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7)命を繋ぐ第一歩

投稿日時

なう(2025/07/05 16:53:44)

改稿日時

 朝。

 冷たい地面に体を縮こまらせていた陽翔は、重たいまぶたをゆっくりと開けた。


 (……寒い……けど、朝だ)


 横穴の中に差し込む柔らかな光が、夜の終わりを告げていた。

 背中の筋肉が固まって痛むが、それでも生きて目覚めたことに、ひとまず安堵する。


 「さて……今日こそ、水と食料、確保しないとな」


 独り言をつぶやきながら立ち上がる。

 寝起きの身体をほぐしつつ、陽翔は小さく頷いた。

 魔力の存在を自覚し、ある程度の自衛手段を得たことで、昨日よりも気持ちは幾分か前向きだった。


 (あまり油断はできないけど……今日は少し遠くまで行ってみよう)


 慎重さを忘れず、けれど大胆に——森の奥へと足を踏み出した。


 陽翔は、音に耳を澄ませながら静かに歩いた。

 足元の葉がかさりと音を立てるたび、神経が研ぎ澄まされる。

 小動物の気配はあるが、大型の獣や危険そうな生き物の気配は今のところ感じられなかった。


 やがて、彼の目にいくつかの自然の“恵み”が映り込む。


 (……木の実? こっちはキノコ……)


 食べられるかは分からない。しかし、背に腹は代えられない。

 慎重に、種類の異なる木の実を数個と、形状が異なるキノコをいくつか採取した。

 水場を探してさらに進むが、苔や湿った地面があった程度で、川や泉のような明確な水源には出会えなかった。


 (やっぱり水場は、そう簡単には見つからないか……)


 意気消沈しつつも、手にした成果を胸に拠点へと引き返す。

 日差しが高くなってきていた。


 横穴に戻ると、彼はさっそく“安全確認”に取りかかった。

 パッチテスト。

 子どもの頃に読んだサバイバル本に書かれていた内容を、必死に思い出しながら実行する。


 まずは木の実やキノコの一部を小さく切って腕の内側に押し当て、しばらく様子を見る。

 次に唇の外側に少量を触れさせ、時間を置く。

 少しでもかゆみや痛みが出たものは迷わず破棄した。


 (……よし。こいつらは反応なし)


 テストをクリアした二種類の木の実と、小ぶりな白いキノコ。

 慎重に、一口ずつ噛んでは様子を見る。

 幸いにも、味はそれほど悪くない。ただ、キノコはやや苦みがあった。


 「……食える。少なくとも、今は平気だ」


 それはほんのわずかな量だったが、陽翔の空腹をわずかに満たし、精神を安定させた。

 体の奥から、命がつながる実感が湧いてくる。


 (まずは一歩、だな)


 彼は静かに息を吐いて、掘りかけの住居の入口に腰を下ろした。

 空には雲がゆっくりと流れている。

 鳥のさえずりが、まるで褒美のように響いた。

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