第13話
窓の外は薄っすらと赤く染まり始めていた。
リゼルは携帯を陽斗に戻して、ソファに座り直すと、再び口を開いた。
「さっき話したとおり、ランドが戻ってくるまでハルトにはランドのふりをしてもらわないと困る。だが、ハルトは魔法が使えない。この世界で魔法を使えないのは致命的だ。いくらランドのふりをしたところで、すぐにバレてしまう」
リゼルがそう言うと、リリィは彼の肩をトントンと叩いた。
「ハルトが本当に魔法を使えないか分からないじゃない。試してみる価値はあると思うわ」
彼女はソファに立てかけておいた自分のロッドを陽斗に差し出す。
そのロッドは全体的に淡い水色で艶があり、滑らかなものだった。二つの薄い紐が中心の空間を緩く包んだようなデザイン。上の方は水泡も入った、まさに水を石にしたような透明で大きな水晶が中心に据えられ、それを水あるいはガラスのように透き通ったものが、やはり二つの螺旋を描くように覆っていた。ロッドの棒の部分と上部分の繋ぎ目には、二つの少し大きめな羽のような装飾が取り付けてある。
「そのロッドを持って、床に突いてみて」
リリィに差し出され、言われるままに陽斗はそれを受け取った。ひんやりと冷たい。ロッドを持った瞬間、それは白っぽい光を放ち、陽斗を中心に直径一メートルほどの青白く輝く魔法陣が床に現れた。
「え、ちょっとこれどうするの!?」
陽斗が慌てている様子を、リゼルもリリィも口をぽかんと開けてただ眺めていた。
「ちょっと! 聞いてんの!?」
陽斗の叫び声に二人は我に返り、リリィは陽斗からロッドを受け取った。光は消え、魔法陣もロッドに吸い込まれるようにして消えていく。
陽斗は何だか少し疲れたような気がした。ただロッドを持っただけなのに。
「リゼルこれって……」
「ああ。Sランクだ。しかもランドと同じ魔法量を感じた」
二人は顔を見合わせ何かを話している様子だったが、自分のことをこそこそと話しているのは気分がよくない。
「あのさ、おれにも分かるように話してよ」
陽斗の不満そうな顔を見て、リゼルが口を開いた。
「ランドは魔法の力に長けた人物なんだ。魔法は使いたい放題というわけではなく、その日の体調やその人のポテンシャルによって使える量はまちまち。その使える量、いわば魔法の力がランドは強いんだ。稀に見る、真の大魔法使い、とでも言うべきか。彼はSランクの中でも最も高位なSSランクの持ち主だ」
「SSランク?」
陽斗は首を捻る。
「ああ。この世界には魔法量や技術によってS、A、B、C、D、Eの六段階にランク付けされている。その中でもSランクは世界に数人しかいない、最高ランクだ」
(確かリゼルとリリィもSランクって言ってたような……)
「更にそれぞれのランクの中でもSからEに分かれていて、正確にはアルファベット二つでその人の魔法ランクを表すのよ。因みにわたしとリゼルはSAランクよ」
リリィが微笑む。
(リリィとリゼルがSAランクで、ランドがSSランク……!? 皆どんな化物なんだよ!)
「だから、ランドはどんなロッドも適合し、使いこなせた。この国に伝わる魔法剣セルフォードだって、初代ライレーン王しか使いこなせなかった代物だそうよ。それをランドは使うことができたらしいわ。ロッドたちも魔法使いを選ぶと言われている。力あるものにロッドも惹かれるそうよ。普通の魔法使いは、ロッドを床に突くと魔法陣が現れ、魔法を使う時にロッドが光を放つの。だけど、Sランク以上の魔法使いの場合は、ロッドを持つだけで眩い光を放ち、魔法陣が現れる。まあ、魔法量はコントロールできるから、素人でなければ、ロッドを持っても力を解放しようと思わなければ何も起こらないわ。ロッドを持っただけで光を放つのは、ロッドに対するその人の魔法量が強大だからよ。……しかもハルトからはランドと同じ強大な魔法量を感じた。だから、私たちは驚いていたの」
陽斗は唾を呑み込んだ。
(何で? おれが魔法を使える? それにただの魔法使いじゃなくて、大魔法使い……!?)
「とりあえず、ハルトも魔法が使えるって分かったし、ランドが戻るまでは何とかなりそうね」
リリィは満足げに深くソファに腰掛けた。リゼルも横で頷いている。
「そういえば、さっきの質問の答えだけど」
リリィが思い出したように手を叩く。
「私たちはね、驚くことに三人とも同じ誕生日なのよ。十一月三十日。だから年齢も皆同じ十六歳。凄いでしょ? ハルトは誕生日いつなの?」
「…………」
陽斗の様子が少しおかしいことに気づき、リゼルが顔を覗く。
「大丈夫か?」
陽斗は瞳孔を見開き、静かに声を震わす。
「……おれの誕生日も十一月三十日。年は十六……」
信じられない事実に、誰も言葉を発することができなかった。静寂が場を支配する。
陽斗は世界以外、何もかもランドと同じだった――。




