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Another World  作者:
第八章 希望のドラゴン
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第46話

「なぜここにいる!?」


 リゼルの言葉を無視して、日下部が辺りを見回す。そして、諸星を見つけ、階段を急いで上り切った。


「諸星!!」


 諸星は懐かしい声に思わず体を硬直させた。目を丸くし、息を呑む。


「日下部さん……? どうしてここに!?」


「そんなことはどうでもいいじゃねーか! 諸星、お前こんなとこで何してんだ?」


「何って、仲間を助けに……」


「仲間を助けに来たのか! いいことだ! 諸星がいなくなってすげー心配したが、その必要はなかったようだな。お前にも大切な人たちが見つかって、その人たちのために何かをしてやれるようになったんだからな!」


「………………」


 諸星は日下部から目を逸らした。


「……日下部さん、俺初めてなんです。誰かに頼られたり、誰かを守りたいと思ったのは。向こうにいた時、誰も俺に近寄ろうとしなかったのに、日下部さんだけは俺のこと気にかけてくれて話してくれた。本当は凄く嬉しかったんです」


 諸星の瞳には涙が溜まっていた。


 階段には奈瀬、深海、カルマがやっと到着し、黙ってその場に佇んでいる。


「でも、言えなかった。今までの自分の殻を破って、素直になることができなかった。何かきっかけがあればと思った。そんな時、この世界に来たんです」


 日下部は相槌だけ打って黙って静聴している。


「最初は訳も分からず辺りを歩き回って、そうしたら真黒な杖が木の幹の中に刺さっているのを見つけて手に取ったんです。杖を持った瞬間、今まで経験したことないような力が湧いてくるような感覚がして、杖の力を抑えることが出来なくなったんです。自分ではどうすることもできず困っていたその時、偶々横を通りかかったディノスさんたちが俺を助けてくれました。その後、ディノスさんたちは俺の話を黙って真剣に聞いてくれて。そうしたら俺と、俺の力を必要だって言ってくれたんです。その時俺はこの人たちの役に立ちたいと思うようになったんです」


 諸星はロッドを握る手に力を込める。


「初めて俺を必要としてくれる人に出会った。それが堪らなく嬉しくて……。それで、彼らと行動を共にすることにしたんです」


 諸星はディノスとケイ、ルイを視界に捉える。ケイとルイは小さく体を丸めてその場に座り込んでいた。


「……本当は関係ないエスディアの人たちを巻き込んでいるのも分かっていました。多分、みんな分かっていたと思うんです。でも、それでも止めるわけにはいかなかった。俺はディノスさんたちを裏切りたくなかったし、三人はどうしても世界が信じていることが実は真実ではないと国に認めさせ、謝らせたかったから……」


「そうか……。よく頑張ったな」


 日下部のその一言で、今まで渦巻いていた感情が一気に溢れ出すように、溜まっていた涙が零れ落ちた。


「俺には事情はよく分からねーが、この国の王子様お姫様が何とかしてくれんだろ?」


 日下部がランドたち三人に目を向ける。


「勿論だ」


 日下部に言われたのは癪に障ったが、リゼルは毅然とした態度で答えた。


「だそうだ! 人間は完璧じゃない。過ちも犯す。その過ちが取り返しのつかねーもんな時もある。だが、それをずっと引きずってちゃ駄目だ。俺にはそんな経験なんてねーから薄っぺらく聞こえちまうかもしれない。でも、そんな辛い経験をしたことがないからこそ冷静に物事を見て助言することもできんだ」


 日下部は諸星だけではなく、その場に座り込んでいる三人にも目を向けた。


「そこの三人! 俺はあんたらにも言ってんだ! これからこの国を背負って立つ奴らがあんたらの話に耳を傾けてる。過去の過ちを繰り返さないために! 辛い経験を忘れろとは言わない! だが、何を言おうと何をしようと、もう過去は戻ってこねぇ。そんくらいのこと、あんたらだって分かってんだろ! だったら、残りの人生楽しい方がよっぽどいいじゃねーか! あ、俺は私は楽しむ資格なんてないとかつまんねーことは言うなよ?」


 ディノスは日下部の言葉に頭を強く打たれたような気がした。今まで自分が双子にしてきたことが急に蘇る。子供なら誰でも遊びたい時期に、普通の子たちとは全く違う時間を過ごさせてしまった。幼い頃から世界を恨み、復讐することだけを彼らに植え付けてしまった。自分の目的のために、心のどこかにあった双子のためにならないという思いに鍵をかけ、封印してしまっていた。ディノスは瞳をきつく閉じ、唇を噛む。


「………………」


 拳を握りしめ、彼は双子たちに向き直った。


「……ケイ、ルイ、済まない。俺が大人として、もっとちゃんと色々教えてあげれば良かったな。そしたら二人をこんなに苦しめなかったかもしれない……。俺の頭には復讐という文字しかなくて、それ以外のことを考えることができず、二人にそれを強要してしまった。本当に申し訳なかった」


 ディノスは二人に頭を深々と下げた。その頭はなかなか上がらない。


「ディノス、やめてよ! ディノスは精一杯僕たちを育ててくれたよ! 僕たちはディノスが大好きなんだ! だからここまで付いてきた。自分の意思で! 後悔なんてしてないよ! ね、ルイ?」


 ケイがルイの顔を覗きこむ。彼女はケイにさっと背を向けた。


「……バカ」


 ルイはそう呟いて、誰にも気づかれないように静かに涙を流した。

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