第42話
三人は小屋に到着した。陽斗はすぐに携帯を取り出し、メールをチェックする。
「深海からメールが入ってる……。この世界とおれの世界を行き来するには、同時に誰かと入れ替わる必要があるらしい」
リゼルは陽斗が持つ携帯の画面を覗き込んだ。
「だったらちょうどいい。ハルトとランドが入れ替わればいいだけの話だ。フカミって奴に今小屋にいると伝えてくれ」
リゼルの言葉に、陽斗が頷いた。
「もうハルトともお別れなのね……。ちょっと寂しいわ」
リリィが切ない表情で微笑む。
それを見て陽斗も少し寂しい気持ちが湧いてきた直後、小屋全体が揺れるような感覚に襲われた。
「地震……!?」
三人は一先ずその場にしゃがみこんだ。揺れの他にも、何かが落ちるような音が耳朶を打つ。それと共に、何やら聞き覚えのある声が鼓膜を振動させた。
揺れが治まり、三人は立ち上がって音の方向へ目を向ける。そして目を見開いた。
「……奈瀬さん、深海!?」
「ランド!」
鏡の前に人間五人が重なるように倒れていて、傘がそこらへんに放り出されていた。
「ちょっと! 早く降りてよ!」
一番下にいた奈瀬と深海は、身動きが取れず、苦しそうな表情を浮かべていた。
全員が立ち上がり、一人ずつ梯子を下りて来る。
「月橋、元気だったか?」
深海は陽斗に近づいた。
「うん! でもどうやってこの世界に?」
「その説明は後でする」
深海はそう言って、陽斗の肩に留まる小さな光るドラゴンに目をやった。
「それは……?」
「こいつはライトって言うんだ。偶然見つけたんだけど、なんかおれに懐いちゃって。で、一緒にいるんだ」
深海がまじまじとそのドラゴンを見つめる。
「まさかこいつが……」
深海は小さな声で呟いた。考え込む彼に、首を傾げる陽斗。
「……ちょっと! 何で日下部さんがここにいるのよ?」
奈瀬が日下部に詰め寄る。日下部は両掌を奈瀬に付き出した。
「いや、それはなんていうか、つい……? ま、いいじゃねーか! ここに諸星がいんだろ? 俺もあいつに会いたいしな!」
奈瀬が横目で日下部を睨む。
「今すぐ帰って下さいよ」
「そんな冷てーこと言わないでさ! 仲良くやろうぜ? お嬢ちゃん」
奈瀬は笑う日下部に、より一層睨みを利かした。
「リゼル様、リリィ様、お初にお目にかかります。わたくしカルマと申します」
カルマはランドたち三人の前に跪き、頭を下げる。
「また、カルマはそうやって……。もっと普通でいんだぞ?」
ランドはカルマの両肘を掴んで、立ち上がらせた。
「こいつはカルマって言って、こっちの世界の人間なんだ。だけど、モロボシって奴と入れ替わって、向こうの世界に行っていたらしい」
ランドがリゼルとリリィに説明する。
「あの……」
声をかけられてランドが振り向くと、そこに立っていたのは自分とそっくりな顔をした陽斗だった。二人が向かい合う。
「ランドくんだよね? おれ、月橋陽斗って言います。……自分で言うのも何だけど、ホントそっくりだね」
笑う陽斗をランドは上から下まで全身見回した。
「ホントそっくりだ……。さすが双子だ……」
「双子……?」
陽斗がそう聞き返した時、深海が話を切り出した。
「初めまして。深海と言います。早速ですが、俺たちがこの世界に来られた理由を説明します」
深海の話を真剣に聴く陽斗、リゼル、リリィ。彼の話の中には、『最後の黙示録の最後』の話も入っていた。今のこの世界の状況、それを打破する方法、そして陽斗とランドが双子だという事実。
「おれが双子……?」
陽斗が驚愕の表情でランドを見つめる。
「本当なの……?」
にわかに信じられないリリィも口元に手を当てる。
「もしその話が本当なら、ハルトはこっち側の人間ってことか……。だが、これで全ての辻褄が合ったな。ハルトとランドがそっくりな理由。誕生日が同じ理由。ハルトも魔法が使える理由。セルフォードの適合者でもある理由……」
リゼルのその話を聞いて、深海が聞き返した。
「誕生日が同じ?」
「ああ。ハルト、誕生日は俺たちと同じ十一月三十日だと言ったな?」
「うん」
深海が顎に手を当てる。
「……お母さんは知っていたんだ」
陽斗はそれを聞いて眉を顰めた。
「知ってるって何を?」
「月橋がこっちの世界からやって来たことをだ」
「え……、それどういう……?」
陽斗の鼓動が大きく速く脈打つ。
「月橋に正しい誕生日を伝えているということは、月橋がこっちの世界の人物だと知っている証拠。普通に考えて、赤ん坊だけを俺たちの世界に送ることはしない。ということは、月橋は誰かと向こうの世界へ行った。最初は、月橋をどこかに捨てて、拾ってくれた人が育てている可能性もあると思った。だが、初めて異世界に行って、赤ん坊を置き去りにできるはずない。月橋は一国の王家の血を引く赤ん坊だからだ。粗末な扱いなどできるはずがない。恐らく、月橋と一緒に俺たちの世界に来た人物が、月橋を育てている。つまり、月橋の母親も元々この世界の人間の可能性が高いということだ」
「………………」
この世界に来ただけでも、これは夢なんじゃないかと思うくらい驚いたのに、自分の出生がここで明らかになったことに、陽斗はもっと驚いていた。
陽斗が固まっているのを一瞥し、リゼルが口を開く。
「ここで話していても時間が勿体ない。今この世界では破滅へのカウントダウンが確実に進んでいる。一先ず、ライレーン城に向かおう。今後の話や、ハルトの出生の真実も聞けるだろ?」
陽斗はリゼルに目を向けた。メガネをかけた彼は微笑を浮かべている。
リリィは外に出る前に、全員に魔法をかけた。雨に濡れないように。
小屋から出て、リゼルはティルの他にも三体の魔法獣を召喚した。
リゼルとリリィはいつも通りティルに乗り、陽斗とランドはフェリアに跨る。
「フェリア、久しぶりだな。元気にしてたか?」
ランドがフェリアを撫でると、嬉しそうに鼻を鳴らした。
「凄い! 雨がこんなに降ってるのに全く濡れてない!」
奈瀬が山吹色のライオンのような動物に跨りながら、感動したように自分の体のあちこちを眺めた。
「おい、お嬢ちゃん、あんまり動かない方がいいぞ。振り落とされても知らねーぞ?」
日下部が後ろに乗っている奈瀬をちら見した。
「分かってるよ!」
リゼルは全員の準備が整ったことを確認すると、ティルを走らせた。
「行くぞ!」




