第43話
暫くしてライレーン城に到着した。下ろされた跳ね橋を通過し、城門の前で止まる。
「お帰りなさいませ!」
門番は挨拶をしてから、大きな門を開けた。八人は城の中へ足を踏み入れる。
門番二人は彼らが通った後、お互い顔を見合わせた。
「今、ランド様二人いなかったか?」
二人は腕を組んで、首を傾げた。
フェリアを中央庭園に連れて行き、陽斗たちは螺旋階段を上って二階の中央の部屋へ入った。珍しく、王だけでなく王妃もその場にいた。
「随分大人数だな」
王はそう言った直後、何かに気付いたように驚いた様子で立ち上がり、隣にいた王妃と顔を見合わせた。
「まさか、そんな……」
王妃も立ち上がり、ゆっくりとランドと陽斗に近づく。彼女は二人を交互に見比べ、陽斗の前に立った。
「名は何と言うのです?」
「陽斗と言います」
「そう。ハルトと言うのね。大きくなったわね」
王妃は優しく微笑み、陽斗を抱きしめる。陽斗は何だか複雑な気持ちになった。本当の母親に会えて嬉しいような、今まで一緒にいた家族はやはり自分と血が繋がっていなかったのかという落胆が入り混じった感情。そして、それと共に生まれたホームシックにも似た感覚。
王妃は陽斗から体を離し、ランドに目を向ける。
「ランド、ハルトがここにいるということは、大方の話はもう知っているのでしょう?」
「はい」
ランドは真面目な顔で答えた。
「王妃様、お久しぶりです」
リゼルが一歩前に出て、頭を下げる。
「ここにいる者たちは、ハルトの世界から来た者たちです。もしよろしければ、ハルトを向こうの世界に連れて行った方を教えてはいただけませんでしょうか?」
リゼルの話に、王妃は王に体を向けた。彼は眉を顰め、首を横に振る。
「少し待って、リゼル殿。ハルトのいた世界というのは、どういうことです?」
王妃の発言に八人の動きが刹那停止した。
「王妃様、ご存知ないのですか? ハルトはこの世界とは別の世界で今まで暮らしていたのです」
「別の世界!?」
王も王妃も驚愕したように目を見開き、息を呑んだ。
「わたくしたちは、ランドとハルトが生まれた時、後に生まれたハルトをどこか遠くで一般の民として育ててくれるように、乳母にお願いしたのです。とは言え、やはり自分の子供。心配でしたので、乳母とは連絡を取っていました。ですが、すぐに連絡が取れなくなりました。行方も知れず、わたくしたちはそれを機に彼女たちを捜すのを止めました。誰かに勘付かれてしまう可能性もありましたから……」
王と王妃は陽斗が別の世界にいたことを知らなかった。彼女の話から分かったのは、陽斗の母親はライレーン城で乳母を務める女性だったということだ。
一先ず、リゼルと深海が王と王妃にこの闇を解く方法を伝え、既に夕刻を過ぎていたということもあり、その日はライレーン城に一泊することになった。ランド以外の七人は三階の客間を使わせてもらう。
取り敢えず、一度ランドの部屋に全員集合した。リゼルだけ立ち、後は皆ソファに座る。
「明日、刑魔所で『最後の黙示録の最後』に書かれていることを実行する」
リゼルの言葉にランドは首を傾げる。
「何で刑魔所? この世界の中心はエスディアじゃないの?」
ランドの発言にリゼルは大きく溜息をついた。リリィが微笑する。
「ランド、地理的な中心は実は刑魔所だって言う人もいるのよ」
「刑魔所は氷に閉ざされた小さな島。その形状は完全なる円。北、南東、南西に高い氷の塔が立っている。その特殊な環境を考慮すると、本はエスディア大陸より、刑魔所を中心と捉えていると考えられる」
リゼルの説明に、そうだったんだ、とランドが相槌を打つ。
今度は深海が立ち上がる。皆が一斉に深海に注目した。
「本には、三国の力を正しい位置で解放する、とあった。エスディアを中心に、ライレーンは北、ジュラルデンは南東、リヴァレルは南西にあるから、ランドまたは月橋が北の氷の塔に立つ。南東がリゼル、南西がリリィさん、ということになる。刑魔所の中心には、この世界で最も高い見張り台があると聞いた。そこも言わば塔になっている。北の塔に立たない方が、セルフォードを持って最後にその力を発揮し、光を取り戻す」
深海がそう説明し、次に陽斗に視線を落とした。
「それと、その光の元なんだが……、月橋」
陽斗は不思議そうな表情を浮かべる。
「俺はこの世界に光をもたらす何かは、その肩に留まるドラゴンだと思っている」
陽斗は言われて、肩に留まる、光り輝く小さなドラゴンに目を向ける。
「え、どういうこと? だって、本によると、光の象徴である何かは、消滅する代わりに世界に光をもたらすんでしょ? 深海は、このドラゴンがいなくなる代わりに世界に光が戻るって言ってるの……?」
陽斗の差し出した掌にライトがちょこんと移動する。
「そうだ」
断定の一言が、陽斗の心に突き刺さる。ライトの小さな頭を人差し指で一撫でして、俯いた。
「……それじゃ、ライトは死ぬために生まれてきたって言うの?」
「ハルト、それは違う!」
掠れた声で言う陽斗に、リゼルが言い放った。
「俺たちを……、この世界を救うために生まれてきてくれたんだ!」
陽斗は、最初見つけた時より成長したドラゴンをじっと見つめる。
「……本当は深海から本の話を聞いた時から何となくそうなんじゃないかって思ってた。だけど、認めたくなかった。一生懸命ご飯を食べて、一生懸命寝て、一生懸命生きているこのドラゴンの運命が、そんな悲しいものだなんて……」
誰も陽斗に何かを言ってやることなどできなかった。静寂がその場を支配する。
陽斗は暫くして、吹っ切ったようにライトが乗った手を前に差し出した。
「ライト、君は神様が残したおれたちの最後の希望なんだ! この世界を救うために、力を貸してくれるか?」
陽斗の言葉に反応するように、ライトは小さな翼をぱたぱたと動かし、何度もキャッキャッと声を上げた。
「……力を貸してくれるんだね。じゃあ、明日は頼むぞ!」
陽斗は何度も何度もライトを撫でた。
本当は吹っ切れるはずもない。陽斗は敢えて言葉にすることで、現実を受け止めようとしたのだ。この世界を救うためには、どうしようもないことなのだと。
七人はその陽斗の姿を何とも言えない表情で眺めていた。




