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Another World  作者:
第一章 神隠しの謎を追え
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第6話

 放課後になり、いざ尾行スタート。時計の針は、午後三時二十分を指していた。


 深海は昨日と同様、終礼が終わるとすぐに教室を出た。


「わたしたちも行くよ!」


 奈瀬がバッグを肩にかけて、陽斗を見やる。奈瀬の言葉に陽斗は大きく頷いた。


 下駄箱でローファーに履き替え、イヤフォンを耳に装着する深海の背中をゆっくりと追う。


 陽斗の心臓は気持ちの高ぶりと同期するかのように、大きく脈打っていた。今まで味わったことのない感覚。平坦な日常世界に存在するちょっとしたスリルのようなものを陽斗は感じていた。


 正門を出て坂を下る。駅の方に向かう。


「そういえば、事件現場ってどこなの?」

「そうそう、そうやって話していた方が自然体で気付かれにくいよ」


 奈瀬は一言そう前置きしてから、陽斗の質問に答える。


「事件現場、月橋くん知らなかったの? 美竹公園だよ」


 美竹公園といえば、周辺に木が多い公園だ。


 ドトールの横を通り、美竹公園の周辺に足を踏み入れる。


「あ、深海くん中に入っていくよ」


 深海の後を追って二人は小走りで公園の中に入った。そこで、すぐに足を止める。視界に映ったのは、こちら側を向いた深海だった。


「なんで付いて来るんだ?」


 深海の眉間には深く皺が刻まれている。


「……この場面じゃカラオケネタ使えないね」


 奈瀬が口元を引きつらせながら、深海から視線を逸らす。一方、陽斗は深海から視線を逸らさず、彼をまっすぐに見据えた。


「おれたちは高校生の行方不明事件の現場を見に来たんだ」


 陽斗の言葉に反応して、深海は怪訝な表情を見せた。辺りは薄汚れた洋服を着たおじさんと水色の球体遊具で遊ぶ子供二人とその母親たちしかいなかった。


「君たちがあの事件の現場を見てどうするつもりだ? まさか新聞にでも書くのか?」


 深海は小さく溜息を漏らす。それから、二人を牽制するように鋭い瞳を向けた。


「警察が総力を挙げても未だ有力な手がかりが何もない。そんな中で、君たちが何か見つけられるわけない。ここに来たのは時間の無駄だ。早く帰った方がいい」


 深海はそう言って二人に背を向けた。そのまま、公園の隅で段ボールを広げて座っていたおじさんに近づく。


「どうする? 彼の言っていることは正しいよ」


 奈瀬は半ば諦めていた。だが、陽斗は納得できなかった。


「違うよ……」


 陽斗はそう呟いてから、大きく息を吸い込んだ。


「深海! 違うよ!」


 深海は声が彼の耳に届いてから刹那静止し、それから怪訝そうな表情のまま体を捻った。深海の視線が陽斗を捉える。


「警察の人が何の情報も得られていないということは、おれたちと何も変わらないってことだ! 警察でも見つけられないから、おれたちは毛頭無理ってことじゃなくて! 警察も見つけられてないから、おれたちと状況は同じ。つまり、おれたちの方が先に何かを見つけられる可能性は五分!」


 深海は顔だけでなく体も陽斗に向け、二人のところに戻ってきた。そして、彼は陽斗の目の前で立ち止まる。


「月橋……だっけ? それだけ言うなら警察より先に何か情報を掴んでみろよ」


 深海の力強い視線が陽斗を突き刺す。風が揺らす木の葉の音がやけに大きく聞こえる。


「望むところだ」


 すると、深海はふっと柔らかい笑みを見せた。まるで陽斗のその言葉を待っていたかのように。それから彼は制服のズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、先ほどのおじさんに近づいた。一先ず、陽斗と奈瀬も後に続く。


「すみません、ちょっと聞かせてほしいのですが、一ヶ月ほど前にこの人を見かけませんでしたか? 今はもうちょっと大きくなっているんですが」


 陽斗と奈瀬は横からその写真を覗いたが、よく見えない。


「この前も警察に言ったんだが、その子一瞬にして消えたんだ! 雨の中に一人ぽつんと公園にやってきて、ちょっと目を離した隙に消えちまったんだ! 警察は信じちゃくれなかったが、本当なんだよ!」


 座っていたおじさんが膝立ちし、中腰の深海を勢いよく掴む。


「一瞬にして消えた……? 目を離した隙と言いましたが、その間に公園から出て行ったとか、見間違えたとか、そういう可能性はありませんか?」


「警察にも同じこと言われたんだが、ほんの少しの間だったし、公園から出て行って姿まで消すのは無理だ! それに、見間違えることはない! その子、よくこの公園にやって来てたから顔も分かる! だが、警察は相手にしてくれねぇんだ!」


「……この人は血のついた傘を残して忽然と姿を消しました。この人が消えた時、やはり傘だけが残されていたんですか?」


「ああ。確かにその子は傘をさしていたが、消えたのは本人だけで、傘は公園に置きっぱなしだった」


「ではなぜ、その時に警察に届け出なかったんですか?」


 おじさんは深海の質問に、彼を掴んでいた手の力を緩め、視線を下方に逸らした。


「どうせ俺みたいな社会から弾かれた存在が何を言っても信じてくれねぇと思ったんだ。警察に話を聞かれて、やっぱり俺の考えは正しかったと思ったさ」


「…………。それで、その傘はどうしたんですか?」


「その場に置きっぱなしにしてたんだが、あの子が戻ってくる様子がないから、俺が預かってた。数日後、あの子の担任の先生みたいな人がこの公園にやって来て、俺に話を聞いてきた。その時に俺が回収してたあの子の傘を渡したんだ。俺は気づかなかったが、その先生が傘に少し血がついているのを見つけて、そのまま警察に行ったんだ」


「その先生はどうしてこの公園を訪れたかご存知ですか?」


 深海に言われて、おじさんは顎に手を当てて思い出そうとする。


「確か……、学校を無断欠席してるから家に行ってみたけどいなくて、バイト先に行っても無断欠勤してるって聞いたって。そのバイト先の人からいつもあの子がどこに行くのかって訊いたらこの美竹公園だって聞いたらしくてここに来たって言ってたな……」


「そうですか……。ありがとうございます」


 深海は頭を下げて、携帯を再びポケットに戻そうとした。その手を陽斗が素早く掴む。


「その写真見せて!」


 陽斗はほとんど深海からぶんどる形で彼から携帯を引き離した。

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