第24話
深海は携帯の通話を切って、ランドに向き直った。
「ランド、そこのトイレで奈瀬が持ってきた制服に着替えて」
奈瀬は持ってきた袋をランドに渡し、深海はランドを袋ごとトイレに押しやった。
数分後、ランドが出てくる。
「…………そうだよね、ネクタイ結べないよね」
出てきたランドの襟元を見て、奈瀬が残念そうに呟いた。首に巻かれたネクタイは緩く二重に片結びされていた。
深海はランドに近づき、片結びを解いてタイを自分の首にかける。そしてそれを結び始めた。深海は完成したネクタイを緩め、ランドにかけてやる。
「おお! すげぇ!!」
ランドが自分の首にぶら下がるネクタイを見て、目を輝かせる。
「ランド、これから毎日ネクタイすることになる。緩めておいて、毎日締めるだけにしておくと楽だ。だが、万が一解けてしまった時に結び直せないのはまずい。ということで、練習しておくように。分からなければまた教える」
「了解!」
ランドは元気よく返事した。
深海は頷いてから、顎に手を当てながらランドを見回す。
「見た目は問題ないな。でも雰囲気がちょっと違うか……。ランド、学校では俺たちがフォローするから、あまり喋るな。月橋はランドほどお喋りじゃないからな。それと学校では、俺たちはランドのことを月橋と呼ぶから、ちゃんと反応するように」
深海に言われてランドが自信なさそうに首肯する。
「あと今日の帰り、渋谷の図書館に寄る。書物で何か手がかりがないか調べてみようと思う。あと、諸星についても並行して調査していく」
「本……」
深海の言葉に反応したランドは、腕を組んで考える素振りを見せた。
「ランドくん、どうしたの?」
奈瀬が不思議そうにランドの顔を覗き込む。
「そういえばオレ、こっちの世界に来る前本読んでた」
ランドの発言に深海が目の色を変え、ランドの肩を両手で掴む。
「ランド、その本のタイトルは!?」
「『最後の黙示録』だけど」
「『最後の黙示録』……?」
深海は少しの間黙考してから、顔を上げた。
「それはどんな内容だった?」
ランドの視線が左上を向く。
「えっと……、一言で言うと、オレたちの世界にいつか災いが起こって、光の世界が闇と化すって話。……初めに言っておくけど、まだ読んでる途中だったから最後は分からないからな! まあ、ほとんど読み終わってたけど。確か、太陽は永遠に身を潜め、雨が降り続く。草木は枯れ、闇の力が世界を支配するってところまで読んだな。あれは昔の有名な預言者が書いた本だった」
「何でランドくんはその本読んでたの?」
奈瀬の疑問に、何でだっけ? と呟いてからランドが思い出すように答える。
「城からちょっと離れたところをフェリアと散策してたんだ。そしたら例の小屋を発見して。中入ったら本が何冊かあったんだ。その中でも凄い古そうな、意味深なタイトルを持つその本に興味を持って、読んでたって訳。あの小屋はオレにとって、ちょっとした隠れ家みたいで、気に入ってたんだ。で、何日か通って読んでたら、こっちに来ちゃってたんだ」
深海が依然腕を組みながらランドに質問を重ねる。
「その災いは何が原因で起こるか書いてあったか?」
ランドも腕を組んで、うーんと唸る。
「確か……、闇の力の解放者が現れるのが原因だった気がする。……あ、そういえばリゼルが、エスディアが大変だって言ってたけど、何がどう大変なんだろ? 訊くの忘れた」
「エスディアって?」
奈瀬が首を傾げる。
「エスディアはオレの世界の中心国だよ」
ランドはそう言って自分の世界のことを簡単に説明した。それをふんふんと一通り聞いた奈瀬は、ん? と首を捻る。
「もしかしてランドくんって王子様だったの……?」
「そうだよ」
即答するランド。驚きを隠せない奈瀬。と同時に、彼女の顔が徐々に弛緩していく。
(わたし異世界の王子様とお友達なんだ……!)
上機嫌の奈瀬を横目に、深海は時計を見てから黒いゴルフのクラブケースをランドに手渡した。
「そろそろ学校へ行こう。本のことは、図書館でも調べてみる。ランド、このケースに杖を入れて」
ランドは若干渋ってから、大人しく深海に言われるまま杖を仕舞った。
「これは俺が持っておく。ランドが持っていると色々聞かれる可能性があるからな」
そう言って、深海を先頭に三人は学校へ向かった。時刻は既に八時を回っていた。




