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Another World  作者:
第二章 ようこそ魔法世界へ
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第9話

「いってぇ!」


 陽斗は打った膝を抱える。裾が泥で汚れたズボンを巻くってみたが、擦り傷になっていた。


(つーか、ここどこだ?)


 陽斗は辺りを見回す。木造二階建てのコテージのような印象。二階といっても梯子が立てかけてある物置のようなものだった。埃臭く、物もほとんどない。二階部分に置いてあるものといえば、古びたハードカバーの本が幾つか、それと陽斗の後ろに立てかけてある姿見の半分ほどの高さの鏡だった。本の内、一冊は開かれたままになっている。


 陽斗は鏡を覗いた。


(あ、やっぱり右頬切れてる……)


 血は薄っすら滲んでいる程度だった。


(それにしても、マジでここどこだ? 深海たちに連絡取らないと)


 陽斗は制服のポケットから携帯を取り出して開いた。電波のアンテナが三つ立っている。


 電話帳の中から深海の名前を探す。だが、検索しようとしていた陽斗の手が止まった。小屋の外が何やら騒がしい。複数の声はこちらに近づいてくる。


 陽斗は一旦携帯を閉じてポケットに仕舞い、うつ伏せになって端から入口を覗いた。


「ったく、ランド様はどこに行かれてしまったんだ?」


 男の声と共に勢いよく扉が開かれた。四人の男たちが小屋に入ってくる。


(おいおい、何だあいつらの格好は……!)


 全員フード付きの長い黒ローブを身に纏っている。ローブの淵は金色のラインが入り、胸元には稲妻の中に金のドラゴンが描かれたエンブレムがこしらえてあった。足元は先の尖った黒いブーツを履いている。そして、何より驚くべきは、彼らの腰、または背中に杖のような長い棒が見え隠れしていることだった。


(何だこのワンダーランドは!? いい大人がコスプレか?)


 そんなことを悠長に思っていたら、一人の男と目が合ってしまった。


(しまった! 気づかれた!!)


 陽斗は急いで鏡の隣に設置されていた小窓を開けた。


 外を覗くと、周辺は森に覆われていて、下には白い馬が一頭待機している。凄い高いというわけではなかったが、飛び降りたら骨折しそうな高さだと思った。


「ランド様がいらっしゃったぞー! 二階だ!」


 狭い小屋で陽斗が捕まるのは早かった。小窓の前で飛び降りることもできず、ただ奴らが来るのを何もせずに待っていることしかできなかった。


 やってきた男は陽斗を見るなり、大声を上げる。


「ランド様! 怪我をなさっているではありませんか! ちょっと失礼しますよ」


 そう言って、男は腰に携えていた白い木目調の棒を取り出した。下は尖っていて、真ん中はくねくねと曲がっている。上はぜんまいのように巻かれており、その中央に綺麗な緑色の宝石のようなものがはまっていた。


 男がそれを床に突いた。すると、突然緑色に輝く魔法陣が彼の足元に現れた。男は杖を陽斗の頬と、捲られたズボンから見える膝に当てる。柔らかい緑の光が宝石から溢れ、傷が見る見るうちに塞がっていく。陽斗はそれを目を丸くして眺めていた。


「さあ、もう大丈夫ですぞ。さ、王様も待っておられますので、城に戻りましょう。……それにしてもランド様、なぜゆえそのような変な格好をされているのです?」


 男は陽斗の着ている制服を不思議そうに見つめる。


「いや、あの、おれランドって奴じゃ……」


 陽斗がそう言いかけたにも拘わらず、男はそれを遮った。


「ま、そんな話はお城でゆっくり。とにかく早く戻らないとわたくしたちが怒られてしまいます」


 男は陽斗の腕を掴み、先に梯子を降りるよう促した。仕方なく訳も分からない黒ローブ集団に捕まり、彼らの言う通りに動く。


 小屋を出ると、茶色い馬が四頭並んでいた。男たちのものだ。陽斗はそれらを見て目を細める。馬に似ているが違う。一本角が生えていた。


(ユニコーン?)


 陽斗は男に連れられ、小屋の裏手にやってきた。


「ランド様のフェリアです」


 白いユニコーンの前でそう言われ、陽斗はフェリアに近づく。


「あの……、フェリアって?」


 男は少々驚いた様子だったが、次に心配の表情を浮かべた。


「ランド様のテルットのフェリアですよ。……頭を打たれたのですか? 記憶が無くなっておいでなのでは……?」

「テルット……?」

「このフェリアの動物の名前ですよ! 本当に大丈夫ですか?」


(なるほど、テルットはこの動物の名前で、フェリアはテルットの名前か。……というか、この動物はユニコーンじゃないのか?)


 フェリアが陽斗に鼻を近づけ、においを嗅いでいる。陽斗の全身を嗅ぎまわすと、フェリアは円らな瞳で一度陽斗を見つめてから、尾を大きく振って高い声を上げた。白く輝く毛に相応しい、美しいと思わせる鳴き声だった。


「さ、お乗り下さい。お城に戻りますよ」


(いや、お乗り下さいって……)


 陽斗に乗馬の経験はない。乗り方も、走り方も何も分からない。


 仕方なく、フェリアからぶら下がる足掛けに左足を乗せ、勢いよく跨った。


 男たちは自分たちのテルットに乗り、城を目指す。陽斗は手綱をきつく握った。それが伝うようにフェリアは他のテルットたちに続いた。陽斗の傷を治してくれた男は後ろから付いて来る。


 フェリアは賢かった。陽斗が手綱を握るだけで、陽斗の思うように走ってくれた。振動が伝い、体が上下に揺れる。お尻が痛い。


(もしかしてフェリアはおれがランドって奴じゃないって分かってるのかも……)


 陽斗は何となくそんなことを思った。

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