4)原生林を少し探索
投稿日時
なう(2025/07/05 16:41:40)
改稿日時
簡易な装備を身に着け、陽翔はひとまず立ち上がった。
身体が葉や蔓で覆われているというだけで、外気の刺激が和らいで感じる。精神的な負担も、わずかだが軽くなった。
それでも、全身を包む不安感は消えない。
「……ちょっとだけ、見て回るか」
移動すること自体にためらいはあったが、このまま何もせず座っているのも、それはそれで落ち着かない。
ただ、無理はしない。
方向を見失わないよう、足元の目印になりそうな石や木の形を頭に入れながら、陽翔は慎重に歩き出した。
辺りは変わらず、原生林と呼ぶに相応しい風景が広がっていた。
人工的な匂いも音も、痕跡すらない。雑草が土を覆い、木々は伸びたいように伸び、光は葉の隙間からまだらに差し込んでいる。
(……やっぱり、管理されてない。完全に“手つかず”だ)
公園のような整えられた自然ではない。獣道らしきものも見えない。
動植物の気配こそあるものの、まるでこの場所が“誰にも見られたことがない”とでも言いたげな沈黙が、あたりに漂っていた。
陽翔は木の根元にしゃがみ込み、土に触れた。
少し掘ってみると、湿り気はあるが、水が湧いているわけではない。周囲を歩き回っても、小川や泉といった水場は見当たらなかった。
「水……無いな。これ、まずいかも」
視線を上げ、木の実や果実が生っていないかと見渡すが、それらしきものも無い。
地面に落ちているのは、乾いた葉や枯れ枝ばかりだ。匂いを嗅いでみたり、指先で軽く潰してみたりもしたが、どれも食べられそうには思えなかった。
その一方で、小さな生き物たちの存在は感じられた。
草むらをピョンと跳ねる影、小鳥のさえずり。
どれも人に危害を加えるほどの存在ではなさそうだ。
「とりあえず……でっかいのはいないっぽいな」
ただし、虫は多い。刺してくるタイプのやつも紛れていそうだし、毒草もありそうな予感がある。
葉の光沢や茎の色合い、妙に鮮やかな花には無闇に触れないように気を配った。
(野生の知識、もうちょっと勉強しておくべきだったな……)
不安と焦りがじわじわと迫ってくる。
このまま水も食料も見つからなければ、体力の問題が出てくる。日が暮れる前に、何かしらの方策を立てないと——。
だが、思考の隅ではまだ、どこかでこうも思っていた。
(……いや、そもそも夢なんじゃないのか、これ)
リアルすぎる“夢”。
その可能性を捨てきれないからこそ、今は冷静でいられるのかもしれない。
もしこれが本当の現実だと確信してしまえば、パニックになっていたに違いない。
陽翔は小さく息を吐いた。
探索範囲は、せいぜい数十メートルにとどめた。目が覚めた場所を見失わないよう、常に意識を戻しながら歩いたからだ。
結論として、今のところ命に関わるような危険は感じない。水も食料も発見できなかったが、逆に敵意を持つ何かもいない。
「……静かすぎるのも、ちょっと怖いけどな」
孤独感と不安は相変わらず胸に居座っているが、それでも生きている。冷静に考えられている。
それは小さな成功だった。