第25話
昨日と同じように中森先生が教壇に立つ。だが、今日は持っているものが違う。
「はい、教科書二ページ開いて。関数と極限」
一限目から数学の授業。ランドは教科書をぱらぱらを捲って中を見る。そして固まった。
(数字ばっかり! それに文字が読めない!)
ランドが青ざめていることも知らず、授業は進む。とにかく目立たないように、周りと同じように先生の板書をノートに書き取る。が、追いつかない。
(ああ! 先生消すの早すぎ!)
拙い字で板書を写す。先生が教室を回っている時は、ノートの文字が見えないように頭を低くし、必死にノートを取っているように手を素早く動かす。
チャイムが鳴り、五十分の授業が無事終了。
深海は一息ついて横のランドに目をやり、瞠目した。思わず声をかける。
「……大丈夫か?」
ランドは机に突っ伏し、死にそうな顔をして脱力していた。
「……だ、大丈夫……じゃないかも……。先生も来るし、気が気じゃないなこれ……」
深海は少しランドが気の毒になった。
奈瀬は文系選択のため、数学の授業は受けていない。ランドがピンチになった時助けられるのは自分だけだと深海は思った。
(教科書の問題を全て解いてノートに解答を書いてランドに渡しておこう)
この深海の優しい決意が、後々彼の睡眠不足を引き起こすことになる。
他の授業も理系選択の深海と一緒だった。空き時間には深海がつきっきりでランドに日本語の読み書きを教え込む。
そんなこんなで昼が来た。奈瀬も含めた三人は、混雑極める食堂に乗り込む。
ランドは勿論日本円など持っていなくて、深海が昼食を奢ることになった。食事のディスプレーの前に来ると、ランドが興奮気味に全てを見回す。
「フカミ、何食べてもいいの!?」
一通り見終え、ランドが輝く瞳で深海に振り向く。
「ああ。何でも好きなのを言ってくれ」
「フカミ優しい! じゃあ、これとこれとこれ!」
ランドはラーメンとカツカレーと白波定食を指差した。
「……それ三つとも全部食べられるのか?」
「勿論! どれも美味しそうで迷ったんだけど、今日はこれにする! 明日はどれにしようかな……?」
まだディスプレーに張り付いているランドの横で、深海が自分の財布を取り出して中を開く。それを見てから、券売機に並んだ。
(深海くん優しすぎでしょ! ランドくんのお母さんかっ!!)
奈瀬はそう思いながら、深海の後ろに並んだ。




