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召喚したくなってきたわー


 夜。

 人々が寝静まった、そんな時間帯。

 クラリッサは廊下を歩いていた。

 オールヴィ州城の廊下は、煉瓦造りの武骨な造りをしている。かつかつと足音が周囲に響く。

 やってきたのは、カイの寝室だ。そっとドアを開ける。

 暗いが、部屋の内部構造は覚えている。中央にカイのベッドがあり、周囲には高価な調度品や絵画が並べられている、そんな部屋だったはずだ。


「ねえ、起きてる?」


 声をかけてみるが、まったく返事はない。ただ聞こえるのはカイのものと思われる寝息だけだ。

 クラリッサはそっと彼のベッドに近づいた。いた。やはり寝息をたてて寝ている。

 剣でカイの頬をつついた。当然であるが別に刺し殺そうというわけではなく、起きているのか確認するためだった。


「すぅすぅ」


 間違えなく、寝ている。


「…………」


 薄暗く、月明かりだけが頼りの部屋。クラリッサは呆けたように彼の寝顔を見つめていた。

 暗闇に紛れてこの部屋にやってきたのは、これまでのことを謝りたかったからだ。面と向かってしまうと強気なことを言ってしまうが、こうして彼が寝静まっている時なら……素直になれる気がした。


「いままで、ありがとね。カイ」


 こんなにかわいく寝息をたてている少年が、この州を救ったのだ。いまだに信じられないぐらいだ。


「こいつに、命を助けられたのよね。あたし」

 

 本当に、信じられない。

 無言のまま彼を眺めていると、ふと、口がもごもごと動いているのを発見した。

 寝言だ。 


「……へ……いか……」

 

 と、カイは言った。

 陛下。

 まさか、この幸せそうな寝顔でローレンス皇帝のことを考えているわけではないだろう。だとすれば、彼がここにくる以前に仕えていた人物である可能性が高い。

 いったいどのような人物の夢を見ているのだろうか。クラリッサは気になって仕方なかった。

 思えば、自分はカイのことを何一つ知らない。そういった会話をしたことなど一度もなかった。

 急に、クラリッサはさみしい気持ちになった。

 もっと彼のことを知りたい。

 もっと彼のことを理解したい。

 そう思っている。ずっと思っている。でもそれを口に出すことはできない。そういうキャラだと自分で思っているからだ。


「カイ……」


 吸い寄せられるように、彼の唇へと近づいていく。そのままキスしてしまいそうになったちょうどその時、クラリッサは思いとどまった。

 寝言だ。

 カイが寝言を言っている。


「処女ーぉぅ、万歳ーい!」

「え?」

 

 クラリッサは耳を疑った。

 処女万歳、とカイはつぶやいたのだ。


 悲報、カイは処女厨だった。


 でも大丈夫。なぜならクラリッサはこれまで異性と付き合ったことないのだ。つまりはカイの言う処女であり、要望に応えることはできる。


(って、あたしなに考えてるの?)


 クラリッサは自らの思考を恥じた。こんなことは全然自慢にもならない。というかカイの性的嗜好が間違っているのだ。起きたら厳重に注意してやらなければならない。

 でも、取り合えず自分はカイの好みに合致しているらしい。

 そんなことを考えて自分を励ましていたクラリッサだったが、次の寝言は彼女を絶望の淵に叩き落すには十分だった。


「……むにゃむにゃ、貧乳、処女……万歳」

「……っ!」


 クラリッサは己の胸を確かめた。

 ある。

 結構ある。

 決して胸が小さい方ではない。というかこの年齢でどちらかといえば大きい方だと思っている。それが自慢でもあったし、カイも気に入ってくれるだろうと思っていた。


「カイいいいいいっ! 嘘だって言ってよ! 男の子は大きい胸が好きって聞いてたけどあれって嘘だったのっ!」


 クラリッサはカイの胸倉を掴みゆさゆさと揺らしていた。しかし彼が起きる気配は全くない。

 しかし、それよりももっと重大なことに……彼女は気が付いてしまった。

 カイという主を失ったはずのベッド。そこには――


「カイ……。もう逃がしません。私の便器になってください」


 ベッドの中には、なぜか裸で彼に抱きついている……テレーザがいた。変な寝言をしゃべっている。


「あ……う……」


 クラリッサは考えがまとまらなくなり、とりあえず部屋から出ることにした。



「テレーザさん。ちょっとそこに座ってください」


 朝、自室にて。俺はテレーザにそう命令した。

 この口調はふざけているわけではない。ちょっと怒って&呆れているのだ。

 一糸纏わぬ姿で俺の前に座るテレーザ。その顔には怯えと不安が見え隠れする。


「テレーザさん。僕は男の子です。あなたのようにかわいい女の子が裸で抱き着いてるシチュは嫌いじゃないです。っていうかちょっと好きかもしれない。でもこの際そういうのは全く考慮しないものとします」

「…………」

「これはなんですか?」


 俺が指さしたのは、そう、先ほどまでまさに寝ていたベッドのシーツである。

 びっしょりと濡れていた。


「ね、ね、寝汗です」

「それはちょっと無理があるんじゃないかなー?」


 なぜ俺のベッドに裸で寝ていたのかは気になるところではあるが、それよりなによりこのびっしょりシーツが大問題なのだ。

 これはあれだ、うん。


「そ……それは、その……えっと、あーうー、あ!」


 変な唸り声を上げていたテレーザだったが、何かをひらめいたかのように手をぱんっ、と叩いた。先ほどまでの迷いが顔から一切消えている。


「そのおねしょ、実は私ではなくカイがやったんですよ」 

「あ?」


 あ、認めるんだおねしょって。


「あーあ、カイ、本当に最悪ですね。いいですか? 自分のミスを人のせいにするのはいけないことです! 反省してください!」


 得意げに鼻で笑っているテレーザ。

 こ……こいつ。 

 穏便に済ませてやろうと思ってたのに、よ、よりにもよって俺のせいにするとはな……。

 いいだろう。


「あー俺なんか急にお前の祖父の水竜王召喚したくなってきたわ。最近会ってないしな、この俺のおねしょ布団の前で二人仲良く昔話したいわー。召喚するわー」

「あああああぁ、やめてくださいお願いします私が悪かったですなんでもしますからそれだけは」


 テレーザはあたふたと謝ってきた。まあ本気ではなかったので、適当に許しておくことにしよう。


「いや、まあ自分の罪を認めるなら許すさ。でもな、なんで俺の布団に入ってたわけ? しかも裸で」

「昨日、私はトイレに行きたくなったのです」


 テレーザが昨日のことを話し始めた。


「私は必死にトイレを探しました。しかし、あの部屋もこの部屋もその部屋も、私がドアを開ける部屋はどれもトイレではありませんでした。あふれ出る尿意、パンク寸前の膀胱。すべてを諦めそうになっていた私は、これが最後の力だと思いドアを開けました。そこがカイの寝室だったのですっ! なんという幸運でしょう!」

「どこが幸運だよっ!」

「私は必死にカイを起こそうとしました。飲んでもらうために頑張って起こしました。しかしその努力空しく、力尽きてしまったのです」


 お……おねしょですらなかった。ただのお漏らしだった。しかもその流れなら俺がその時起きたとしても何一つ解決してない。

 こいつ、根本から間違ってやがる。


「服は濡れてしまったので脱ぎました。後で洗ってください」

「…………」


 もはや怒る気力すら失せてしまった。さっさとこの子に服を着せて、この国を発展させるために今日も頑張ろう。

 と、何気なくドアの方を見て、そこに第三者が立っているのに気が付いてしまった。

 クラリッサだ。


「やっぱり……、カイ……そんな幼い女の子の服を脱がせて……」


 プルプルと、、体を震わせているクラリッサ。明らかに怒っている。


「この変態っ!」


 俺はクラリッサの剣で突かれた。まあ俺の本体はレスターちゃん(中略)だから効かないんだよな。

 今日も平和な一日だった。


読んでくださってありがとうございます。


ギャグ寄りにやってしまった日常回。

僕が書くといつもこんな感じになってしまいます。

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