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8)水を求めて井戸掘り

投稿日時

なう(2025/07/05 16:58:36)

改稿日時

 「……出ないな……」


 陽翔は、小さく呻くように言った。

 手にした木の枝をスコップ代わりに使い、地面を掘り続けてどれほどの時間が経っただろう。

 住居の横に新たに設けた縦穴は、彼の背丈の倍以上にもなっていた。


 「やっぱ、簡単には……って——」


 ぐちゃっ、と音がした。

 次の瞬間、掘っていた土の色が変わった。湿っている。泥だ。

 さらに何度か掘ると、じわじわと水がにじみ出してきた。


 「……出た。マジで出た」


 歓喜とも安堵ともつかない声が漏れる。

 水が——それが泥まじりの濁ったものとはいえ——確かに地面の下から滲み出している。


 しかし。


 「これ、飲んだら死ぬな……」


 明らかに衛生的とは言い難い。

 虫が舞い、匂いも土臭い。

 だが、裏を返せば“ここには水がある”という確証でもあった。


 「煮沸しないとダメか……って、容器が無いんだよな」


 魔力で木を破壊できても、水を貯める器までは作れない。

 そう考えたとき、ふと思い出したのは、小学生の頃に体験した陶芸教室だった。


 (……土器、作るしかないか)


 まるで原始人だなと自嘲しながらも、陽翔はすぐに行動に移った。

 井戸から少し離れた場所の粘土質の土を見つけ、少量ずつ手のひらに取る。

 こねる。水を混ぜる。形を整える。


 しかし。


 「む、難しい……!」


 思った以上に難航した。

 土はすぐに崩れ、形が安定しない。

 最初に作った器は、乾かす途中でひび割れてしまった。

 だが、それでも手を止めなかった。


 (火が無いから焼けないけど……とりあえず、形だけでも……)


 何度も手を泥だらけにしながら、陽翔は少しずつ学習していく。

 底を厚めにし、縁を広げすぎないようにすることで、土器はようやく“器”の形を保ち始めた。


 数時間後。


 「……よし。これなら、なんとか……!」


 試行錯誤の末、手のひらサイズの小さな器がいくつか完成した。

 まだ焼いていないそれらは、乾くのを待つしかない。

 それでも、次の段階への大きな一歩だった。


 陽翔は、夕日を受けてほんのり赤みを帯びる土器の表面を見つめながら、小さく頷いた。


 「……あとは、火、だな」

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