強要するのは難しい話だ。まず、この空気を肌で感じて理解してほしい。

 その空気が、帝国を倒し新たな世を生み出すための……萌芽となるのだ。


 

 こうして、独立宣言は完成した。

 かつてのグリモアと同じ名を持ち、反乱軍が名乗っていたのと同様の国名、グリモア。

 この名をもって帝国を制圧することは、悪名として轟いている我が祖国への名誉挽回になるだろう。ひいては邪竜として謗られ恐れられているエミーリア様へのイメージ改善も図れる。

 帝国に敵対し、かつ俺の祖国を称えられる。なかなかの一手だった。


読んでくださってありがとうございます。


独立宣言、ってタイトルで独立するんだけど、章分けは傀儡州のままでいきます。

区切りが悪いので、もうしばらく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ