第48話
今まで世界を覆っていた闇が嘘のように晴れた。騎士団の団員達も無事に救出され、穏やかな日々が戻ってきた。枯れた草木も徐々に元の緑を取り戻しつつある。
「王子様、イルート族の件ですが、我々三国は真実を公表し、謝罪することを望みます」
エスディア城で八人の功績を称える式が終盤を迎える頃、沢山の有識者がいる前でリゼルが王子に近づき、唐突に発言した。会場にどよめきが起こる。
「王子様、あなたの大好きなユウゴさんのお望みですのよ」
リリィも王子に近づき、小声で伝える。完璧なまでのウィンクを添えて。
「ユウゴの……」
幼きエスディアの王子は小さな頭で考えてから、横にいる大臣の話も聞かず言葉を発した。
「ぼくは嘘をつくのはいけないと思う。だからみんなに本当のことを伝えた方がいいと思います!」
陽斗、ランド、リゼル、リリィ、深海、奈瀬、日下部、カルマの八人はそれを聞いて、各々小さくガッツポーズをした。
「王子様、ありがとうございます! それでは早速ですが、今日これからでもエスディアと三国の会見を開かせていただきたいと思います!」
ランドがそう言って頭を下げた。残り七人も続いて同じように頭を下げる。
その後の会場に混乱が走ったことは言うまでもない。
「ごめんな、バタバタしちゃってさ!」
正装したランドが窮屈そうにコートの前を開けながら苦笑する。
式の後、八人はエスディアから三龍を使ってライレーンの小屋の前にやって来た。全員がお互いの世界を繋ぐ要の地点に降り立つ。
「仕方ないよ。占いの本によると、世界に光が戻ってから三日で時空が修復されるっていうんだから」
陽斗も苦笑を浮かべる。深海が発見した大預言者ケルヴィン=クラークの本。その情報を信じ、彼らは今ここにいる。
「これから大変になるな」
深海の言葉にリゼルが頷いた。
「ああ。会見後が俺たちの腕の見せ所だ。……確かにこの世界の行く末が俺たちにかかっていると思うと大変だが、その分やりがいはある」
ランド、リゼル、リリィは世界の闇が晴れた後、各国の王子王女としてイルート族の件を今後どうするか、真剣に話し合っていた。そして、三人がやっと導き出した結論。それが真実の公表だった。
深海には彼らの出した答えが正しいかどうか分からない。きっと誰にも分からないだろう。しかし、三人の出した結論が、今後この世界に明るい未来をもたらしてくれることを深海は信じている。
「カルマさん、本当にこっちに残らなくていいの?」
近くを流れる川の前で自分のロッドを力強く握るカルマに、奈瀬が訊ねる。
カルマはロッドをじっと見つめてから、それを川に勢いよく投げ込んだ。突然のことに、奈瀬は慌ててロッドとカルマを交互に見やる。
「ちょっと! いいの!?」
流されて河口に向かうロッドの姿が徐々に小さくなる。
「いいんだ。ちゃんと家族にも旅に出るって言ってきたし、向こうの世界で魔法を使わずに生きていくって決めたんだ!」
カルマが川に背を向けた。すると、振り向いたカルマの目の前に日下部が立っていた。彼はカルマの首に馴れ馴れしく腕を回す。
「いい心がけだ! ……ということは、諸星がこっちの世界に残るのと入れ替わりか」
「結局、諸星くんはこの世界に残るんだ?」
奈瀬の質問に日下部は首肯する。
「ああ。でも、それでいいんだ。あいつはあの仲間と一緒にいた方が幸せなのさ。……俺はちょっと寂しいけどな」
日下部は軽く鼻下を擦った。
「そういえば、向こうで事件になってる諸星くんの傘についてた血って何だったの?」
奈瀬が思い出したように口にする。
「あー! それな、直接諸星に話聞いたら、近くにいた猫に傘を差してやろうと思って手を伸ばしたら、思いっきり引っかかれて、その血が取っ手についちまったんだと」
「……そんなことだったの!?」
奈瀬は深い溜息と共にがっくりと項垂れた。
「そろそろ行くぞ」
深海の言葉に反応して、一同は自然と整列した。五人はランド、リゼル、リリィと向かい合う。彼ら八人の左胸には、功績を称える勲章が金色に輝く。
「ハルト、本当に行っちゃうのね?」
陽斗はリリィに向かって微笑んだ。
「うん。やっぱり今まで育ってきた世界で暮らすって決めたんだ。深海や奈瀬もいるし、家族もいるしね」
本当の両親はこの世界にいる。だが陽斗にとっての両親は、向こうの世界で自分を大切に育ててくれた二人なのだ。考えに考え抜いて出した結論だった。
「そう……」
リリィは若干俯き、少しして顔を上げた。
「元気でね」
そう言う彼女の瞳は濡れていた。
陽斗たちは三人と腕を交差させ、挨拶を交わす。それから、小屋の中に入った。
梯子を上った二階。鏡を背に五人が立つ。
「こっちに来たらいつでも寄ってくれ」
「また会えることを願っているわ」
「またな! 楽しかった! ありがとう!」
リゼル、リリィ、ランドの言葉を胸に、五人は順番に鏡を覗き込んだ。体が吸い込まれ、やがてその姿はどこかへ消えてしまった。
「本当に行ってしまったのね……」
彼らがいた場所を見つめ、リリィが寂しそうに呟く。
「ああ。何だか夢でも見ていた気分だ」
リゼルが眼鏡を掛け直し、微笑を零す。
「さて! エスディアの会見場へ戻るか! やることは山積みだぞ!」
ランドは自分にも言い聞かせるように元気に小屋から外へ出た。リゼルとリリィはそれを見て微笑み、ランドの後を追う。
小屋の扉をパタンと閉めて振り返る。すると不思議なことに、小屋のあった場所はただの野原になっていた。




