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Another World  作者:
第五章 捜査開始
30/51

第30話

 深海が出て約五十分後、ランドはきちんと終礼まで出席し、学校を出た。そして携帯を取り出し、深海に電話する。


『ああ、ランド。お疲れ』


「フカミ、置いてくなんて酷いよ!」


 ランドは口を膨らませながら、足早に駅へ向かう。


『ランドがどんな言い訳で学校出てくるかと思ったが、さすがにレベルが高かったか』


「…………」


『昨日行った施設への行き方は分かるな?』


「分かる……と思う」


『駅に着いたら連絡をくれ。今その近くのファミレス……食事できる店にいるから迎えに行く』


 ランドは電話を切って、東急東横線に向かった。




 ランドから連絡を受け、深海はファミレスを出た。


 数分後、仏頂面をしたランドを連れて深海が戻って来た。窓側の席に座っていた奈瀬は苦笑を浮かべる。


 ランドは席にドスンと腰掛けると、バッとメニューを取って物凄い速さで一見。そしてそれをバタンと閉じて、口を開いた。


「ハンバーグセットとカレーうどんと五目チャーハン!」


 深海はそれを聞いてテーブルの呼び出しボタンを押す。やがてウェイターがやってきて、ランドの台詞を深海がそのまま繰り返した。呆れ顔で二人の顔を覗く奈瀬。


「……何で深海くんが頼んでんの?」


 すると、ランドが身を乗り出して奈瀬に顔を近づける。


「フカミだけ先に行っちゃってさ! オレもお腹空いてるし、授業何言ってるか分からないし、先生には怒られるし! で、フカミがお昼奢ってくれることになったんだ!」


「……へぇ、そう」


 奈瀬は深海に憐みの目を向けた。


「お! これで皆さんお揃い?」


 銀髪に金のメッシュを入れた髪を肩まで伸ばし、首からは長めのチェーンネックレスをした、チャラ男という言葉を表したような男が席にやって来た。年は二十二、三くらいに見える。


「深海くんにはさっき言ったけど、彼が諸星くんをよく知る、日下部春馬さんです」


 奈瀬がランドに日下部を紹介する。


「ども! 今ちょっと小便行ってて」


 日下部は奈瀬の隣に席に座った。


「こっちはラ……月橋陽斗くん」


「どうも! ツキハシです」


 ランドがペコっと頭を下げる。


 簡単に挨拶を済ませると、奈瀬が話し始めた。


「昨日張り込みしてて、近所の人とかあの施設に出入りしている中学生とかに話を聞いたんだけど、皆諸星くんのことは詳しく知らなかった。で、今日の午前中にバイクに乗った日下部さんが来て、話を聞いたら諸星くんについて詳しいって言うから引き留めたってわけ」


 奈瀬の話に頷きながら、日下部がアイスコーヒーをストローで啜る。


「どうしてあの施設に?」


 早速深海が質問を投げかける。


「俺、毎週土曜日にあの施設に行って、微力ながら援助してんだよ」

「援助……。失礼ですが、ご職業は何を?」


 深海は片眉を吊り上げ、日下部の外見を改めて観察する。


「漫画家だよ。まあ、たいして売れてねーけどな」


「もしかして『青春バトルロード』描いてるクサカベさんですか!?」


 日下部の言葉に反応して、ランドが興奮気味に瞳を輝かせる。


「お! 俺のマンガを知ってんのか! なかなかいい目してんじゃねーか! あの話どうだ? 面白いか?」


「面白いです! バトルの迫力があるところがいいです! 凄く分かりやすいです!」


「だろ!? よく分かってんじゃねーか! だが、編集部は荒削りだ、もっと丁寧に! って言うんだよ。あの話にはあれくらい荒削りな絵の方がいいんだよ!」


 ランドが何度も首を縦に振る。その横で深海が咳払いをした。


「で、援助している理由ですが、何かあるんですか?」


「あ、ああ」


 深海に言われて、日下部はソファに座りなおす。


「俺はさ、ずっと漫画家になりたくて絵ばっかり描いてきたんだ。親に捨てられて施設で育てられて、学校で苛められたりもした。けど、漫画家になるって夢があったから、道から外れることもなく真っ直ぐ生きてこれたと思ってる。俺がその夢を諦めずにいられたのは、本当の子供のように育て、親身に相談にも乗ってくれた施設のおじさん、おばさんのお陰だと思ってるわけよ。彼らに恩返しをする意味でも、あの施設に通ってる子供たちに夢を持って生きてもらう意味でも、援助って方法がいんじゃねーかと思って、毎週土曜にあそこを訪ねてんだ。ただ金を渡すだけじゃねぇ。子供たちとコミュニケーションとって色んな話をするのもいいんだ。俺の息抜きにもなるしな」


 ランドは既に席に運ばれていたハンバーグセットを平らげながら、日下部の話を真剣に聞いている。カレーうどんと五目チャーハンも届き、ランドはそれらに手を伸ばした。


「俺もさ、金があるわけじゃねんだ。毎日夜には工事や居酒屋のアルバイトして金稼いでる。でも、辛いと思ったことはない。今は売れない漫画家でも、いつかは有名漫画家になって、色んな人に俺のマンガ読んでもらって楽しんでもらいたい。俺にはその目標があるから、毎日が充実してて楽しんだ。同じ施設で育った者として、あそこの子供たちにはぜってー幸せになってもらいてんだ」


 日下部の熱い語りに若干圧倒されながらも、深海は質問を続ける。


「あの……、日下部さんが諸星のことをよく知っているというのは……?」

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