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SPACE PEACS  作者: 夢之ゆめぜっと
蝶・湾
11/42

010 囚われの… 改稿前

「うっぐぅぅぁあ」


 太く逞しい首の中央に深く差し込まれた刀剣に捻りをいれている…


 一見安息していると見紛うほどに力が抜けた…かのような白い、細長く美しいその腕は、しかしもっとも運動効率を発揮し得た、動線に満ちた力に漲っていた。

 その細い腕からは想像できぬ程のエネルギー…野太い首の中央は抉られ、回転した刀剣はちょうど上向きに柄を返して刺さっていた。


 噴き出した血飛沫……


 突然零れ墜ちた真紅のスコールのように、ぼたぼたぼたっと…


 うなだれた首。

 警戒の表情を湛えた威厳の死相デスマスクだけが残った。

 

 鮮血で計器のほとんどは濡れていた…しかし女は少しも焦る様子がなかった。

 

 バサッ!

 …パラパラパラパラ……


 床に落ちた大量の血液は排液口より即座に空間に…宇宙の闇にばらまかれ…赤い霧となって闇に消えた……


 あらかじめ仕込んでおいた透明なシルクをもう一度はたく。


 …微動だにしない操縦士…


 (まさか…アイツのいったことが現実だったなんて…)


 操縦士は殺された男の実の兄であり、部下であった。

 その弟は…今目指しているドゥーム星の軍を率いる司令官であった。

 

「言ったとおり…このアマ!さいしょっから不穏な表情をしていやがったってんだ!ざまあ…」


 死んだ弟から諫められた兄は、その幻覚を払うように、 事後はじめて今となっては欺瞞に満ちた恋人へ言葉を交わす…


「まんまと……。お前がやりたかったことはこんなくだらんこととは!」


「目的地を外したらあなたも死ぬわよ…」


「ふん。冷静になってんじゃねえ。もう圏内さ…もの好き以外誰も寄りつかないあんな辺境の星に!あがいたって同じこと、燃料が僅かだぜ…心配なさんな、蜂蜜ハニー


「もちろん性欲だって立派な任務だわ。どうせ遊びじゃないの…お互い様よ、旦那ダーリン


 彼の名は「ヨシユキ」。弟の名は「ポルトガル」、そして女の名は「蝶・湾」!


 ヨシユキが無骨な死体を眺めている…


「ふっ、コイツらしい…無残な死に様だな」


「何を余裕ぶってるのかしら?これがあなたじゃなくって良かったってだけの話なのに…」


「ああ、まったく。しかしなあ、俺は単なるパイロット、コイツと違ってどこぞのスパイ女に殺される役回りではないんだぜ」


「減らず口を減らしなさい!だいいちいつも口数が多すぎるのよ」


「なんだって!!お前…あのときいつも俺の言葉で悶えてばかりいたじゃないか!」


「うるさいわ、死にたいなら喋ってなさいよ」


「そうだな…お互い死ぬのはあのときだけで満腹だって…」


「……」


 実際女と男は遊びや本気を綱渡りしていた。

 その上、生命を手玉にとった任務をまるで恋愛の駆け引きのように従え…


 弟に比べ数段冷静沈着な兄ヨシユキは、女に対し冷静な疑惑を向けていなかったわけであるまい。

 弟の効き過ぎる嗅覚を否定し続けていたのは、なにも兄の特権という権利問題だけではなかったのだ。


 盲点!

 普段は冷静すぎる男…何らミスも犯さず飄々と世間を渡り歩いた男。

 なんのことはない、ほんのわずか溺れていただけである…彼女の妖艶な海の奥底へ……


 しかし…

 しかし!

 しかし……


 ぴったりとしたチャイナスーツに身を包んだ、肌白い弾力をもった均整のとれた無駄を削いだ豊満な身体…

 黒髪…

 かき上げ首をかしげた。


「そろそろみたいね」


「ああ…緊迫の情景のお出ましかな」


 3年にも渡った遠い遍歴…旅路。

 大型シャトル…

 そしてようやく帰還する故郷の星ドゥーム星を目の前に、よりによって密かにこんなチンケなスパイ達どもに牛耳られその司令官を失ったカタチで迎えなければならないなんて…


「……」


 黄金色の神々しい色彩の光を放つドゥーム星を眺め魅入られていた……


 蝶・湾は魅入られながら知らぬ間に考えていた…


 この部屋…

 護衛も張らず、司令官とその兄、そしてその兄とからだの関係にある女と…


 この部屋は語っていた…

 このような無防備な状態を作り上げてしまったのは、ひとえに不正のせいだ。

 女が兄を口説き…兄が司令官たる弟を口説いたがための…そもそもが不正に始まった逃れようのない不正の連鎖…


 よってのみならず、はじめはごく一部だったスパイたちが、じわじわと謀叛の輪を拡大してゆき、この無防備としかいい様のないこの操縦室に向けて、逆説的にその不正をただすモノから、不正の達成を守るために、不正の是否を担う女神へと護衛を向けていた、というほどの事態だった……


Gwyuuuuuiiiiiiiinnnnn……


 シャトルが降り立った…

 

 「!!」


 かつての王の首を手にし…

 不正の成就に達成されたさながら謀叛の王国を築き上げ、半数以上をすでに従え…それ以外の旧軍勢を虐げ最早奴隷として引き連れた女王となり仰せていた。

 反逆に輝く女王…


 崩壊……


 女王が目にしたものはあろうことか、これより発動する筈だった血みどろの惨劇の予知夢のような光景…


「はっ、ははははははは…」


「……。ワカラナイワカラナイワカラナイ…」 


 カチャッ。


 途端に潜んでいた兵が裏切りの女王を即座に取り囲み蜂の巣に狙い定めて、ロックオンしていた…


 クールな彼に似つかわしくないほど、にやにや笑っていた…ばかりか、一度引っ込めた声を再び漏らさんばかりに…


「ふふはは…まんまと…祭り上げたもんさ、お陰で我が弟を犠牲にしてしまったがね…ははははっ!嘘はいかん嘘は!後々の厄介者を駆逐してくれたんだからなあ…」


「ど…どういうことなの?教えて、ねえ、教えなさいよ!!」


「無能な弟を持ったもんだよ…スパイの存在、反逆者、どれだけ潜むか把握の仕様のない連中を、見定めるために…」


「……」


「馬鹿な弟さ…あいつは進んで影武者という立ち回りを引き受けたぜ!そう、支配者という薄っぺらいデタラメを心から信じきってね…アイツは…ピュアなのかもしれない」


「騙されたのは…私達のほうだった?」


「やっと真実に向き合ったね。そう、その通り。元来俺が引き受ける筈のものだったのさ。しかしまあ、勝負は五分五分だ、例え遊びの愛だと知っていても俺はお前に溺れていた…まさか、本当にお前が謀叛の中心とはなあ……。でもね…」


 シャトルの階段の上の半端な場所だった、ヨシユキは蝶・湾を見下ろし言い放った!!


「そもそもね…俺達兄弟は根っからのスパイさ…そう、お前たちスパイと、全く別ラインのね」


「!!」


「俺達兄弟、親の代から生まれながらに引き継いだ生粋の…」


「なんですって…」


「つまり俺たちは生まれながらにして生まれた場所に故郷を持たずして生まれ来る人生しかなかった…」


「は、ははは…はは…」


「よって…我が故郷を滅ぼしたのは俺達『第三の勢力』ということになるな…」


「なんてこと…」


「失望するがいいさ…あっけないくらいにすぐになれちまう。俺達にはもう慣れっこの感情…」


「完敗ね」


「さあ、処刑ショー開始タイム!」

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