第26話
放課後、三人はすぐに学校を出て渋谷区渋谷図書館へ向かった。いつも駅に向かう方とは違う、恵比寿寄りに歩く。
図書館に着くと、早速パソコンで本の検索を始める。深海は『最後の黙示録』と入力してみたが、案の定そんな本はなかった。他にも色々な検索をしてみたが、目ぼしいものは何もない。
「ねえ深海くん。そんな異世界に行き来する方法が載ったような本なんてないんじゃない?」
横で深海の入力するパソコン画面を奈瀬が覗く。
「確かにないかもしれない。だけど、もし美竹公園と向こうの世界が繋がっているのだとしたら、それを知っている人、つまり異世界を行き来した人がその内容を残している可能性はゼロじゃない」
深海は、仮に異世界からこの世界に来た人がいて向こうに戻らなかった場合、その記録を残すとすれば、書いた本を沢山ある本の中に隠すと考えていた。だが、あくまで可能性の話で、ほとんどないと思っていたのも事実だった。
「……まあ、深海くんがそう言うなら」
奈瀬はそう言って、関係ありそうなジャンルの場所に行って本を手に取り、ぱらぱらとページを捲る。
(確かに可能性はゼロじゃないけど、ほぼゼロだと思うんだよね……。まあ全ての可能性を考えて動くのが、様々な難事件を解決している深海くん流なのかもしれないけど……)
奈瀬はそんなことを思いながら、棚の端から端までページをひたすら捲っていた。
結局目ぼしいものは何も見つからず、三人は一先ず引き上げることにした。
「やっぱりそう簡単には見つからないか……」
深海が溜息交じりに呟く。
三人は駅近くにやって来た。深海が何気なく古本屋に入るので、二人もそれに続く。
深海は目当ての本があるらしく、すぐにどこかへ消えてしまった。ランドは彼に付いて行くことはせず、興味があるのか、人の集まっている方へ自然と足を進めていた。奈瀬は迷わずランドの背中を追う。
ランドはマンガの前で止まった。沢山ある中の一冊を取り、中をぱらぱらと捲る。そして嬉々として奈瀬に振り向いた。
「ねぇ! これ絵ばっかだけど、これも本なの!?」
ランドがマンガの中を見せながら興味津々の眼差しを向ける。
「『青春バトルロード』? これも本だよ。これはここに書いてある日下部春馬さんって漫画家さんが絵と話を作って本にしてるの。こういう本のことを総称してマンガって言うんだよ」
ランドが中を見ながら、笑みを溢す。
「何言ってるか分からないけど、絵があると何となくストーリーが分かって面白いね!」
ランドは字が読めないので、とりあえずマンガを立ち見して楽しんでいた。
暫くすると本を買った深海がランドたちを探して、やって来た。彼は袋の中からタイトルだけ見えるくらい本を取り出し、それをランドに向ける。
「念のため、小学生でも分かる日本語の本を買った。これを見て勉強してみてくれ」
深海から袋ごとそれを手渡され、ランドは苦笑いを浮かべる。
「フカミ……ありがとう」
深海はこくっと頷くと、少し嬉しそうに古本屋を出た。
「明日は諸星について調べてみよう。まずは諸星が中三まで通っていた施設に行ってみることにする」
三人は渋谷駅のJR改札前に来た。人が多く、改札横の邪魔にならない位置で立ち止まる。
「それじゃまた明日」
深海がそう言うのと同時に、ランドが彼の横で奈瀬に手を振る。
奈瀬は一瞬不思議そうな表情を浮かべた。深海はJRではなかったはずだ。だが、彼女はすぐに事の運びを理解した。
「今日は月橋くんちにランドくんを案内するんだっけ」
「ああ。さすがに今日は家に戻らないとな。初日は不安だから、月橋の家に電話して俺も泊まることにした」
「そうなんだ。深海くんも大変だね」
奈瀬の言葉に深海は苦笑する。
深海とランドは奈瀬と別れて、品川方面の山手線に乗り込んだ。五反田で降りて東急池上線に乗り換え、荏原中延で降りる。
地下の駅から上がり、併設してある交番の横を通る。碁盤の目のように道が多く、目的地まで様々な行き方がある。住所が書かれたメモを片手に十分程歩いた。そして『月橋』と書かれた表札を発見。
「ここか」
深海がそう言って家を見上げる。二階建ての普通の一軒家だった。
深海がインターホンを鳴らす。すると、暫くして若い女の子の声が聞こえた。
『はい』
深海はランドに何か喋るよう手振りで指示する。ランドは慌てて口を開く。
「あ、オレだけど……」
『お兄ちゃん?』
声はそこで切れ、すぐにドアから女の子が出てきた。長い黒髪を高い位置でポニーテールにしている。
「おかえりー」
彼女はそう言って、ランドのすぐ横にいる深海に気づいた。
「あ、妹の沙雪です。兄がいつもお世話になってます」
沙雪は手で門を開ける。
「深海諒です。こちらこそ、月橋くんにはいつもお世話になっています」
深海が軽く会釈して笑顔を見せた。
「さ、どうぞ中へ入って下さい」
沙雪が深海を先に家の中へ通す。そして後ろにいたランドの腕を引っ張り、彼の耳元で呟く。
「いつもはピンポン押してすぐ門開けて入ってくるのに今日はどうしたの? しかも深海さんイケメンだし。お兄ちゃんどうやって友達になったの?」
沙雪の質問内容にツッコむ余裕もなく、ランドはあたふたしてしまった。
「えっと、今日はフカミがいたからかな……? フカミがイケメンなのは……カッコいいよな! どうやって友達に……なったんだっけ? 成行き?」
ランドは必死に答えてとりあえず笑顔を見せる。それを訝しそうにじっと見つめる沙雪。
「お兄ちゃん熱でもある? 何かおかしいよ? まるで別人みたいな……」
「べ、別人!? そんなことある訳ないだろ! こんなにそっくりすぎるオレがいるわけないだろ?」
ランドも自分で言っていて、何を言っているのかよく分からなかった。
「……まあ、確かに?」
沙雪はランドを一瞥してから中に入った。ランドもそれに続く。




