春眠うんたらかんたら
とある春の日和、暗い森の城にて
「それではクレアさん、全体的に拭き掃除をお願いしますね」
「はいはーい、がんばりますねー」
つい最近入ったモップのクレアは、現在拭き掃除係として活躍している。所々抜けてるところはあるものの
仕事はしっかりやるえらい子である。
彼女が来てからというもの、メイドが拭き掃除をすることはまずなくなった。毎日の掃除が楽になったと嬉しいところもあるが、逆に少しさみしいような気がした。
「あ、そんなことよりですねー。城主さんがまだ寝てるので起こしてあげたらどーです?」
クレアはくるりと振り返り、にこやかに言ってみせた。
「あら、それはそれは」
「それではよろしくお願いしますでーす」
それだけ言うと拭き掃除に向かってしまった。
メイドは呆れたように頭を掻くと、仕方がないと体制を立て直し城主の部屋へ向かった。
ドアをノックする音が城の廊下に響く。メイドは無駄に大きな城主の部屋のドアをたたいていた。
「城主様、城主様、朝ごはんの用意ができております。城主様!」
いつもなら城主の寝ぼけた声が聞こえてくるのだが、この日はどうにも聞こえてこなかった。
メイドはため息混じりにもう一度だけ部屋に声をかけたが辛抱ならなくなり部屋のドアを開けた。
部屋の中に入ると城主はまだ寝巻き姿でベッドに横になっていた。余談だがベッドも無駄に大きい。
城主の方を揺らしてみると小さく声を漏らして寝返りを売ってしまった。
カーテンを開けて日を入れても起きる様子はない。
「城主様、ああ、もう」
呆れたように腰に手を当てるとおもむろにマシンガンを取り出し、城主の後頭部にあてた。
「んぐ、冷た、なにこれ」
後頭部に当てられた違和感に振り返った城主が銃口に気がついたとともにけたたましい発泡音と共にマシンガンが発泡される。悲鳴はその音にかき消され、あたりには血の匂いが
充満する前に城主の頭は復活した。
「おはようございます城主様」
「おはようメイドさん。もうちっと優しい起こし方はなかったかね」
窓から入ってくる暖かな薄暗い日の明かりの中で顔を合わせる二人
「最近起きるのが遅すぎるのではありませんか?」
まだ眠そうにあくびをしている城主に聞いてみる。
「ほら、よく言うじゃない?春眠暁をなんたらって」
ベッドから下りて伸びをする城主。
「東洋の方のことわざでございますか。それにしてもあまり遅く起きられると朝食が覚めます」
城主を先導するように歩き出すメイド。慌ててそのあとを追う城主。
「まあそれはわかるんだけどねー、どうしてもさ」
「目覚まし時計でもかけたらいかがでしょう」
「ダメ。こないだ木っ端微塵にした」
「朝っぱらからゴミを増やしてくれやがりましたですよね」
「何その口調」
緩やかに歩きながら普通に話をする二人。歩みを進めていくうちに食事のいい匂いが漂ってくるので、先程まで
少しむっとした表情だった城主も機嫌が良くなってくる。
「メイドさんが毎朝優しく起こしてくれたら嬉しいかな」
「何を寝ぼけたことを」
「目はもう冷めてるよ」
拭き掃除中のクレアはそんな二人のことを見送りポツリとつぶやいた
「仲が良いことでー」