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1話 始まりの風

初めての投稿です。

少しでも興味を持っていただけたら幸いです。

 「ここは何処なんだ……」

 冷たくどこか気持ちの悪い風が頬を撫でる。

 創理の視界が開けたそこには、知らない気味の悪い景色が広がっていた。



 


 今日は高校の体育祭、最高気温は31℃を記録している。

 高校2年生の神谷創理(かみやそうり)は6月初旬とは思えない暑さに少し苛立ちを覚える。そんな頭と身体を冷やすため、体育館裏の水道に来ていた。


 「きもちー」


 蛇口を捻り、頭から水を被る。冷たい水は熱った身体を十分に冷やしてくれる。

 ただ、苛立ちは収まらない。6月6日は創理の誕生日でもあった。

 なんで俺は誕生日にこんな暑い中運動しなきゃいけないんだよ。

 そんなことが頭によぎる。

 普段は体を動かすことが好きな創理だが、今日だけはどうしても憂鬱に感じてしまう。

 その時だった、風が吹き、頭から被っていたはずの水の流れが止まった。

 なんだ?誰か来たのか?

 顔に滴る水を体操着の裾で拭き取り、瞼を開く。


 「ここは何処なんだ……」

 独り言に返事は無く、聞こえてくるのは風に揺れる葉の音だけ。

 気づくと先ほどまでの遠くから聞こえる体育祭特有の喧騒や、肌を焼くほどの真夏の暑さを全く感じない。

 目の前には黒くゴツゴツとした木が立ち並び、見上げても空はほとんど見えず枝葉の隙間から小さな光の筋が顔を照らす。

 見たことのない森だった。


 いや、それどころか――日本じゃない気がする。

 どういうことだろうか?先ほどまで猛暑に耐えながら体育祭に励んでいた。しかし、今はそれとは全く無縁の静かな森で風を浴びている。

 取り敢えず誰かに連絡しよう。

 スマホを取り出そうと、ズボンのポケットに手を伸ばす。

 最悪だ……無い。

 体育祭中はスマホの使用は制限され、通学用の鞄にしまうことになっていた。

 なんでこういう時に限って持ち歩いてないんだよ!

 現代の若者にとって、コミュニケーションを取ったり、話の話題となる流行を掴んだり、何かと必要なシーンの多いスマホ。それが手元に無いのはあまりにも心細い。

 明らかにおかしいこの状況について考えているその時だった、


 ムニュ


 背後から妙な音がした。

 恐る恐る体を後ろに捻る。目に入ったのは異世界のお決まり、スライムさん。

 「は??」

 こんな綺麗な疑問の声はこの先出ることがあるのだろうか。

 「待て待て待てマジか、ヤバいだろ」

 夢ではなかろうか?非現実的な動くその半透明のゼリーのような塊。

 それは確かにこちらへ跳ねながら近づいている。

 スライム、それはアニメやゲームに登場する雑魚魔物それが創理の認識だった。

 創理の目の前に現れたスライムは見た目こそ知っているスライムそのものだが、群れていた。

 なんでスライムがこんなにいるんだ?ざっと見ただけでも10匹はいる。

 スライムって群れで行動する魔物なのか?そんなことよりここを離れよう。

 スライムたちから離れるべく、そっと後退した。


 バチッ


 頭に重さが伝わる。木の上からスライムが落ちてきたのだ。

 創理は倒れた。

 スライムがそれほど重いわけでは無いが、突然の出来事に驚きパニックになっていた。

 そしてスライムは張り付いて離れてくれない。口の中にスライムの体が流れ込んでくる。剥がそうとしても手応えが無く、うまく掴めない。

 そうしているうちに息が続かなくなり、視界が暗くなり始めた。スライムたちも群がり身体に纏わりついてきた。

 (ヤバい……死ぬ……)

 そんな強い恐怖を感じた時、身体に妙な感覚を覚えた。


 ビュオッ


 創理の身体を中心にして風が生まれ、纏わりついていたスライムたちを薙ぎ払ったのだ。

 なんだ……今の……

 創理は戸惑いつつもなんとかスライムたちから逃げ切ることに成功した。

 




 スライムって雑魚魔物(モンスター)じゃ無いのかよ!

 当たり前である。ゲームやアニメでは、チュートリアルの役割を押し付けられたかのようにあっさりと倒され、危害を加える前に駆逐される。それに単体で現れるのがお約束だった筈だ。

 あまりにも型破りだな。

 そんなことはどうでもいい。これは、異世界転移というものだろうか?

 ただ異世界転移だとしてもやっぱりスライム強すぎない?スライムに窒息させられて死ぬところだった。

 なんか襲い方が生々しくて嫌だな……

 それに、息苦しくてはっきり覚えていないが、自分の身体から風が発生した気がした。

 あれもどういうことなんだ?

 もしかして俺ってば魔法の才能あり?異世界で覚醒しちゃうパターン?

 異世界に転移して感じてた不安も少しは和らいでいた。


 しかし、そこまで甘くないのがこの異世界。少し離れたところに薄い灰色の大きな狼のような魔物が4匹見えた。

 うん。逃げよう。どう頑張っても勝てない。今度こそ殺される。

 そんなことはごめんなので、バレないように静かにそこを後にした。

 取り敢えずこれからの方針を決めよう。

 やっぱりこの世界の人に会うべきだよな……

 そもそもこの世界に人は存在するのだろうか?まずはこの森を抜け出さなければならない。

 創理はこの森を抜けてどこか安全な所を探すことに決めた。既に身体から風が発生したことを忘れていた。





 休憩を挟みながら3時間ほど歩いた時、足元に変化があった。

 「足跡だ……!」

 今までただの土や雑草が生えているだけの足元に足跡があり、踏み固められた土は細い道のようになっていた。

 「この先に人がいるんだ!」

 希望に満ち溢れた声が出た。

 兎にも角にも急いで足跡を辿ろう。そうしてさらに30分歩いた所に川が流れており、木製の橋がかかっていた。

 確信した。この周辺に人が住んでいる!

 また少し歩いた時風車が見えた。

 「やった! 町だ!」

 歓喜の声が再び溢れ出る。

 そこからは一心不乱に町へ向かって走っていった。


 しかし、町に着いた途端創理は倒れた。

 当然だろう。創理は30℃近い真夏の暑さの中体育祭に励み、スライムの群れに襲われ、休憩はしたものの、約4時間歩いて来たのだ。

 そこからは記憶がなかった。





 創理が目を覚ましたのはそれから2日たった朝だった。

 「ここは…」

 瞼を開くと知らない天井があった。ふかふかのベッドはとても気持ち良い。

 「腹減ったな」

 2日間何も口にしなかったため、お腹と背中がくっつきそうだった。いやくっついていた。

 ただ疲れが取りきれていないのか、どうにも体を動かせない。

 目を覚ましてからどれくらい経ったのだろうか?天井を見つめることにも飽き始めた時、


 ガチャッ


 部屋の扉が開いた。

 「あっ、目が覚めたならもう少し騒ぎなさいよね!」

 可愛らしく、優しさを帯びた少女の声が聞こえる。

 「お母さーん、この人目が覚めたみたいだよー」

 きっとこの人が助けてくれたのだろう。

 「すみません。貴女が俺を助けてくれたんですか?」

 「そうだよ。うちの近くの風車の目の前に倒れてたから」

 「ありがとうございます」

 「全然いいのよ、気にしないで」

 「ところで貴方この辺では見ない顔ね、少し変わった服を着ているようだし」

 確かに俺は体操着のまま森を歩いていたんだ。この世界じゃ流通してないんだな。

 「まあいいわ。お腹は空いてる?」

 「はい、ぺこぺこです。けど、身体が全く動かなくて……」

 「そうだったのね……ちょっと待ってて」

 彼女は部屋から出て行ってしまった。めちゃくちゃ綺麗な人だなあ。

 待っててと言っていたけどどういうことだろうか?


 「お待たせ、じゃあ始めるね」

 彼女の手がそっと俺の胸に触れる。

 「風よ、傷を癒せ。――ブリーズヒール」

 彼女が何か言った瞬間、身体を優しく風が包み込み、周囲には水の玉のようなものが浮く。

 「これは……」

 「ヒールよ、アルヴェリア家流のね」

 彼女は得意げに答え、優しく微笑んだ。

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