第41話
約束の時間、三人は美竹公園にやって来た。
降り止まぬ雨のせいで、地面はぬかるみ、水溜りが出来ている。
ランドはこの世界に来た時と同じ格好をしていた。黒いローブを羽織り、世にも美しい杖を手に携えている。
「あ、来た来た」
奈瀬の視線の先に目を向けると、カルマと木本が走ってきていた。
「お待たせしました」
木本が息を切らして腰を曲げながら顔を上げる。
「カルマさん、こっちの世界に残るにしろ、一度向こうに行った方がいいと思って呼んだんだ」
奈瀬が深海とランドに説明する。
「奈瀬さん、声かけてくださってありがとうございます」
カルマが礼儀正しくお辞儀をする。
「いえいえ。パパには向こうの世界行ってくるから、何も言わずに大人しく待っててって言ってきた。……ランドくん、日下部さんとお母さんにはちゃんと言ってきた?」
「おう! お母さんには友達んちに長期で泊まるって言ってきた。クサカベさんにはちゃんとお礼と向こうの世界に行くってこと電話で伝えた。会う時間もないし、会ったら長くなりそうだと思ったから」
ランドは微笑していたが、少し寂しそうに見えた。
雨の音に混じってドドドドというバイクの音が聞こえてくる。
「――間に合ったぜ!」
びしょ濡れになりながら、白地に赤のメッシュが入ったヘルメットの男が近づいて来た。バイクを飛ばしてやって来たその人物に一同は目を丸める。
「クサカベさん!」
「おす! やっぱ最後はちゃんと会いたくてさ!」
日下部がヘルメットを取り、それを木本に手渡してからランドに手を差し出す。
「アシスタント、ありがとな! 上手いとは言い難かったが、楽しかったぜ!」
ランドは出された日下部の右手を両手で握った。
「こっちこそ、めっちゃ楽しかった!」
ランドは歯を見せて笑った。
木本は彼らを一瞥してから、カルマに向き直る。
「カルマ、気を付けてな。もしこの世界に戻ってくることがあったら、いつでも俺のマンションを訪ねてくれ」
「木本さん……、ありがとう」
カルマは木本を抱きしめた。木本の目尻には薄らと涙が溜まっていた。
「よし、行こうか! ……といっても、どうやって向こうの世界に行くんだろう?」
奈瀬はそう言って下の水溜りを見つめた。自分の姿が映っている。と、その瞬間、奈瀬の体が水溜りに吸い込まれるように消えてなくなった。
「ナセ!?」
ランドが今まで奈瀬がいた空間を見つめる。
「そうか! 向こうの小屋の鏡と繋がっていたのは、美竹公園の水溜りだったんだ! カルマさんがこの世界に来た時、雨が降っていたと言っていましたよね?」
深海の言葉にカルマは首肯する。
「月橋がいなくなった時も、雨が降っていた」
深海はそう言って、奈瀬が見つめていた水溜りを覗き込んだ。自分の姿が映っている。すると、やはり奈瀬の時と同じように、深海の体も吸い込まれるようにして消えてしまった。
「……凄いな」
木本は目の前で起きた現象に、吐息交じりに台詞を零す。
ランドとカルマは顔を見合わせ、二人に続いた。
「いってらっしゃい……!」
木本は微笑んだ。
「それにしても、ホント凄いっすね」
日下部は皆が吸い込まれていった水溜りに近づき、つい覗き込んでしまった。
「あ、そんなことしたら君まで……!」
木本の言葉を日下部が聞き取れたかどうかは分からない。
彼の前には何の変哲もない水溜りだけが残されていた。




