第39話
「ちょ、ちょっと!」
その声と被るように、一つの足音がドタドタと近づいてきた。皆の警戒の視線が集まる中、姿を現した人物に深海は呆れて息を吐いた。
「よっ!」
「クサカベさん!」
ランドが勢いよく席を立って日下部に駆け寄る。
木本は玄関から急いでやって来て、どうやら知り合いらしい日下部に瞠目する。
「この人君たちの知り合いなの?」
「……済みません」
冴歌も溜息をつきながら木本に謝った。
「偶々あんたらを見かけてさ、後を追ってきたってわけよ! そしたらカルマと話してるから、これは部屋に入らなきゃなーと思ってさ! そこらへんで宅配業者っぽいキャップ買ってきて、鍵開けてもらったってわけよ! 尾行なんて初めてだったけど、スリルあって結構楽しかったぜ!」
気分上々で語る日下部をきらきらとした瞳を向けるランド。それを見たカルマはもう一人分コーヒーをカップに注ぎ込んでテーブルに置いた。
「ども!」
日下部は出されたコーヒーを早速手に取り、口に含む。
「で、今どういう状況になってんの? 諸星と何か関係あんの?」
「………………」
(誰かこいつを黙らせてくれ……)
深海が頭を抱える。
洋一と木本、それにカルマも日下部の言っている意味を理解できず、説明を求める空気が周囲に漂う。冴歌は溜息交じりに今までの全てを語った。
「マジで!?」
話を聞き終え、日下部が興奮気味に声を上げる。
「お前、異世界の人間だったんだな」
ランドが頷く。
洋一も納得したように何度も頷いた。
「で、これからどーすんだ? 諸星は向こうの世界にいんだろ?」
日下部が深海を視界に収める。深海は彼を一瞥してから口を開いた。
「恐らく、世界を行き来するには誰かと入れ替わる必要がある。しかも同時にだ。となると、向こうの世界とタイミングを合わせる必要がある。よって、こちらから月橋の携帯にメールして、月橋たちが向こうであの小屋にやって来た時に連絡をもらうしかない。つまり、こちらからはもう動けないということだ」
深海のあの言葉の後、一先ず皆解散することになった。勿論、あの場で話した全てについて口止めをした上で。
「深海くん、わたしたちもうこれで本当に何にもできないんだね」
陽斗にメールを打っている深海の横で冴歌が空を見上げる。白い雲が浮かぶ青空。
「……そうでもない」
深海の言葉に冴歌は首を傾げた。
「まだ月橋がこの世界に戻ってきていないのに、何もしないで待っているなんて俺にはできない。だから、俺は俺なりのアプローチ方法で色々調べてみるつもりだ」
深海は微笑を浮かべる。
「深海! 俺、明日からこいつ借りるわ!」
日下部がランドの首に腕を回し、反対側の手をひらひらと深海に振った。
「学校終わった後、クサカベさんのところでアシスタントすることにした! もうちょっとしかこの世界にいられなさそうだから、色んなことをしてみようと思う!」
ランドが深海に笑顔を見せる。
「ああ。そうした方がいい」
深海は前を歩く二人に聞こえるようにそう言った。
平日になり、ランドはいつも通り死にそうになりながら授業を受け、深海は睡眠時間を削りながらランドに数学や読み書きを教えた。
カルマはいつも通りマジシャンとして仕事をこなし、日下部もランドと楽しくマンガを描いた。
冴歌と洋一は、雑誌の記事を二人で練っていた。




