008 取り引き 改稿前
「ああ、忙しい忙しい…ありがたやありがたや。まことに商売繁盛ですこと…、それにしても!こんなんじゃイケマセンことっ!ねぇ…あーたサンあーたサン…聞こえていますか、あーた!」
「…あっしですか?」
「そうよあーたあーた…こんなんじゃイケマセンことっ!おい見てごらんあの山積みを!あれを全部今日のうちに発送するんですよ!!あーたさっきからかかりすぎじゃありません?…はやく弾込めーいい!!失礼。あーた、もう少し急いで急いで…」
「…へい!」
責任者の注意を聞くやいなや、その下っ端イコナズ兵は弾込めを素早くなした。あまりの素早さに誰も不正を行っていることを見破ることはできなかった。
加えて見るからの阿呆面である、彼はただ、人一倍処理能力に劣っている、くずとしか思われておらず、まあそんな奴のひとりくらいいてもしかたないだろうと、邪魔扱いされることもなく……
WIIIIIIIIIIIiiiiii…
「メシメシ~」
「おい!」
「…」
「テメエだ、シカトすんじゃねえ!」
「…?あっしのことですかい?」
「相変わらずうまそうじゃねえか!弁当か?」
「へい」
「俺もだ!うまそうだろ!」
「へい…羨ましいです」
「テメエに言いてえことがあってな」
「…へいなんでしょう?」
「まあ、単なる長ばなしだ…ただし、隅から隅まで覚えといてもらわんと困る」
「へい…ならあっしには無理だと…ちょいと記憶力に難が…」
「まあ…阿呆ぶってばかりは止せ、お互い手の内を見せ合おうじゃねえか…」
「!!」
…その時イコナズ兵の表情が一瞬にして引き締まった。
(…何者だコイツ)
「まあ…警戒されるようなことをいってこんな要求はないが、お互い貸し借りのない様精算せんとな…」
「…何が目的だ!」
イコナズ兵は、他の同僚に絶対に聞き取られないように、ヒソヒソ声で要件を聞き返した。
「毎日忙しそうで…商売繁盛か?」
「……」
「心配すんな!ほかのウスノロどもは気づいちゃあいねえ。が…、俺には見え見えで仕方ねえ」
「…騙す気か?」
「事実だろ?反論できんのならしてみろよ…」
「……」
「あいにく俺の動体視力は宇宙でもほかに類を見ないと踏んでいるくらいのだ。まあ…宇宙は俺が思うよりもずっと広いのだろうけどもな…」
「…つまり…」
「そう、つまり…俺の目は出し抜けねえぜ」
「……」
「ひっひっひ…」
食堂が不気味な笑いに包まれていた…
「何を要求する?」
「っそう…対等な取引だな」
謎の同僚は優位に立っているようにしか見えない。
「さっきも言ったように…宇宙は…宇宙は広い!!」
「それがどうした」
「まあ、話しは簡単さ。オメエのいつもの隠れ仕事にオヒトツ紛らせてもらいたいだけよ」
「……」
「なっ、簡単だろ?」
「…騙すきだろ!」
「な、なんでだよ!ちょちょいとヤッちまえよそのくらい!」
「距離によるが…」
「!!」
謎の同僚は、サスガに侮れないと、気を引き締めた。彼にとって、一番触れたくない話題を一番はじめに口に出したからである。
「まあまあ…俺が計るに…オメエは相当な腕を持っている。これは間違いねえ!!オメエなら間違いねえ…」
しかし、さっきから殺気立つイコナズ兵の圧力に、知らぬ間に彼は飲まれていた…
「俺の大砲じゃとても無理なんだ!でも…テメエのなら間違いねえよ…」
最早余計な駆け引きはできなくなっていた。
…もう、思いっきり本音をぶつけるしかない。
「俺のウデは…あんたがいうように、確かに並ではない…」
「それは言わずもがな!あんな上っから見張られた状態で、しかも結構な距離まで隠れ荷物を飛ばし続けてるんだからな…並じゃねえ!」
「でも……。距離を言ってくれ、隠れながらは限界がある…」
「……、60ディオンだ」
「!!」
瞳孔が開いた!
「…無理だ!ハッキリ言おう。いくら俺の腕がよく、あの大砲が高性能でも。しかも、振りをしながらなんて…話にもならん」
「振りなんて…計画にない!俺の要求はひとつ、オメエに…一球入魂で思いっきり飛ばして欲しいだけさ」
「何を言う…バレちまうだろ!」
「そこを何とかするのが取引きってもんだろ!そんかわり…俺が協力してやる!テメエはいつもの通り阿呆の振りをしてろ!」
「……」
「俺が周りをかき回してやる!そこで…絶対的な隙間を与えてやるから、だからそこに魂を込めて欲しい!」
「……」
「対等に…つまり、報酬は2100だ」
「!!」
イコナズ兵の隠れ仕事三万件に値する!平均的には90日を超えていた。
「頼む!」
「…なんの目的だ!何を送る?」
この底辺の労働者たちの巣窟に、2100という数値は余りにも不似合いであった。
「本当は言いたかなかったが…仕方ない、ここまでが対等なラインだ」
「…」
「…つまり…俺の妹に贈らなきゃならねえもんがあるんだ」
「!!」
イコナズ兵の脳裏に美しく可憐な少女がよぎって離れなかった…彼の汚れ仕事も、実際彼の実の妹の為の苦渋の選択肢だったのだ。
「仕方ない、引き受けよう」
阿呆の姿さえ辞さない意志的精神者の彼が、考えられない事に、他人の…しかも危険を伴った任務を、よりにもよって、情に流されたカタチで引き受けてしまった。
少しく、同じ境遇に思えたから……
・・・・・・
「はやく弾込めーいい!!」
TWOOOOOOOOOOOONNNN…
TWOOOOOOOOOOOONNNN…
TWOOOOOOOOOOOONNNN…
機械的なくらいに大砲の鳴らす音は規則的な律動だった。
「いいっ、いいっ、いいデスコトっ!…いいデスコトっ!」
TWOOOOOOOOOOOONNNN…
TWOOOOOOOOOOOONNNN…
TWOOOOOOOOOOOONNNN…
「いいっ、いいっ、いいデスコトっ!…いいデスコトっ!」
GYAAAAAAAAAAANNNNNNN!!!
「ナニゴトーーーー!!ナニゴトですことーーーーーー!!!!!」
謎の同僚は大砲をあろうことか真下の地面に向けて発砲したのである…
「!!警報!警報!誤作動でございますーーーーー!!!」
「ナニガですことーーーーーーー!!!!」
PASYUWWWWWWWWWWWWWNNNNNNNNNNNGOWAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUFAZAAAAAASYUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUWUIIIIIIIIIIIIIIOOOOOOOOOOONNNNNNNNNNN!!!!!!!!
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
……宇宙……
遥か…遥か宇宙の奥深くへ…全身…全霊の…一球…入魂を……
「誤作動デスコトーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」