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魔法使い育成


 俺とアダムスは階段を下りていた。

 向かっているのは、ホリィが州兵となる魔法使いたちを育てている地下室だ。

 目的は、彼女が教育中の兵士たちの出来具合を見るため。

 無骨な石が敷き詰められた通路を、男二人で歩いている。静寂の中に、足音だけがただ反響していた。


「よくこんな設備用意してたな。何に使ってたんだ?」

「…………」


 アダムスが黙りこくった。……ここはきっとよくないことに使ってたんだろうな。深くは聞かないでおくことしよう。

 そういえばこいつ、少し痩せたかもしれないな。ちゃんと俺の言いつけを守っているようだ。


「カイ様がいらしてから、この州は本当に豊かになりました。畑は潤い、民は教会や州からの税が少なくなり喜んでおります」


 税はお前のせいなんだけどな……。俺は平均的な額にしただけだぞ。


「そうそう、この間は近くの山に新しい金鉱脈が見つかりまして。この州はカイ様のおかげで運すらも味方につけているようです」


 ま、その金鉱脈を露出させたの、俺なんだけどな。

 

 あれはそう、まだ反乱軍に合流する前の話だ。

 レストの町から反乱軍の砦へと向かうとき、テレーザにまたがりながら探索魔法を使ったんだ。このとき、人里離れた場所にある金鉱脈の位置は特定した。

 あとは大地魔法で地震を起こし、目標の金を少しだけ露出させればいい。この先は金目当ての奴らが集まって勝手に掘ってくれるだろう。

 いつか使うつもりだったが、こうして州全土を掌握した今こそその活用時だ。経済を発展させるため、大いに役立ってもらうとしよう。

 

 俺とアダムスは、少し広めの部屋にたどり着いた。三十人程度の若者とホリィがいる。

 若者たちが手から火を放っている。火炎魔法レベル一だ。

 正直、レベル一程度の自然系魔法であれば、身に着けるのは簡単だ。ホリィが指導を始めて一か月程度しかたっていないのにこの成果なことからも、難易度の低さがわかるだろう。

 こんな簡単なことを〈邪法〉として特別扱いしてる教団の連中には、本当に呆れてものが言えない。自分たちを特権階級にしたいがため、わざと門外不出にしてるとしか思えないほどだ。


「あ、せんせっ!」


 俺がやってきたことに気が付いたホリィが、嬉しそうにこちらへと走ってきて抱き着いた。勢いで倒れてしまいそうになる。


「この前教えたこと、練習してるか?」

「うん、うん、練習練習! 私、もっと魔法覚える」

「そうかそうか。頑張ってくれよ」


 彼女が強くなることは、喜ばしいことだ。俺が頭をなでると、まるで甘えてくるネコのようなかわいらしい鳴き声をあげる。


「邪神様っ!」


 と、魔法の練習をしていた男が語りかけてきた。

 貧民たちから雇ったのかもしれない。俺の顔を知っているやつもいるようだ。


「じゃ、邪神様。すいません、俺、何の供物も用意できなくて。許してくだせぇ」

「く……供物?」

「羊や、若い娘の生き血とか、そういうのを献上しねぇと……」


 小刻みに震えている男が、俺の顔色を窺うようにして頭を下げる。彼には俺が狼か何かに見えるのだろうか。


「あぁ……、そういうのいいから……」


 俺は邪神としてあがめられている。それゆえに何を勘違いしたのか、動物の骨やらおどろおどろしい人形やら若い娘やらを献上してくる輩が、反乱軍の中にはいた。はっきり言って迷惑だ。

 まあ、生贄とか言って人を殺さないだけまだましだろう。そこまでいったら全力で止めなければならない。

 しかしこの邪神扱い、なんとかならないものなのか。教団への反発という意味では悪くないのだが、俺の気分は決して良くないのだ。


「生き血? 生き血ってなに?」

「生きてる人間の血のことだよ。まったく、俺が吸血コウモリか何かに見えるか? そんなものはいらないと何回言ったことか」

「先生は、生き血、好きなの?」

「いやいやいや、好きじゃないからな。変な勘違いするなよ」

「ふーん」


 ホリィが変なことを覚えてしまいそうだ。


「ねえねえ見てみて、いきちー」


 ホリィは自分の手を切って出血させていた。無駄にドバドバと血が噴き出しているその傷は、ひょっとすると動脈を傷つけているかもしれない。


「あはっ、せんせっ! 生き血だよ。飲んで飲んでー」

「ほ、ホリィィィィィィイイイ」


 アダムスが悲鳴のような声を上げた。その気持ちは十分に分かるし、俺だって叫びたい。


「お……おぉ、や、止めてくれホリィ。ち、血に、俺に吹き付けて」


 俺は血が流れてる腕を押し付けられ困惑気味。飲まないよう必死になって口を閉じている。


 まあ、本人は元気そうだけど怪我は怪我なのだ。ホリィはアダムスに連れられ、この場から立ち去ってしまった。城に戻って治療するのだろう。

 うーん、この子は本当に扱い辛い。


 アクシデントはあったものの、ホリィに代わり俺が指導者として魔法を教えることにした。

 この成長具合だと、もう少しでレベル二の魔法も使うことができるようになるだろう。そのレベルであれば、十分戦争に役立つ。


 俺は国を豊かにし、軍備を整え、そして教団を圧迫している。しかしこの状態で、いつまでも帝国が許してくれるとは思えない。

 このままでは、いられない。

 やがて、帝国は俺たちが敵意を持っていることに気が付くだろう。その時こそ、大いなる戦の始まりだ。

 この脆弱な拮抗が破られる日は……近い。


読んでくださってありがとうございます。


今更ですが、章分けしてます。

この話あたりは『傀儡州編』です。

変なところで区切ってしまってちょっとどうしようかと思案中。

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