第10話
暫く走ると、深い緑が覆う森を抜け、視界が開けた。前方に川が見える。少し高台にある街をその川が囲むように流れている。川を渡るための大きく立派な橋が架かっていた。
橋は黒く太い柱が二つ立つ、木製の跳ね橋になっている。橋番が二人おり、陽斗たちを見ると敬礼してから、橋を通してくれた。
橋を渡りきると、お洒落なモノクロの街が姿を現した。落ち着いた街並みとは反対に、街は賑やかで子供が走り回ったり、本を片手に杖を振っていたり、花屋やパン屋があったり、といった感じだった。
大人たちは街に入ってきた陽斗たちに気づくと、皆深々と頭を下げた。陽斗をここまで連れてきた男たちは当たり前のようにその中を通っていたが、陽斗は何だか申し訳ない気持ちになった。一方、子供たちは手を振って「ランド様!」と叫んでいる。どうやら、ランドという奴は、この街の人気者のようだ。
テルットで街をゆっくりと抜けると、更に少し高台に城があった。やはりそこにも川があり、先ほどより小さな跳ね橋が架かっている。ここにも、エンブレムの入った黒いローブを身に纏った橋番が二人いた。やはり彼らも敬礼し、陽斗たちを城に通す。
城は大きく、美しかった。中央の主塔を囲む四隅の大きな塔、二つの翼棟、それら全てを囲む城郭。一見中世の要塞のような外観をしていた。ロッジア、テラス、垂直のつけ柱、正面の壁には水平の繰形が施されている。精巧に飾られた黒い屋根が白い城本体と対照的で、かっこいい印象を与えた。
跳ね橋を渡り終えると、城の門の両側に太く大きな杖を携えた門番が控えていた。
二人は敬礼してから、お互いの杖を交差させるように背の高い扉の前に突き出す。そして声を揃えて変な言葉を放つと、彼らの杖が赤い光を帯び、やがてそれは扉を包んだ。すると、ずしりと重そうな音を立てて、扉がゆっくりと開かれる。
「さ、どうぞお通り下さいませ」
門番の声に導かれるように、陽斗はフェリアに乗ったまま扉をくぐった。そして、陽斗は初めて見る美しさに息を呑んだ。左右には大きく広い螺旋階段。正面は日光がよく届く草原。花々が手入れされ、中央には美しい溜池があった。
「フェリアは中央庭園へ」
男に言われ、陽斗はフェリアから降り、中央庭園と呼ばれるそこへ連れて行った。天井から射す光がフェリアの白い毛に反射してきらきらと輝く。フェリアは中央に備え付けてある溜池の水を優雅に飲み始めた。
「ささ、早く王様のもとへ行かれませ」
促されるまま、螺旋階段を上り、二階にやって来た。中央に広い両開きの扉がある。門番は陽斗に気づくと、すぐに開けて彼を通した。
奥行き、横幅、共に広い部屋だった。何かのストーリーが描かれた高い天井、それと同じくらいの高さを持つ大きな窓が六つ。その横に黄金色の洒落たカーテンがゆったりとまとめられていた。奥の方が一段高くなっており、その中央の黒い高級そうな椅子に座る男性。恐らくこの城の王。扉からその王へ向かうようにして敷かれた長い絨毯。淵が黒で刺繍を施してある、黄金色のものだった。
王の横に陽斗と同じくらいの年の男の子と女の子が立っている。二人ともやはり黒いローブを身に纏っていた。だが、ローブを縁取るラインの色、胸のエンブレムが違う。男の子の方は、赤いラインで、エンブレムは炎の中に赤いドラゴンの姿が描かれていた。女の子の方は水色のラインが入っており、波紋の中に浮かぶ淡い水色のドラゴンが描かれている。
「ランド、どこをほっつき歩いていたんだ?」
陽斗はとりあえず、王に近づく。それから、自分はランドではない旨を伝えようとし、静止した。
(いや……、ここでおれがランドではないと言ったらどうなる? ここから追い出されるか、もしかしたら殺されるかもしれない。奴らはまるで魔法のような変な力を使う。何をされるか分からない……。それに、どうやって美竹公園に戻る? 追い出されても行き場がない。今は情報収集が一番か。となると、今はランドのふりをしていた方が得策か? 後々バレたら、その時はその時か……)
「ランド、聞こえているのか?」
陽斗は我に返った。そして、口を開く。
「はい。この奥の森にある小屋におりました」
陽斗はランドのふりをする選択肢を選んだ。
陽斗の心臓は今にも破裂しそうだった。ランドという奴がどんな奴なのか知らない以上、沢山喋るのは禁物。今言った言葉だけで、悟られてはいないだろうか。
王は眉を顰めた。
「ランド、どうした? 具合でも悪いのか? いつもより元気がないし、言葉が丁寧だ。……まあ、王子としてはその方が適切なのだが」
陽斗は口内に湧いて出る唾液を呑み込む。
「まあ、具合が悪いのなら休むがいい。それにしても、何だその格好は。そんな服どこで手に入れた? 見たことないが。自分の服はどうした? ロッドは?」
(そんな質問攻めにするなよ!)
「服は街で手に入れました。こっちの方が動きやすそうだったので。着ていた服は森の中で動物に取られてしまいました。ロッドは……、昼寝をしていた間に無くなっていました……」
王は呆れと怒りが混ざったような表情を見せている。陽斗は彼を直視することができなかった。
「服はともかく、ロッドを盗まれたとすれば大変なことだぞ!? あれは代々ライレーンの王子に受け継がれる代物なのだぞ!? ……まあ、あれはお前以外に使いこなせる者はいないがな」
王はそう言いながら、重い腰を上げた。そして、その場にいた何人かの従者たちに言い放つ。
「とはいえ、我が国ライレーンの王子のロッドを盗むなど不届千万! そのロッドを保持している者を見つけ次第確保しろ!」
「はっ!」
命令された従者たちは敬礼をしてから、すぐに部屋を出て行った。王は深く溜息をついてから椅子に着く。
「ランド」
名前を呼ばれて陽斗は体を強張らせた。既にランドという名前に体が反応するようになっていた。
「今日急いでお前を探したのには理由がある」
急に場が重々しい雰囲気に包まれる。




