DAAAAAAAAAAAHHHH…………
口が開いたのである。既に半開きを越して裂け目より溢れ返り噎せ返る密集は無数の霧、紺碧紺碧紺碧紺碧……裂け目は巨大に膨張して、凄まじい高速の糸は長大に靡く極細の――紺碧、鉄紺、孔雀青の、飛び交い絡み合って狂える崇高な羽虫の青! ゾワゾワと腫れ上がる止めどなく唇の如く、三様の青混ぜ合い融合され極妙なる色彩は紺碧鉄紺孔雀青光の渦成して。
裂け目に蔓延り這っているゾロゾロゴロゴロと犇めく球体がぎっしり、内奥より不気味に漏れ出す瞬間、今か今かと待ちわびて黒光りする夥しい眼のようで。
DAAAAAAAAAAAHHHH……零れ落ちて。……
ギチギチと硬質を擦り合わせて一気呵成にボロボロボロッっと球キュウの落下は限りなく…………紺碧アジュール紺碧アジュール紺碧アジュール紺碧アジュール鉄紺てつこん紺碧アジュール…………
紺碧アジュールの濃霧。絶え間なく踊り出る僅かな間隙かんげきより渾々こんこんと立ち上がり上唇の巨大な威光の凝集へ滲んでぼんやりとさせて。生命の環流を逆理たる懸隔けんがくへと引導を渡すように凄絶なDrastic脈動Pulsationを踏襲していく青。
突如開いた裂け目、みるみるうちに塗られてしまった唇の線描画と、内より溢れ出した無数の球体の瀑布が遠景に。赤に染まる金属のボディはやや遠景に、宙に浮かび窮屈そうな不自然な体勢をしていた。
近距離ではより異様な印象が強くなる、一見すると透明な空間へ浮いているだけだがフォルムはひしゃげたような歪イビツな赤、何かに圧迫されて挟まったように四肢のボディスーツは無理な方にあちこちへと曲げられていた。空間、遮るものは見あたらず、しかし闇に包まれてはいない、目映い白……に近く、光輝に充満した空間は程よい視界に透明を広げてい、遠景に湧き上がる紺碧アジュールは淡く届いて涼やかにすうっと溶け込んで。
攻撃的な生命力を生き写した血ブラッドとは毛色の異なる技巧的アーティフィシャルな非情さを宿らせて彼のボディスーツは生臙脂赤コチニールレッドに塗られている、のっぺりとなだらかな金属製の肌に境目は少なく不自然な形状から生まれる弾性に耐え見事な伸縮を遂げている、キュッと軋んで金属質の連結は反転する、解放されボディはひとしきり波打つ、鶸色ひわいろが映え鮮やかで。細く塗られた部分は少なくて単に飾りとしての印象が先行する、間接部位の縁には蛍光塗装。
球体の横溢おういつが帯をなし迫っている、やや高みから見下ろすカタチ、河道かどうの透明な地形は青い光輝を写して立ち顕れる、ギザギザと鋭い亀裂を数知れず走らせていき河道は稲妻を携えたまま刺々しい流れに広がっている。
紺碧アジュールDAAAAAAA紺碧アジュールAAAAAAAAA紺碧アジュールAAAAAAAA紺碧アジュールAAAAAAAA鉄紺てつこんAAAAAAA紺碧アジュールAAAAHHHH…………
激流の大半は紺碧アジュールの球体に満たされてドロッと粘りのある液状の光を結ばせ溶け合いながらするすると走らせて近づいてくる、鉄紺てつこんの粒は充溢する大半の紺碧アジュールへとまばらに浮かんで運ばれていた。
激流は彼の下方、目前に迫る。途端、急激にせり上がって巨大波のごとく高いうねりを見せる、ドロドロに結ばれてしまった青き光、透明な城壁ほどに聳え立つ急斜面にぶつかって飛沫しぶきを上げる、解ほどかれた僅かな紺碧アジュールはサラサラと分離し空中に幾ばくかの球体とて顕れ出した。落下とともに川面へ取り込まれる瞬間、球は崩壊し激流と同じように液状へ、青き光の粘綢ねんちゅうへと変貌していた。
河道の透明は紺碧アジュールにびっしりと塗られそそり立つ『断崖』の斜面を顕現させて貫流を一時留めた、上りきった飛沫ひまつだけがびしゃっと向こう側へ鋭く空を切り一閃の刻印、透明を濡らし紺碧アジュールに染める、粘っこい暴力的な勢力の先端は押し戻され、すぐに連なる後続へ抱え込まれ更に巨大な動力は向きを前方へ押し返す、傾斜を難なく逆流して青のDrastic凄絶of Blueは『断崖』を軽々と超えて向こう側を瞬く間に染めあげて遥か彼方まで…………
様相を焼け焦がすほどの烈しい目映さに塗り込められて濃霧のようなこってりと底の知れない青が凄まじい速度で彼を過ぎる、あたかも狭い操縦席コックピットにすっぽりと収まったような体勢を続けている生臙脂赤コチニールレッドのやや仰向けに屈んだ、低くなった頭部の高さへ届くほどに迫っている。一心不乱に向きを違えず走り去る流れから、時々ぐしゃっと僅かな飛沫が穿孔せんこうへと迷い込み透明な視界を青く塞いでいく、液状の紺碧アジュールは透明な地肌の裂け目を顕現させどろっと粘る滴をじわじわと下方へ移動させていく、流れより細く分離した傍流はやがてさらさらと青き光と蒸発させ上部の透明な岩肌にぶつかって球状となりぶら下がった。
【ヒューマノイド型、生臙脂赤コチニールレッドのボディスーツの男】、《ゴーギャン・アプスリー》は何度か足元の噴射ジェットを発動させたが空振りに終わっていた、掛けられた罠は単なる陥穽かんせいではなく絶崖ぜつがいへ直通しているようで足元からの動力を返す足場は完全に穿たれているらしい。絶崖の穿孔の狭く複雑な岩肌に掛かった赤は、それでも少しずつ地滑りを続けている、過ぎ去っていく紺碧アジュールを写して青く照らされたゴーグルの表面の内奥より黒味を帯びた青、紺鉄こんてつの光が紺碧アジュールを押し返す、頭部の結合部を上下左右に落ち着きなく回転させて右斜め上の角度で内奥の紺鉄こんてつは固定された。ちょうど手のひらに収まるくらいの真横に走った石柱が紺碧アジュールの飛沫に染められ顕わになっていた、入り組んだ障害物から解放されている右腕部を振り上げ……生臙脂赤コチニールレッドの五指の上方の三指が……空しく何度も掴まれぬ距離を呼び寄せようと喘ぐ。
それまでのしつこさに反してあっさりと右腕は下ろされた。
CLUUUUNNNKKKK
石柱より下方、三指を喘がせていたその辺りに偶然にも鉄紺てつこんの飛礫つぶてが飛びこんで透明な岩肌に刺さった、透明は鉄紺てつこんには染まらずに透明のまま、なぜか水面のような揺蕩いの肌へと変貌して顕れていた。
もう一度赤は掴まえにかかった。
生臙脂赤コチニールレッドが……鉄紺てつこんの飛礫に……
ZYYYYYYYYYYGGGG…………
消えてしまった! 否、むしろ体躯は身を包んだ兵器ごと広がった液体世界に溶けてしまったようだった。紺碧アジュールをかなり薄めていったような透明な青に広がる世界で。
彼は意識だけで泳いでいた。遺跡。空中の透明な青の液体と同じく広げられた事象は液体で、こちらはやや濃い紺碧アジュールだった。
地面はガタガタと先ほど確認していた紺碧アジュールに塗られていった透明な河道と同様にかなり荒れていた。特殊に加工された高貴なボディスーツであっても傷がつくことがありありとしているような。
意識は空中の液を泳ぎながら無惨に粉砕された石畳の道を過ぎていく、奥に神殿らしき建造物があり、それ以外ただ道が連なっているばかり、目的地へと真っ直ぐに伝っていった。
濃い紺碧アジュールは石造りを写していた。石の階段を上った所にやや広い広場とその奥には門。左右に太い立派な、近づけば精細な紋様を肌一杯に装飾された石柱が並び、最上部をアーチが繋ぐ。扇型にまっすぐ掛けられたアーチも紋様を彫刻されていた、中央には魚類に似た長い髭を左右に二つ垂らした怪物の頭部の彫像があった。ぷくっと頬を大きく膨らまし似つかわしくない愛嬌を湛えるが、しかし眼孔は釣り上がり大きな牙を剥き出した口と同じく凶暴ななりをしていた。
彫像をまじまじと眺めた後アーチを潜る、ドーム型の軒が連なっており下方に円形の小さな中庭がある、小さな柱が左右にいくつか並び中央に方形に穿たれた入口があった。
内部は外の道とは違って美しいままで。高い天井はドーム型、内部設計の基礎はいくつもの柱やアーチに造られている、大きな石畳にはやはり紋様が。蔦を思わせる艶麗で複雑な線と、内部に複数の細かな筋が走る太い線とで装飾されている。
奥へ進む、左右に立ち並ぶ柱は先程の怪物の巨大な彫像となっている、頭部は魚類に似ていたが体躯はヒューマノイド型、なだらかな彼のフォルムに比べればゴテゴテと節々を強調させて重厚な鎧を装備しているものの、全体としては機能の高さを想起させる洗練されたボディスーツに身を包んでいた。異形の頭部はスーツからは剥き出しである、個体別に若干の相違はあるがほとんど似たような相貌だった。
その先、中央、四方へ広げられた台形の高い階段を上り祭壇が。頂上の狭い真四角の床を取り囲んで怪物の像が並ぶ、中央には講壇があった。見上げると天井DOMEが消え紺碧アジュールは闇となった。
鉄紺てつこんに僅かな孔雀青ピーコックブルーの縞を融合させた巨大な天体が自ら発光しており背景の闇を眩くさせている……天体はじわじわと自転して縞は左から右の向きで移動しつつ内部では激しい変容に混濁させていた。
驚愕との不意打ちを彼はしばらく眺め続けた…………
ようやく見下ろした視界は神殿内部へと戻されていた、神殿と同じく紺碧アジュールに色塗られた講壇に近づくと鉄紺てつこんに染まる書物が乗せられている。
意識に他ならぬ透明な赤を伸ばして閉じられた鉄紺てつこんを開こうとする、手が触れた瞬間、鉄紺てつこんの電撃が全てに宿りほどなく闇に包まれてしまった。
…………紺碧アジュールDAAAAAAA紺碧アジュールAAAAAAAAA紺碧アジュールAAAAAAAA紺碧アジュールAAAAAAAA鉄紺てつこんAAAAAAA紺碧アジュールAAAAHHHH…………
神殿は消え紺碧アジュールは激流とて通過して。
穿孔はほとんど塗られ透明ではなくなって、複雑に入り組んだ岩肌の紺碧アジュールががっしりと捕捉する。生臙脂赤コチニールレッドも表面の半数を青く塗られてしまっている。自由の利く右側を振るとべとりと貼りついた青い粘りが僅かに解ほどかれて空中でサラサラと細かな球体のなりを顕す、赤にべとついた青に手を伸ばし一瞬払う、頭部が凄まじく震え赤は青から離された。暫時ざんじの沈黙……。
左側が大幅に滑り青のDrastic凄絶of Blueに両脚部が差し迫った瞬間に……!
生臙脂赤コチニールレッドは金属の性質を留めたまま流体となってにゅるにゅると、絡れこんがらがった煩雑な砦の襞たる襞をすり抜けて上昇していくのだった。
陥穽かんせいから赤の流動体がずぶずぶと躍り出る、素早い動作モーションで元のなだらかなボディスーツに戻した、大幅に失われてはいるが生臙脂赤コチニールレッドには紺碧アジュールの斑点が所々塗られたままになっている、きゅるきゅるきゅると軋みながら生臙脂赤コチニールレッドの全体は流体となり高速で回転しながら自らを混濁させ深く捻れていく……高速回転の赤から細やかな青が勢いよくてんでばらばら弾丸のように飛び出していく! 青の球体が四散して地面へと振り落とされて即座に紺碧アジュールの地面の一部が顕れた、美しい赤い金属のヒューマノイドのシルエット。彼は透明な大地に仁王立ちで心なし下方を染めあげる凄絶Drasticを眺め下ろしていた。
脚部を広げて踏ん張った姿勢となり、直後、彼の噴射ジェットが透明を叩いた。
空中高く、一度口青を見やって、綱渡りの綱ように垂らされた往路の岸に停泊する、闇に包まれたあたりの後方の船を振り返る、それから。
船とは無関係の空間SPACEへ、彼、《ゴーギャン・アプスリー》は飛翔して旅立っていった…………