【第2話】回想:地球最後の記憶
投稿日時
なう(2025/07/05 16:31:39)
改稿日時
なう(2025/07/08 00:15:30)
_____その瞬間、確かに自分は「自室」にいた。
日本、関東圏のベッドタウンにある、ごく普通の一軒家。
築十数年の住宅は小奇麗に整えられており、陽翔の部屋はその二階、東向きの窓がある六畳間だった。家具といえば、折りたたみ式の机にノートパソコン、小さな本棚、ベッド、衣装ケース。どれも平均的で、誰にでもあるようなものばかりだ。
夕飯を終えた後、いつものように部屋にこもり、ゲームを立ち上げた。
最近の陽翔のお気に入りは、テキスト入力型のインタラクティブなAIゲーム。架空のファンタジー世界において、自分が創造した主人公キャラクターを通して、物語を自由に紡いでいくというものだった。
そのキャラクターは、特殊な付与魔法を持っていた。
頭の中で思い描いた現象や効果を、そのまま魔法として物体に「付与」できる能力。
「たとえば、水が出る魔法」とキーボードを打ち込めば、そのイメージ通りに、魔力を流すと水を放出する道具ができあがる。
「炎が広がる魔法」と記述すれば、まるでイメージ通りの形状・温度・色の火が現れる。
回復、浄化、浮遊、瞬間移動____
イメージと意図が正確であれば、どんな魔法でも生み出せる、まさにチートと呼ぶに相応しい力だった。
もちろん、あくまでそれは"ゲーム"の話だ。
AIとのやり取りはすべてテキストベース。思い描くだけでは何も起きず、想像した内容を詳細に文字で伝える必要があった。
だがそれが逆に面白く、陽翔は「どう書けばイメージ通りの魔法になるか」に頭を悩ませ、試行錯誤しながら没頭していた。
「このゲーム、マジで神ゲーだな……」
夜の11時をまわっていた。
家は静かだった。両親はもう寝ており、妹も自室に引っ込んでいたはず。家族との関係は平和そのもので、干渉されすぎず、かといって放置されているわけでもない、ちょうどよい距離感があった。
父は地方銀行に勤める営業マンで、やや厳格だが真面目な人。
母は専業主婦で、陽翔の体調や食事には何かと気を配ってくれていた。
中学に通う妹は、あまり兄に干渉せず、会話も必要最低限。お互いに干渉しない関係が成立していた。
(あと一回だけ実験して寝るか……)
そう思い、陽翔はテキストボックスに打ち込んだ。
《「時空間転移魔法」の魔法を付与》
対象を、好きな場所・好きな時間に転移させる魔法で、空間転移と時間移動の性質を併せ持つ。上手く使えば物体だけではなく生物にも万能に作用する可能性のある高等魔法だ。
ENTERキーを押す。
その瞬間——世界が、滲んだ。
画面が真っ白に焼きついたように光り、視界が跳ね上がり、天井が消えた。
身体が沈むような浮くような、重力の無い感覚。
まるで夢と現実の境目が曖昧になり、全てが溶けていくような——
そして、目覚めたのが"あの森"だった。