5)使える!使えるぞ!!
投稿日時
なう(2025/07/05 16:45:08)
改稿日時
陽翔は森の中に腰を下ろし、先ほど探索していた時に見つけた比較的平らな石の上に座り込んだ。
陽射しは穏やかで、鳥の鳴き声だけが時間の流れを告げている。
ふと、思い浮かんだのは、あのゲームのことだった。
文字で命令し、思い描いた効果を“付与”するという、あのチートじみた魔法。
(……まさかな)
そう思いつつも、無意識に両の掌を見つめる。
この現実離れした森、見知らぬ世界、自分の突然の転移。
これだけ突飛な出来事が連続しているのなら、「魔法が使えてもおかしくない」と思える自分が、どこかおかしくて、少し可笑しかった。
「試すだけなら、タダだよな……」
陽翔は手を軽く前にかざし、ゆっくりと目を閉じた。
ゲームの時のように、心の中で効果をイメージする。
だが、今は魔法ではなく、その“前段階”——魔力というエネルギーそのものを、感じ取ろうとした。
何も起きない。最初の数分は無駄だった。
(やっぱ無理か……)
そう思った矢先——。
ビリ、と掌に違和感が走った。
そして、微かに光るような“感覚”が、皮膚の下から湧き出すように現れた。
それは熱とも違う、重さとも違う、不思議な圧力だった。
「……これ、魔力?」
疑いながらも、集中して意識を流すと、それはより鮮明に反応した。
手のひらから湧き出たそれは、周囲の空気に小さな振動を与え、草がわずかに揺れた。
成功だ。
少なくとも、“魔力”と呼んで良さそうなエネルギーを自分の意志で引き出せるようになったのだ。
問題は、この魔力をどう“使う”かだった。
陽翔は再びゲームのことを思い出す。
頭の中で「火」とか「水」とかをイメージし、それを道具に“付与”して使っていた。
だが今は、文字を入力するAIゲームではなく、現実だ。
しかも付与する道具すら無い。
何度か試してみたが、魔力を放出することはできても、特定の“現象”を起こすには至らなかった。
火も出なければ、水も出ない。傷を癒す光もなかった。
ただし——。
「力任せなら、いけるかも」
陽翔は魔力を握るように圧縮し、そのまま思いきり前方の木に向かって放出した。
ドン、と鈍い衝撃音と共に、見事に木の幹が裂けた。
手応えはあった。コツさえ掴めば、自在に出し入れできるようになりそうだ。
試しにもう一発、今度は両手を使って魔力を押し出すと、二本目の木も粉砕された。
「おお……まじかよ……!」
実感が湧いてくる。これで、少なくとも“丸腰”ではなくなった。
猛獣に襲われても、逃げるだけじゃない。自衛手段が、ある。
「自衛手段、GETだぜ……!」
思わず口にして、苦笑いする。こんな非常事態の中で出てくる言葉がそれか、と自分でツッコミを入れたくなるが、それも少しだけ心を和らげた。
ふぅ、と深呼吸を一つ。
そろそろ夜が近い。風が少し冷たくなってきた。
森の中で野宿という選択肢はあまりに無防備すぎる。陽翔は立ち上がり、次の課題に目を向けた。
「寝床……どうにかしないとだな」