誘き寄せられている、濃く、深く、遠く、闇伸びて。隣合う闇と、闇。
漏れ、漂い、湾曲して、墜ちる、縁へと。
その粘綢は幾許を経たか。べとり縁へ溜まっていた光輝がじわりじわり、動いて、ようやくサラサラと、乾いた微粒子へと分離し、きめ細やかな砂のように流れて。闇の肌に帯びて、闇の境界が闇と分かたれ、やがて沼へ沈む如くに。再び溶け合った闇と闇。
精密に描かれたそのひと筋に焦点すると、三つ編み構造に絡み合う束の姿が見えてくる。輝きを秘めつつも鈍色にびいろに沈んだ、底光りすら放たれて重々しく、カサカサとくすんだ光輝と、上澄みのような軽やかで、チクチクと眩まばゆく纏まとわりついてくる艶つや、を隣合って侍はべらせた真珠白パールホワイト。粘るほど柔らかな肌触りが縦横自在に流動して、重層的に縞しま帯びて混在せしめた階調グラデーションを湛たたえし錆緑青ベルディグリ。濃厚な彩度を行き渡らせ凍てるほど冴え返る強烈な調子トーンと、周縁を寒々しく飾り立てる結氷けっぴょうの光沢に漲みなぎらせ、まっすぐに射てる東洋青オリエンタルブルー。陰翳を内在させたる豊潤なる光が織りなしていき、真珠白パールホワイトは錆緑青ベルディグリに、錆緑青ベルディグリは東洋青オリエンタルブルーに、東洋青オリエンタルブルーは真珠白パールホワイトに、それぞれ下方へ向かい湾曲し次なる上方より畳まれ絡み合って、美しい対比コントラストで永遠の白、緑、青、に羅列して……
引きの視界、光と闇の溶け合う透明な空間で、淡い青緑あおみどりの光輝が描かれてある……真珠白パールホワイト錆緑青ベルディグリ東洋青オリエンタルブルー真珠白パールホワイト混淆こんこうの光色こうしょくで…………。
透明に浮かぶ渦巻Spiral銀河galaxy、こってりと結ばれた青緑あおみどり、粘性の光の海で。中央へ向け肉厚の隆起バルジを象かたどり、幾筋も走らせる巨大な渦状spiral腕armを外方から、隆起バルジへとキューッと絞らせ捻られたような形なりで。光色の海水は銀河galaxy全体を隈くまなくうねり流れ、腕armの顕著な一帯はより濃密に過ぎ去る軌跡にて。その都度都度で細やかな光の群体のそれぞれが、渦巻Spiral銀河galaxyの溟渤めいぼつをせわしなく飛び交う様相も、全容に向かえば青緑あおみどりの巨大な体躯が永遠の中央に蜷局とぐろを巻くようで。
翻ひるがえって一点を目指し青緑あおみどりの内奥へと。接近して焦点を一挙に拡大させる、三つ編み構造を過ぎると白、緑、青、が規則的な順列をなし羅列する一方で激しく波打ち通過する速度が止めどない、夥おびただしい波形の群れが交錯して、融合されつつも交叉こうさしてい。更なる接近へ……波形の織りなす整然のCOSMIC混沌CHAOSから統一的な形状フォルムが分離し認識されていく……渦巻Spiral銀河galaxyの局部へ唐突に花開く渦巻Spiral銀河galaxy! その全貌……一つの、極大なる渦巻Spiral銀河galaxyの只中にある夥おびただしい次元の連続の懐には、無数の渦巻Spiral銀河galaxyが枝葉の如く分極されていき絶え間なく最奥の、次元の果てまでに蔓延まんえんしているのだ! そう、自己相似状FRACTALの宇宙SPACE…………!
透TRANS明なPARENT宇宙SPACEに浮んだ揺蕩う円盤青緑あおみどり……自己相似状FRACTALの銀河GALAXYの半透TRANS明なPARENT青緑あおみどりの揺蕩う水晶CRYSTALを染め、唐突に過よぎるものがあった、水晶青緑あおみどり越しにも妖艶な照りの一目瞭然とした涅色くりいろの膚はだえに、弾力のあるつややかな菖蒲色しょうぶいろの、ウェービーな長い髪の毛をそよがせたそれはものの見事に麗しい人魚の遊泳だった。濃い茶色とやや淡い紫色のツートンカラーのみに彩られた神秘的な鼓舞こぶが美しく揺蕩う水晶の海中青緑あおみどりに透かされて……
菖蒲色しょうぶいろに覆われた涅色くりいろ、端麗なる見目形みめかたちは頭部から、彫刻のように表情を違えぬ相貌、つるんと緩やかに盛り上がった可愛げな額に形のよい憂える眼まなこ、小高い鼻梁豊かな唇からほっそりとくびれた顎、細長の首を過ぎてゆさゆさと悩ましげに海中を躍動している豊満な乳房から愛らしく窪くぼんだ臍を湛える腹部へ。腰のあたりまで伸ばされた婀娜あだっぽい菖蒲色しょうぶいろが涅色くりいろの光沢へと素晴らしい対比コントラストを与えて。その下半身は魚類のそれというより海蛇の如く。すうっと伸ばされた長い尻尾は腰の太さから無理なく絞られた形なりでうねりを見せながら先へと尖らせて。腹部はいかにも身重であるようにパンパンに張らせ丸く突き出されているので。長い尾を器用にくねらせ左右の腕を交互に手繰らせて、優雅に光の海を掻い潜って。あてどなく自由に漂い続けていたが不意にひとところをグルグル周回するようにし、立ち止まっていた。
突如! 素早い挙動にて尻尾の先から裂かれていき徒花あだばなの如く不気味で巨大な褐色の花弁を開かせたように。露わになった膚はだえの裏の肉肌もまた、同様の涅色くりいろでのっぺりとした質感には変わりなくて。腹部の内から顕れたそれは夜光虫を吐き出したように濃い煙状の発光をモクモクと漂わせチカチカと明滅していた、やがて夜光虫が霧散するとそこには燦爛さんらんたる球体が浮かんでいるので。
紺青プルシャンブルーの高貴な煌きらめき、渦巻Spiral銀河galaxyには不釣り合いな比率で天体が生まれてい。腹部から不穏に裂かれ開かれていた花弁は畳まれてその場から人魚は去っていく……紺青プルシャンブルーは位置を違えずそのままに。人魚はこの循環過程cycleを繰り返して青緑あおみどりの海中へと様々な天体を産み出していくのだ。
複雑に変幻しながら豊かに色彩と明滅を生み出している奥深い味わいの青緑あおみどりとはまた趣向を違えた、涼やかな光輝を滾々と湧き上がらせ新あらたかな主張を突き放って。生み出されたばかりの天紺プルシャン体青ブルーへ……焦点を接近ズームイン……徐々に茫洋ぼうようと拡大されていく紺青プルシャンブルー、濃く鮮明に捉えていた冴え渡る青から、ぼんやり薄れて霧散するように消えていく青色彩感……しかし! 不意に焦点はギラリと先鋭せんえいさを輪郭し、写し出されるは自己相似状FRACTALの天体青……こちらもまた、内奥の内奥へ……次元の深淵まで連ねられた球体の入れ子NESTで。
遠景。透TRANS明なPARENT宇宙SPACEに浮んだ揺蕩う円盤青緑あおみどり……渦巻Spiral銀河galaxy。揺蕩うその水晶CRYSTALの只中をまるで狭い水槽であるように泳ぎ回っている人魚、体躯を柔らかくたおやかに……反して強靭な躍動感を漲らせながらくねらせていき……巨大な渦状spiral腕armのひと筋へとちょうど体躯を嵌めこんだように沿わせて遡るように泳いで中央の隆起バルジへと向かう……途上、何度も何度も。赤や黄や緑や紫や青や……様々な色彩の燦燦さんさんと。綺麗で奇抜な光輝に満ち満ちた、新たな天体を次々に産卵していくので。
青緑あおみどりの目映い光輝を立ち放つ透TRANS明なPARENT宇宙SPACEへと! 不意に顕れた巨大な影が、厖大ぼうだいな闇路やみじの分厚い壁とて塞いでいる。
透TRANS明PARENTを辿って届ききった光の矢青緑あおみどりは一瞬、陰翳の表面膚はだえを照らすもののすぐさま取り込まれ闇路の沼へずぶずぶと消えていく。
コマ送りのような不自然な足どり、しかしあり得ないほどの速度を繰り出して! 光青緑あおみどりばかりか透TRANS明なPARENT宇宙SPACEさえ闇なる壁に遮られ途切れてしまって。闇はズシ、ズシと接近して渦巻Spiral銀河galaxyの青緑あおみどりなる光の海の鼻の先まで到達した。
揺蕩う水晶CRYSTALへと闇の闖入ちんにゅう! 闇なる表面に向かって……夥おびただしい水晶CRYSTALが誘おびき寄せられていく……透TRANS明PARENTと闇の境界は、疾とう疾とうと光青緑あおみどりの末端を飲み込んでいき飲み干すので。しかし、水晶CRYSTALに突き刺さった闇へと蔓延はびこった水晶CRYSTALの光青緑あおみどりも、負けじと厖大ぼうだいに結ばれて大海とて広がっているので。緩やかに、飲まれゆく光青緑あおみどりを上回っていき、やがて闇の表面には青緑あおみどりの水晶CRYSTALが貼り付いていく! 巨大な闇の分厚き壁に届く一縷いちるの青緑あおみどりが闇の膚はだえを化粧けわって、すぐさま立ち消えになる光色から、ほんの一瞬顕すのは、光輝の彩色に色塗られた闇なる眼孔の淵で。眼孔はその一瞬、揺蕩う海CRYSTALの只中で、貼り付いている自らの一部を眺め下ろしているので。闇路やみじの壁より伸ばされた結晶CRYSTALとて青緑あおみどりに凍てついた触手の形状フォルムで。
渦巻Spiral銀河galaxyの海中へ突き刺さった結晶状の樹木……隆起バルジより踵を返した人魚がやがて侵入者の御膝元おひざもとへと泳ぎ着いて。樹木侵入者へと手をかざし差し出すので。
人魚へと焦点を接近ズームイン……涅色くりいろと菖蒲色しょうぶいろのツートンカラーはぼやけていくがある瞬間、鮮明な対比コントラストへと帰還する……そう、人魚もまた自己相似状FRACTALで。人魚の次元を下れば下るだけ……永遠の内奥には無限に分極する人魚が群れてい……樹木へ向かい手を差し出した人魚の形状フォルムが無数に連なっている……そこへ! 一体だけ形なりを違えた人魚の姿、彼女は腹部から徒花を開かせていた……産み出されたそれは純白の光輝天体だった……次元を、焦点を、引きズームアウト……次々と様々な次元の平面に現れる人魚たちを伝い……純白は手から手へ渡されて……ようやく最も大きな大元の人魚が現れて、彼女の手には純白が。
それは樹木へと転がされて、しずしずと引き上げられた樹木はすでに渦巻Spiral銀河galaxyから分離して闇自らの只中へ。
往時と同じく正面向きのまま、コマ送りの高速でズシ、ズシ、遠ざかってしまった。
赤い点が浮いていた、それは闇の只中、遠景、僅かに青緑あおみどりが粒のように浮いているのが見えていた、赤い点……それは宇宙の極小の一点だった、ゆえに如何許いかばかり近づいたところで大きさを増していくことはなかった、しかし、どれほど遠方にあったとしても、それを感じることが可能であった、赤い点へ、闇が近づいていくのだった、やはり、コマ送りの挙動で近づくのだった、ズシ、ズシ……ズシ、ズシ…………影から触手に貼り付いた光はとうに飲まれ消されていた、しかし、握られた純白だけは消えずにいた…………影とて伸ばされた触手から純白が解かれた……それは赤い点に向かい闇を飛翔していった……やがて、赤い点を潜り抜け、純白はその内奥へと取り込まれているのだった。