第16話
翌朝七時、三人は美竹公園に集合した。空は白っぽい青をしていた。
奈瀬は男子制服の入った大きな袋をその手にぶら下げている。
「昨日はどうだったの?」
奈瀬が少し楽しそうに深海とランドの顔を交互に見つめる。
「昨日は……」
そう言いかけた深海の顔は酷く疲れて見えた。
「フカミが色んなことを沢山教えてくれたんだ! フカミのお父様もとってもいい人だったよ!」
ランドの輝く目を見て、奈瀬は昨日のあれからを大方悟った。
「え、でも、お父さんに何て説明したの?」
奈瀬はランドから深海に目を移す。
「あくまで月橋ということで通した。ランドにはあまり話さないように言っておき、父さんから聞かれそうなことは予め回答集にして、練習しておいた」
「……深海くん、お疲れ」
充血し、虚ろに映る深海の目が少し怖い。
「労いの言葉をありがとう……。さ、じゃあランド行くぞ!」
深海は一度両手で頬を叩いてから、ランドの肩を掴み前に連れてきた。
陽斗が突然消えたあの場所。その前にランドが立っている。魔法使いの格好で。
ランドは深海と奈瀬を一瞥する。
「短い間だったけど、凄く楽しかった。二人ともありがとう! 一生忘れないよ! ツキハシって子に宜しくな!」
ランドは前を向き、ゴクンと唾を飲み下す。
奈瀬は二人から完全に置いていかれていた。何をしようとしているのか全く分からない。
深海がランドの背中を勢いよく押した。ランドの体はその勢いを保ったまま、目の前の低木の茂みに突っ込まれる。
(なんて古典的な!)
奈瀬は口をぽかんと開けていた。
「いってぇー!」
声が藪の中から聞こえる。陽斗なのか、ランドなのか、声だけでは判断がつかない。深海と奈瀬はランドが突っ込んだ辺りを凝視する。
低木がカサカサと音を立てて揺れる。そこから手だけが伸ばされた。反射的に奈瀬はその手を掴み、力強く引っ張る。
その中から出てきたのは――やはりランドだった。
二人は彼を見て、大きく溜息をつく。
「マジで痛いよ! 枝と葉ってこんなによく切れるものだったんだな」
ランドは草木から抜け、顔を擦ってから汚れたマントをパンパンと払った。
「やはり駄目だったか……」
深海は悔しそうに頭を抱える。
「……あのさ、まさかこのやり方深海くんが考えたわけじゃないよね?」
奈瀬は深海に疑わしそうな目を向ける。
「この案はランドと俺で考えた」
今度は奈瀬が頭を抱える素振りを見せる。その様子に深海は少しむっとしたように眉間に皺を寄せた。
「こんな非現実的なことの対応策なんて分かるわけないだろ。……ドラマや映画で主人公が元の世界へ戻る方法は大抵一緒だ。ということは、もしかしたら誰かのそういう経験を話にしている可能性もあると思ったんだ。現に世界の入れ違いが起こっているわけだし」
(まあ、確かに……)
ごちゃごちゃと独り言を言っているランドを尻目に二人が話していると、突如深海が反応を示した。
「どうしたの?」
深海はズボンのポケットからバイブの鳴るスマホを取り出し、目を見張った。奈瀬が横から覗き見る。彼女も同様に息を呑み、目を丸くした。
「『月橋陽斗』……?」




