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Another World  作者:
プロローグ
1/51

第1話

 ――魔法で成り立つ世界。この世界の中心に浮かぶ大陸は、一つの大きな国を成していた。その国の名はエスディア。エスディアを囲むようにして三つの大陸が存在し、それらもまた、各々の国家を築いていた。


 エスディアの北に位置するは、ライレーン。南東は、ジュラルデン。南西は、リヴァレル。これら三国は、古にエスディアを守る役割を神より賜った。その証として、神は三国に三龍を与えた。ライレーンには霆龍ていりゅう、ジュラルデンには煌龍こうりゅう、リヴァレルには水龍。


 三国は神の教えを忠実に守り、神がエスディアを離れた後も神から賜りし神聖な誓約を破ることはなかった。神の後継として選ばれたのが、当時神が最も信頼を寄せていた青年。以後、その青年の子孫が代々エスディアの王を継ぎ、エスディアを含むこの世界に平和をもたらしている――


「それが今は何なのかしら?」


 リリィが深い溜息をついた。


「まさかその世界がこんなになるなんてな」


 リゼルも表情を曇らせる。


「エスディアの中心地には耐魔法用の城砦ができて、エスディアの人たちも自由が利かなくなっているって話だわ」


 二人はリゼルの召喚魔獣ティルに跨り、ライレーンへと向かうため、リヴァレルの地を移動していた。


 ティルは濃い橙の色をした、ふわふわと手触りのよい毛を持つ。四肢は疾風の如く駆け抜け、長い尻尾は敵を素早く察知する。鋭い牙で敵を噛み砕き、喉からは炎を吐き出す。リゼルの大切なパートナーだ。


「エスディアは元々、魔法マーケットで城下町が賑わう、明るく華やかな街だった。それがそんな風に変わったのはいつだったか?」


 リゼルは後ろで掴まっているリリィにも聞こえるよう、声を張り上げた。


「約一ヶ月前だったと思うわ」


 エスディアで流行病が発生し、エスディアの王が亡くなってしまった。まだ若かった王には幼い王子一人しかいない。今後エスディアをどうするか、と話し合われていた最中、王子が連れてきた謎の青年。現在、その青年が実質実権を握っているらしい、という噂が各国に駆け巡った。


「でも、何でその人に逆らえないのかしら? おかしなことをしているのだから、王様に付いていた大臣とか力のある方々がどうにかできそうなものだけれど……」

「それなんだが、どうやらその青年が保有しているロッドがダークウォーツらしい」


 リゼルの言葉にリリィが悲鳴を上げた。


「ダークウォーツですって!? それって最強の杖と謳われる、その杖が認めた者しか触れることさえ許されないっていう、伝説の……?」

「ああ」


 リゼルが低い声で頷く。


「昔、おばあ様が仰っていたわ。神がこの光のように美しい世界を創った。けれど、光があれば必ず闇もある。神がこの世界を創造したその裏側で、闇をどこかに閉じ込めなくてはならなかった。そこで神が闇を集約させたもの、それがダークウォーツと呼ばれし杖だったと」


 それを聞いて、リゼルは少し笑った。


「相変わらずリリィのおばあ様は昔話が得意なのか?」

「そうね。今でも時々するわ。もうそんな年でもないのにね」


 二人は今年十七になる。


「あ、そうそう。おばあ様ね、占いを始めたのよ。もう五年くらい経つかしら。結構当たるのよ?」

「じゃあ、今度俺も占ってもらうか」


 二人の笑い声を聞いて、ティルは高い声を上げた。


「……とまあ、おばあ様の話はさておき、どうしてその青年が保有しているロッドが本物だと分かるの? 偽物の可能性の方が高いじゃない」


 リリィがリゼルを握る手に力を入れる。


「そこは俺も見たわけじゃないし、詳しくは分からないが、そのロッドの放つ禍々しい魔力といい、ロッドに組み込まれている水晶の闇をも覆うような漆黒といい、本物に違いないと皆が皆思っているらしい」

「…………」


 ティルが足を止めた。森を抜け、目の前には大きな河、そしてその先には滝が見える。この河を渡った先、海を越えるとライレーンがある。


 二人はティルから降りた。河は流れが速く、轟々と音を立てている。


 リリィは肩からかけていた小さなポーチから水色の艶のある横笛を取り出し、そっと口を着ける。


 彼女がそれを吹くと、周りの木々や水、空気までも一瞬大きく振動した。音はほとんどなく、微かに何かが鼓膜を振動させるような感覚がする。


 少しすると、河の中に何やら大きな影ができ、それはやがて二人の前で姿を現した。


「これが水龍か……」


 リゼルが水龍を見上げる。淡い水色で艶のある鱗を持ち、背中に翼を生やし、手足は大きく水掻きのようなものがついていた。


「水龍はリヴァレルの神龍。私も見るのはこれが初めてよ」


 リリィが水龍に手を伸ばし、優しく撫でた。


「さ、リゼル行くわよ。一度ティルを戻して」


 リゼルは頷き、ティルの顔を撫でてから自分のロッドを力強く十字に切った。ティルの姿は消え、きらきらとした光が天に昇った。


 二人は水龍の背に乗った。水龍はリリィと通じ合うように、彼女の思いと同時に河に身を沈める。


 向こう岸に着くと水龍は緩やかに地上に顔を出し、二人を降ろした。彼らの服、髪、道具も全て濡れていなかった。


 水龍は役目を終えると、再び水の中に溶けるように消えていった。


 リリィはライレーンの地を見つめた。湿原を越えた先に森が見える。


「ランド、元気かしらね?」

「あいつは元気だろう。それしか取り柄がないからな」

「ひどい言い様ね」


 彼女はくすっと笑ってからリゼルが再び召喚したティルの背中に乗り、先を急いだ。

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