第17話
『もしもし! 月橋なのか!?』
「繋がった!」
陽斗は嬉々としてリゼルとリリィと顔を見合わせる。
「もしもし! 深海? おれ月橋陽斗! 今おれ、その世界じゃない、魔法を使える世界にいるんだ! 戻り方はまだ分からないけど、どうにか方法を探すつもりだから! あ、そっちにランドっておれとそっくりな奴いない?」
話すべきことが沢山ありすぎて、何から話していいのか分からない。
『ちょっと聞き取りづらいな……。ランドならここにいるぞ。代わるか?』
陽斗はリリィに電話を代わった。
「ランド、無事なのね!?」
『リリィ!? オレは無事だよ! こっちの世界には見たことないものが沢山あって楽しいよ! ……だけど、やっぱりリリィとリゼルがいる世界の方がもっと楽しい!! だから、絶対そっちに戻るよ』
リリィは微笑み、リゼルに代わった。
「ランド、久しぶりだな」
『リゼル!』
「今エスディアが大変なことになっている。だが心配するな。ランドはこっちの世界に戻ってこられる方法を探していればいい。そして早くこっちの世界に戻ってこい!」
『分かった! オレも早くそっちに戻るから、エスディアのこと頼んだぞ!』
「ああ。それと、今リリィからランドにテレパシーを送ってもらっているんだが、聞こえるか?」
『いや……、あ! 今来た! リリィの声が聞こえる!』
リゼルはリリィを見やり、頷いた。
「恐らくこのテレパシーもこの道具と一緒で、一定の場所でしか使えない。今、ランドがいた小屋にいるんだが、昨日ライレーン城でテレパシーを送った時は反応がなかった」
『そうなんだ……。でも連絡取れる手段はあったわけだし、きっとそっちの世界に戻れる手段も見つかるよ!』
リゼルはランドの声に頷き、電話を陽斗に戻した。
「もしもし」
陽斗は歩きながら電波が良さそうな場所を探した。
『もしもし、月橋くん!?』
声は奈瀬のものだった。
『昨日の夕方、月橋くんの携帯に電話したんだよ? そしたら電源入ってないか電波が届かない場所にいるってアナウンスが流れて! 何で昨日は通じなかったの?』
陽斗は小屋の梯子を上り、初めに自分が倒れていた二階にやってきた。声が先ほどよりクリアに聞こえるようになった。
「分からない。ずっと圏外だったんだ。でも、おれが初めにこの世界に来た時にいた小屋に入ったら電波が立ったんだ」
『その小屋がこっちの世界と近い場所にあるのかもしれないね……。あ、深海くんに戻すね』
『月橋か? こっちの世界のことは心配するな。ランドが何とか月橋の代わりを果たしてくれている。お母さんにも電話は入れて、俺の家に泊まったことにした。ま、これからはランドの頑張り次第だが。こっちは何とかするから、そっちでも戻り方を探してくれ。あと、携帯の電池だが、どれくらい持つ?』
「分からない。けど、電話かける前はまだ全部緑になってたよ」
『分かった。恐らく、月橋の電波はその小屋にいる時しか電波が立たなさそうだから、その小屋にいる時以外は電源を切っておいた方がいい。どうせこっちから電話しても圏外じゃ意味ないしな。そっちからかけてくる時は時間を気にしなくていい。いつでも二十四時間かけてきてくれ。まあ、テレパシーという便利な魔法もあるようだし、電池がなくなっても問題ないけどな』
「分かった。ありがとう。じゃあ、そっちは頼む」
『ああ。頑張れよ』
陽斗は電話を切った。電波は三本立っていて、電池もまだある。
梯子を下りようとして、開かれた本を一冊見つけた。以前もここにあったものだ。ランドが向こうの世界に行く直前に読んでいたものかもしれない。
陽斗はその紺色の古びたハードカバー本を腰にぶら下がるウエストバックに仕舞った。
梯子を下りて一階に戻ると、電波が二本になり、小屋から出ると一本になった。
「あれ、外でも一本立ってる。何でだ?」
陽斗は携帯の画面を見ながら、小屋から少し離れてみた。すると、突然圏外になった。小屋から大体三メートル離れている。陽斗は小屋を見つめ、周りを円形に歩いてみた。
(小屋を中心に半径三メートル以内は電波が一本立つんだな……)
陽斗が携帯の電源を切って仕舞うと、リゼルの召喚魔獣ティルに乗ったリゼルとリリィが近くにやってきた。
「ハルト、そろそろ行くぞ」
陽斗は頷いて、フェリアに跨った。それを確認すると、ティルはエスディアに向かって走り出した。フェリアもそれに続く。
「それにしても残念だったわね。せっかくあの小屋でこけてみたら、向こうの世界に戻れると思ったのにね」
ティルとフェリアが並走しているお陰で、リリィが笑っているのがよく分かる。
(リリィ絶対楽しんでる……)
陽斗は苦笑した。
「リゼル、そういえばここからエスディアまではどれくらいかかるの?」
陽斗は声を張り上げる。見渡す限り森。そんな中を直走る。
リゼルは陽斗に一瞥くれて、前を向いた。
「ライレーンはエスディアの北に位置する国だ。だから今南へ向かっている。そこからリリィの水龍に乗ってエスディアの大陸に渡り、城を目指す。大体数日で着く」
リリィが首からぶら下がる小さな銀の懐中時計を視界に収める。
「あのさ、龍って空飛べるよね?」
陽斗が問うと、リリィがくすっと笑った。
「当たり前じゃない」
「だったら、龍に乗って空から行った方が早いんじゃない?」
陽斗のこの質問に答えたのはリゼルだった。
「それだと目立ちすぎる。今世界ではエスディアの暴走を止めるため、どういう行動をとったらいいのか話し合っている最中で、誰もまだ動いていないというのが表向きだ。だからこそ目立った行動は控え、相手が油断している隙を突く。いわば奇襲だ」
陽斗は唾を呑み込んだ。




