第51話
「ただいまー」
「あ、冴歌!」
洋一は帰ってくるなり、娘の手を引いてリビングの絨毯の上に座らせた。ローテーブルの上には原稿用紙が載っている。
「待ってたぞ!?」
洋一は目をきらきらと輝かせ、冴歌を見つめた。彼女はそれを見てふっと笑う。
「大丈夫よ、パパ! ネタはもう考えてあるの」
冴歌は不敵な笑みを浮かべた。
「と、その前に」
冴歌は家を見回した。
「ママは?」
「ああ、ママね、家出て行っちゃったんだ」
「は!?」
冴歌は大声を上げた。
「『冴ちゃんがいなくなったらこの家にいる意味ないじゃない!』って言って、出て行っちゃって。多分おばあちゃんちに戻ってるだけだと思うから、冴歌からママに電話して戻ってきてって言ってくれる?」
冴歌は長く深い溜息を漏らした。
「いや、冴歌が向こうの世界に行ってるって説明しようとも思ったんだけど、言っていいのか分からなかったし、それにそれ言う前に出て行っちゃったんだよ」
「……はいはい」
冴歌はすぐに母親の携帯に電話した。
「もしもし、ママ?」
『あ、冴ちゃん!? どこいたの? ママ何度も電話したのに出ないし』
「ごめんごめん。詳しく事情話すから、帰ってきてくれない?」
『……冴ちゃんがどうしてもって言うなら』
「どうしてもママに帰ってきてほしいよ!」
『そう……? じゃあ今すぐ支度して帰るね!』
冴歌は電話を切り、洋一を睨み付けた。
「さ、冴歌、ごめんって! パパが悪かったよ。ママ止められなくてさ。でも、冴歌も原稿書きたいだろ?」
洋一の言葉に反応して、冴歌は急に笑顔になって原稿用紙を見つめた。
「カルマさんね、もうこの世界で魔法使わないって言ってるんだ。だから、今更魔法使いでしたって言ってもホットじゃないわけよ。それに、向こうの世界の話は超一級品のネタだけど、それバラしちゃうとこの世界が混乱しちゃうでしょ? 分かる?」
洋一は腕を組んで険しい表情を浮かべる。
「じゃあ、どうしろって?」
「ホントか嘘か分からない程度の話にするんだって!」
いまいち理解できていない父親に、冴歌がにっと笑う。
「『魔法使いカルマ! もうMPがない!?』くらいにしてさ、魔法使いのように華麗にマジックを繰り広げるカルマだけど、実はあまりマジックネタを持っていないからいつも同じようなものしか観客に見せられない。凄腕マジシャンと比べて明らかに幅が狭い彼は、自分の魔法も、その魔法を繰り出すMPも使い果たしてしまった! 多分今後は芸能界に残って俳優とかモデルとかやるんじゃないかなーって思ってるんだけど、そこだけ確認して、ひよっこ魔法使いは魔法なしにこれから生き残れるのか!? HPまで底をつかないことを祈る! みたいな感じで締めくくるの、どう?」
洋一は眉根を寄せて、うーんと唸る。
「やっぱりどうしても本物の魔法使いネタより見劣りしちゃうけど、仕方ないよなー。うん! 冴歌の言っているのがきっとベストだ。ちょうどマジシャンを止めるって言うんだから、この記事を出すタイミングとしては最高だ! しかも他誌はそんな事実誰も掴んでない! よし! それで書くぞ!」
数日後、カルマがモデルに転身する前にその雑誌が出て、マスコミが彼に駆け付けたのは言うまでもない。
*
ゴールデンウィークが開け、久々の学校。陽斗が教室に入った時には既に深海と奈瀬がそこにいた。
「月橋、おはよう」
「月橋くん、おはよう!」
陽斗も二人に笑顔を返す。
「おはよう!」
陽斗は荷物を置いて席に着く。そして勢いよく話し始めた。
「あのさ、おれの財布、貯金箱、共に空っぽだったんだけど!」
奈瀬と深海が顔を見合せる。
「それがさー、ランドくんって驚くほどよく食べるんだよ」
「悪いが、ランドの食費は月橋から出させてもらった」
二人がそう言うのを見て陽斗は笑った。
「知ってるよ! 貯金箱の中にお金の入った封筒と拙い文字で書かれた手紙が入っててさ」
二人は陽斗の話を不思議そうに聞いていた。
「その手紙に『ツキハシ、アシスタントりょうだ。おひるごはんごちそうさまでした』って書いてあって。あれランドの手紙だよね。っていうか、アシスタント料って何?」
今度は深海と奈瀬が笑う番だった。
「ランド、日下部さんのところでマンガのアシスタントしてたんだ。まさかアシスタント代払っていたなんてな。義理と人情に厚い人なんだな」
深海は本心から感心しているようだった。
「あ、そういえば日下部さんのバイク、木本さんが持って帰ってくれてたらしいよ。あの後電話きてさ。しかも相変わらずマンガも売れてないらしいよ。行方不明になって編集部にこっぴどく怒られたって」
奈瀬がそんな日下部を想像して、可笑しそうに笑う。
三人が楽しく会話をしていると、クラスメイトの何人かが席にやって来た。
「この間、三人揃って休んだじゃん? 先生は全員体調不良って言ってたけど、絶対嘘だろ!? どこ行ってたんだよ?」
陽斗は二人を一瞥してから答えた。
「それは言えないよ」
それから三人は顔を見合わせて笑い合った。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
現実世界と異世界の繋がりというテーマで書かせていただきました。
定番のストーリーではありますが、楽しんでいただけましたら幸いです。
ここまでお付き合い下さった方々には、感謝の気持ちでいっぱいです。
本当にありがとうございました!!




