第32話
降り続く激しい雨に打たれ、三人はとある洞窟にやって来た。洞窟の外に転がっていた枝を集めて炎を灯し、びしょ濡れになった体を温める。
「どうしてディノスさんを連れてこなかった……?」
諸星は双子を見ることなく、そう呟いた。ケイは炎の前で丸めていた体を更に小さくする。
「僕たちにはもうそんなに力が残ってなかった……。僕たちと、あと一人を連れだす力しか。あの場から急いで逃げなきゃいけないと思った。そればっかりが先行して、手前にいたユウゴに魔法を使ったんだ……」
「ディノスはユウゴの陰に隠れて、居場所が特定できなかったの」
ルイが付け足す。
「………………」
三人はただ燃え続ける炎をぼんやりと眺めていた。火がぱちぱちと燃える音だけが響く。
「……どうしてユウゴはそこまでディノスにこだわるの? ディノスはユウゴを心の底から信用していたわけではなかったかもしれないのに」
ルイが少し意地悪そうに言う。彼女から紡ぎだされたその言葉に、諸星はふっと笑って見せた。
「そんなの知ってるよ。ディノスさんが俺に、ディノスさんたちを裏切らないように魔法をかけていたことくらい。裏切り行為をしそうになった時は、容赦なく殺す気だったんだろ?」
双子が肩を竦め、同時に俯く。
「…………じゃあ、どうして。尚更ディノスに付いていく必要はないでしょ?」
ケイがちらっと諸星を流し見た。
「それでも良かったんだ。俺の奇異な力が……、恨んできたこの能力が、この世界では素晴らしい力に変化した。そしてディノスさんはその力を……、俺を必要としてくれた。それだけで十分だった。魔法をかける必要なんて最初からなかったんだ。俺は絶対にディノスさんを裏切らない」
いつの間にかケイもルイも顔を上げて諸星を見つめていた。
「早く傷を癒して、ディノスさんを助けに行くぞ」
諸星の言葉に双子は力強く頷いた。
*
あの一件から数日が経った。雨は降り続き、太陽はその姿を見せなくなった。草木は枯れ、海は氾濫し、動物はどこかへ消えてしまった。
諸星たちが逃げ去った直後、エスディアの兵たちが大臣たちと共に勢いよく入ってきた。幼き王子は保護され、陽斗たちとディノスは手当され、暫くエスディアに留まることになった。
最初、戦闘態勢を整えていたエスディアの者たちは、ディノスがリゼルにやられたことによって魔法が解け、我に戻ったという。
傷がある程度治った後、ロッドを取り上げられていたディノスは抵抗する様子もなく、事情聴取を受けていた。
陽斗たち三人もその聴取の様子を別室で見ていた。
ディノスたちがエスディアを乗っ取ろうとした理由は、復讐。
十数年前まで、この世界にはイルート人という民族がいた。知識が豊富で、知恵もある。神の御加護を受けた民族として知られていた。だが、他の民よりも優れているという自負から己がこの世界を征服しようとした。その結果、エスディアを脅かす民族として、エスディアと三国によって殲滅させられた。教科書にも載っている有名な話である。
「だが、そんなのは嘘っぱちだ。本当は、イルート人の賢さを恐れたエスディアが彼らの力が大きくなりすぎる前に排除したんだ!」
力を込めて言うディノスを見て、リゼルとリリィは顔を見合わせた。
「もしこれが本当だとすると、私たちのお父様の行為は……」
「ああ。民からの氾濫を恐れて歴史を……正義を捻じ曲げて、隠蔽したことになるな」
ディノスの言葉に、聴取をしていたエスディアの大臣は立ち上がって反論する。
「そんなわけないだろ! デタラメを言うな! イルート人はエスディアを滅ぼそうとしたんだ!」
大臣は持っていたロッドを振りかざし、ディノスの体を痛めつける。椅子から転げ落ち、膝と肩を打つ。
三人はそれを見て、急いで聴取部屋へ向かった。ディノスはやられても怯むことなく、尚話し続ける。
「俺はイルート人とエスディアの一般人とのハーフだ。俺の父親も果敢に戦ったが、エスディアに殺された。母親は父親を追うようにあの世に行った。弟もあの戦いに巻き込まれて命を失った。一瞬にして、俺は天涯孤独になったんだ……。あの時、俺も参戦していたが、隣の家で生まれた双子の赤ん坊を安全な所へ連れて行ってくれとお願いされて、託された天馬の杖と共にあの場から離れた。双子の母親が後から追いかけてくるはずだったが、結局来なかった。子供を産んだばかりで体力もなかったんだろう。町に戻った時には木々に炎が移り赤々と燃え、家は壊れていた。俺が壊れた彼らの家を訪れた時、母親を守るように覆いかぶさる形で父親が倒れていた。罪もない命を幾つも奪ったこの世界を俺は絶対に許さない! この世界をそんな風にしたあんたらを絶対に許さない! 俺はそう誓ったんだ!!」
ディノスは壁に罅が入るくらい強い力で体を打ち付けられた。
駆け付けた三人は鍵が付いていた扉を打ち破り、リゼルは中へ入って大臣の腕を掴んだ。リリィは再び傷を負ったディノスの体を抱き起こす。
「大臣! 何をしているんですか!」
リゼルの大声に、大臣は我に返ったように動きが止まり、その後振り上げていたロッドを下した。
「……済まない。ついむきになってしまった。止めてくれて礼を言う」
大臣はすとんと椅子に座り、力なく呟いた。
「……ディノスは明日刑魔所に連行する」




